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あの時の海は、きっと青かった 3



 ぼくは優が好きだ。今ぼくの隣にいる、優。

 涙が星空をにじませた。

 たくさんの思い出が今のぼくを形作ってくれた。それはきっと優にとっても同じだろう。そんなかけがえのない全ての思い出を乗せて、ぼくは言う。


「別れよう」


 頬を雫が伝った。

「……だと思った」

 優が湿った声で言った。

「もしよかったら、理由を教えてくれる?」

 もしよかったら、と付け加えるところが彼女の気づかいだ。

「ぼくは……君の枷になりたくない」

 後半は嗚咽交じり。ぼくの声は情けなく裏返ってしまった。



 彼女は留学が決まっていた。四月からアメリカに渡り、語学学校に通う。九月からは晴れて大学生。

 優はこれから学びたいことを存分に学ぶのだろう。新しい環境で苦労もするだろう。たくさんの新しい出会いもあるだろう。辛いことがあっても乗り越えていかないといけないし、楽しむべきことは存分に楽しんで欲しい。


 でも、優の新しい世界の中にぼくはいない。


 優がもしぼくを必要とすることがあっても、ぼくは近くにいることすらできない。それどころか、ぼくの存在がこれから広い世界に羽ばたこうとしている優の邪魔になるかもしれない。

 だったら、

 ぼくは優が好きだから、

 ぼくは君の彼氏でいてはいけない。



「一年と十日」

 優が言った。

「あなたの彼女で幸せでした」

 あぁ……だめだ。

 自分で別れを告げておきながら――。ぼくにそんな資格などないことは分かっている。

 でも、次々に浮かびあがる優の笑顔、声、思い出――。

「今までありがとう。好き」

 せき止められなかった。腕で顔を覆う、押し付ける。すぐに袖がぐしょぐしょになった。

 手にあたたかいものが触れた。何度もつないだ優の手だとすぐに気づいた。

 ぼくは目に押し当てている腕をほどいた。

 そこには、覆いかぶさるように優がぼくを見下ろしていた。ただでさえ暗いのに、夜空の逆光で優の表情は全然見えない。でも、きっと優しく笑っているような気がした。

 優は両手でぼくの頬を包む。

 そしてぼくたちは最後の口づけをした。



 砂の道を戻る。来た時と同じように、携帯電話のライトで足元を照らしながら。そして、後ろを一人の女の子が続く。二人縦に並んで歩いている。

 ぼくと彼女はもう手をつないでいない。恋人ではなくなったから。

 ただ、

「いいでしょ、これくらい。それに夜道はぐれたらどうするの」

 そう言う彼女は、ぼくの服の袖口をつまんでいた。


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