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大学連合第七首都大学、Alley mur mur事務所は暗い雰囲気に包まれていた。
「自衛隊は?」紗彩は叫ぶ。
モニターに、F-35のカメラが映し出される。隣に、レーダーの画面も3D表示される。
らーだーには、そのF-35。そして、画面の三分の一を覆い隠した黒い塊。
「おい!嘉手納だ!火山灰の中に突入する、援護しろっ」
「馬鹿野郎!死ぬ気か!?」支援センターからか、殆ど音が割れている声。
「命令だ!自衛官として、突入は許さん、待機しろ!」別の自衛官の声。
「くそったれ!」
「電波はどうだ?」
「真っ暗だ。全く通らない」混乱したような声。先ほどの飄々とした態度から一変している。「少しも通らない。一ビットもな。あと、悪いニュースだ。コンパスがさっきからずれている」
「磁気か?」
「ああ、衛星情報で何とかしているが……」
「向こうは、電波が届かない、か」
「あいつらが積んでる燃料は?」
「あと、四十分だ」
「氷川、聞こえますか?聞こえたら返事を!」
事務所の中を見渡す。
レナが呆然と立ち尽くしている。
リオンがその肩を抱いている。
誰もが、画面を凝視している。
時が止まり、空気が凍っている。
誰も動いていない。これは拙い。
「みんな!」叫ぶ。泣きたい気持ちを雁字搦めに縛り上げ、机を叩いた。「情報を整理する。レナ!」
レナが、黙ってこちらを向く。泣きそうな顔。リオンがこちらを睨む。「黙れ」と顔に書いてある。怯まずに続ける。「いい?まだ死んでるわけじゃない、死体が見つかったわけじゃない、残骸が出てきたわけじゃない。死んだのか、生き残ったのかは後で決める、今は助けることだけ考える」
ようやく、時間が回り始めた。
それぞれが、ようやく別の動きをし始める。
「仕事が分からない人はこっちに」
組織は、血を廻さなければ死ぬ。必要なのは、電気ショックだろう。
「飛行中の電子戦支援機、聞こえますか?」
「嘉手納だ。どうした?」
「火山灰は低空まで覆っているのですか?」
「最初の方は大丈夫だったが、もう降灰が始まっている」
「逆に、上は?」
「危ない。駄目だ。それに、この機体は余り下方向の電子支援に強くない」
「分かりました。よろしくお願いします。えっと、FCSの方ではどうなっていますか?」
「北芝ナツだ。FCSの責任者だ。何?」
「火山灰の中から、生還する方法は?」
「無い」
「本当にないんですか?」
「無理だ。無動力の飛行機で、視界ゼロの中をどうやって逃げる?しかも、乗っているのは足の遅いピタラス・ターボポーター。旅客機とか、抵抗の低い速い機体なら真っ直ぐ進んでいればかなり進める。重いから、気流の影響も少ない。ターボポーターじゃ無理だ」
「分かりました。不時着している可能性は?」
「嘉手納が言っていたように、最初の方は低空だけはクリアだった。こっちの松本がレーダー情報を解析したけど、降下率と大きさから考えて、飛行機が正常な状態で降下した物体は無かった」
「つまり?」
「吹き飛ばされた岩か」彼女はそこで切る。溜息が聞こえてきた。「空中分解した、機体だ」
「……わかりました。ありがとうございます」
沈んだ気持ちを切り替え、第一大の報道に情報を回す。
「もしもし?報道の北村だ」
「もしもし。何?」紗彩は答える。
「今回ってきたソースは?」
「自衛隊、FCS。ドキュメンタリーの取材でFCSには伝があった」
「今晩、そこに人を回す。紹介状を用意しておいてくれるか?」
「分かった。ちょっと待って」受話器から口を話す。「リオン!そういうの得意だよね、よろしく」
リオンが片手を上げた。「OK。メッセージで回す。他には?」
「新しい情報は?」
「ない」
「分かった」
「生きてたら、電波が飛んでくる」
通話が切れた。
リオンが書類を作成しようとタブレットを起こす。作業に入る前に、心配そうな目でレナを見た。
「お姉ちゃん……」
無表情で、息の摩擦音だけ残し、「よぉし」とこぶしを握る。
「編集長!」
「副、ね」
「何すればいい?」
「いま、報道に全部任せっぱなしだから、映像が来た場合に備えてテンプレートを作っといて」
「オッケー」
溜息をついた。
「帰ってきてよ……」顔だけモニターに向けて、そっと呟いた。目は、どこも見ていない。「頼むから………………」
それは、彼女が、彼女に許したたった一つの弱さだった。
一瞬後、彼女は既に「リーダー」になっていた。
きっと、生きていたら返答があるはずだ。




