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Bush Pilot  作者: フラップ
第四章
18/27

4-5


 「カメラが壊れるから、そうだね、記録したかったら、そこのクッションを間に挟んで、横抱きに身体に押し付けて」ちらりと彼女を見て言う。信じられない事に、彼女はずっとカメラを回していた。尋常な体力ではない。ぴんぴんしている。正直言って、少ししたらグロッキーになるだろうと思っていた。

 乱気流は機体を揺らす。だが、そろそろ慣れ始めていた。Gメーターを見る。まだ4G。勿論、かなり大きいが、耐えられる。しかし、普通の機体では構造が無事でも操縦できなくなるだろう。

 スロットルを絞るのを我慢。今絞ったら、操縦不可能になる。舵がよく効くためには、速度が不可欠なのだ。

 ラダーペダルを蹴っ飛ばし、操縦桿を振り回し、機体を何とか降下させる。操縦の全てが条件反射。一瞬前にどういう操作をしたのか、全く思い出せない。

 それは、まるでダンスのようだった。

 空気にシェイクされるがまま、方向だけ保って進む。逆らうのではなく、流されない。逸れないのではなく、戻す。それをずっと繰り返す。

 地面に、ゆっくり、ゆっくり近づけようかと思ったが、方針を変える。一度上昇。

 隣の彼女が、驚いた顔でこちらを見た。速度計を見た。スロットルレバーを前方に叩きこむ。彼女が口を開いた。

 「諦めるんですか?」

 「やるから黙れ!」思わず叫ぶ。汗が目に入る。

 息が切れてくる。

 広場が見える。機首の下に隠れて見えなくなるまで待つ。

 低空飛行するのは、危険だ。下手すると、タッチアンドゴーもできない。

 見えなくなった瞬間、プロペラをフェザリングに。一気に操縦桿を下げる。

 躰がまるで前方に投げ出されるかのような感覚。

 マイナスG。

 内臓がせりあがる。

 頭が前に出るのを、ヘッドレストに押さえつける。

 機体はつんのめるように急降下。

 プロペラは猛烈な抵抗を生み出し、ロープに向かって真っ逆さまに落ちていく。

 寸前で、操縦桿を、

 引く。

 顎を引いて、何とか前を見る。

 スロットルをカット、

 直後、すごい力で前方に身体が引っ張られる。

 ロープをちゃんと引っ掛けたようだ。

 ブレーキ。シートベルトを外す。

 その瞬間。

 地響きが始まった。

 「……、これは……」

 隣の彼女は反応がない。

 気にする余裕さえない。向こうから、六人が何も持たずに走ってくるのが見えた。

 何とか席から抜け出し、ドアを開ける。乗り込んだのを確認。音のする方を見るのが怖かった。

 「とっととシートベルトを……」言い切らない。言い切れない。

 窓に張り付く。

 真っ赤な炎。

 信じられないぐらい、紅い。

 水母のような煙が、立ち上り、

 音が消える。

 狂気的な焔。

 爆音に気づく。

 光。

 遠いはずの熱。

 破壊。

 火花。

 舌打ちをする。全然聞こえない。

 全員、居るな!

 声にならない声をあげ、操縦席へ。起きた水口がカメラを回す。後ろに6人いた。申し訳程度にシートベルト。スロットルを緊急出力へ。簡易のスイッチを跳ね上げた。

 煙が追ってくる。

 ロケット・ブースターの点火に時間を取られている。

 間に合うか。

 加速。

 加速度。

 荷重。

 主翼の下のロケットブースターが火を噴く。

 粘って、引き起こす。

 フラップを下げっぱなしだった。寧ろよかった。引き上げる。

 機首を上へ。

 ロケットブースターが切れる。

 パイロンから、投下。

 逃げる。

 だが、乱気流のせいで真っ直ぐに進めない。

 コンパスは気が狂ったように回る。

 姿勢指示器は単振動を描く。

 視界を、闇が覆った。火山灰だった。

 エンジン出力が目に見えて下がり始める。

 「大丈夫ですか?」水口が声を出す。

 大丈夫では、なかった。

 エンジン音が下がり始める。

 エンジンは喘いでいる。今まで聞いたことのない音だった。プロペラもこのままではまずいだろう。

 頭をヘッドレストに凭れさせる。

 溜息をついた。

 顔面から血が下がる。

 エンジンを切る。

 機首を下げた。

 プロペラをロック。

 急いで、計器を確認する。

 速度計も、高度計も、火山灰のせいで狂っている。

 どちらも、空気圧の差で検知している。火山灰の圧力というのがどんなものかわからないが、ピトー管に火山灰が詰まったら間違いなく数値が狂うだろう。

 「こちら氷川、聞こえるか?」一縷の望みをかけ、交信しようとする。

 「……きこえ………こ………………か?…………………………」最初は聞こえていたが、どんどん聞こえなくなっていき、最終的に何も聞こえなくなった。

 全員がこちらを見ている。

 姿勢指示器を見る。適正な降下を何とか保つ。

 直後、機体は左にひっくり返される。一気に90度以上バンクする。

 慌てて右に戻し、進路を保つため右へ。しかし、コンパスも噴火のせいで使い物になっていない。目分量で旋回していると、下から突き上げられるような感覚。操縦桿を押しても変わらない。

 普通の飛行機ではありえない動きだが、彼には覚えがあった。

 趣味で飛ばしているグライダー。その上昇気流に当たったときの挙動だ。

 そうと分かり、さらに右、サーマルの中心へ。

 さらに突き上げられる。

 旋回しながら上昇。

 「火山灰が高温だからか?」呟く。

 「あの、大丈夫ですか?」水口がこちらをのぞき込む。

 「いや、全然大丈夫じゃない。まずい」

 彼女の顔が青くなる。

 「でも、もしかしたら生き残れるかもしれない」サーマルを外れてしまう。

 慌てず、水平に。操縦桿を前に突っ込んんで降下。

 サーマルの周りは、下降気流であることが多い。

 「生き残る」深呼吸する。「生き残るぞ」

 水口はカメラを回し始めた。しかし、外は真っ暗だ。

 電気を節約するために、機器の殆どを切る。

 真っ暗闇の中の、サーマル・ハンティング。

 ロデオのように、右へ、左へ。

 頼れるのは、ごくごく一部の原始的な機器。そして、自分の直感。

 それだけだ。


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