一番にはなれない
婚約破棄ものに便乗しようと思ったら…?
「婚約破棄だ!アレクサンドラ!私はセシリアを妃にするのだ!!」
「サミュエル殿下!?」
「いいですわよ。絶対に妹を幸せにすると約束できるのであれば」
「アレクお姉さま!?」
「そんなこと決まっているだろう!セシリアは私といれば幸せなのだ!」
「決めつけはよくありませんわ。セシリアといて幸せなのは貴方だけではなくて?」
「お姉さま…」
「なっ、この減らず口が!お前の邪魔さえなければセシリアだって…!なぁ!セシリア!」
「……殿下、」
「いいのよ、セシリア。遠慮せずに言いなさい」
「そうだぞ!セシリア!遠慮なく言ってやれ!」
「わ、私は……」
どうしてこんなことになってしまったのか。
公爵令嬢セシリアは姉のアレクサンドラと王子のサミュエルに挟まれて狼狽えた。
ディラルレイ公爵家の姉妹はとても仲が良かった。
姉のアレクサンドラは艶やかな黒髪にキリッとした黒曜の瞳、左目下と目尻にある二つのほくろが色っぽく、女性にしては長身ですらりとたおやかな令嬢。
対する妹のセシリアは豊かな金髪に丸く大きな翡翠の瞳、ふっくらとした唇はいつも絶えず笑みを浮かべ、小柄で華奢だが肉感的な令嬢。
対照的な二人は常に行動を共にするほど仲睦まじい。
滅多に笑わないと定評のアレクサンドラの笑顔を引き出すのはセシリアであったし、常ににこやかなセシリアを真顔で感涙させるのはアレクサンドラであった。
しかし二人は血の繋がった姉妹ではない。
アレクサンドラは正統なディラルレイ公爵家の実子だが、セシリアはその見目麗しさによって孤児院から引き取られた養子だった。
実子と養子の扱いに差はない。
むしろ愛嬌のあるセシリアの方がディラルレイ公爵夫婦に可愛がられている。
それ以上にアレクサンドラのセシリアへの溺愛ぶりは凄まじい。
元々孤児院にいたセシリアを見出し、公爵家に迎えたいと言い出したのもアレクサンドラであった。
アレクサンドラは第一王子ラファエルの婚約者で、ゆくゆくは王妃になることを嘱望されていた。
ラファエルは良くもなく不可もなくといった平凡な王子であった。
第三王子サミュエルの方が才覚も母親の実家の権力もあり、臣下からはサミュエルを王太子にという呼び声が上がっていた。
王位争いに発展することを恐れた王はラファエルに女傑と名高いアレクサンドラを婚約者にすることで事を収めた。
男児がいないディラルレイ公爵は育ててきた優秀な後継者を横取りされて憤慨していたが、ラファエルがアレクサンドラに一目惚れしてしまい婚約は強引に成立させられた。
否応なしに権力抗争に巻き込まれた当の本人であるアレクサンドラはラファエルにも権力にもまったく興味がなかった。
それよりも後宮に入ってしまえばセシリアと引き離されることをかなり嘆いていた。
セシリアも毎日のように泣き明け暮れ、養父のディラルレイ公爵にどうにかして婚約を放棄できないかと詰め寄った。
しかし、権力を前には屈するしかなく、大切な姉を取られると焦りに焦ったセシリアはのちに驚くべく行動に出るのだった。
ラファエルは愛しの婚約者との逢瀬に夢心地であった。
どんな甘い言葉を尽くしても、どんな美しい宝飾品を貢いでも、アレクサンドラはちっとも靡かない。
そんな様子にもラファエルは惚れ惚れしていた。
平凡な王子は御しやすい利用しやすいだろうと色んな人間が接触を図り、媚びへつらってくる。
これといった才能のないラファエルだが、それらの経験により人を見る目だけは確かだった。
そんなラファエルから見て、アレクサンドラは後光を背負う聖女に見えた。
厳格で公平で聡明で、一見冷たく見えるも、実は愛情深いのだ。
もっぱらその愛情はセシリアのみに注がれているが。
ラファエルは聖女とまで崇めるアレクサンドラについて周囲にこう語っている。
「アレクサンドラのまなざし一つで憂さが晴れ、ことば一つで自信が溢れ、側にいるだけで生きる喜びを感じるのだ」と。
一途に恋するラファエルは精力的に王子の仕事をこなし始めた。
しっかりしだしたラファエルと裏で絶妙な采配を振るうアレクサンドラの組み合わせを、これで国の将来も安泰だと誰もが認めていた。
ラファエルの成人と共に、王太子に指名、アラクサンドラとの婚姻を執り行う予定だった。
それまでは今まで通り、王族貴族の子息令嬢たちの学び舎である学園に通っていた。
セシリアは入学当初、孤児院からの養子ということで他の令嬢たちにいじめられ、爪弾きにされていた。
妹を溺愛するアレクサンドラがそんな暴挙を許すはずがなく、令嬢たちを牽制し諌め、時には制裁を与えた。
次期王太子妃となった今ではアレクサンドラに立てつく者など皆無である。
この頃はアレクサンドラとの繋がりを欲する者がセシリアに媚びを売るようになっていたが、最近セシリアの評判はまた悪くなっていた。
何故かというと、セシリアがしきりにラファエルに付き纏うからである。
「私もラファエル様の妃にしてください!」
「セシリア嬢、申し訳ないが、私の妃はアレクだけと決めている」
「アレクお姉さまをただ唯一愛されるそのお気持ちは、私にもとってもよく分かります! 」
「分かってくれるなら、どうか身を引いてほしいな…」
「いいえ!引けません!お願いします!どうか私も妃に!!」
「無理だよ」
このような応酬が度々見かけられ、セシリアは「姉の婚約者に色目を使う卑しい女」と周囲から叩かれた。
心配したアレクサンドラや世間体を気にしたディラルレイ公爵がセシリアを止めるが、セシリアは頑なだった。
セシリアに言い寄られているラファエルはアレクサンドラ一筋なので一切揺らがない。
それにラファエルだけがセシリアの行動の意味を理解していた。
だからこそ余計にセシリアに屈しなかった。
しかし、セシリアを無下に扱うと後でアレクサンドラが怖い。
ラファエルは仕方なしに毎回丁重にセシリアの相手をしていた。
必死の申し出を断られ、悲痛な面持ちで涙を浮かべるセシリア。
そんなセシリアの健気さ?を見て、恋に落ちた男がいたなど、この時誰も知る由もなかった。
ラファエルが不慮の事故で突然亡くなった。
これからだとやっと期待されていた王子の死を周囲は大いに惜しんだ。
しかし一方で第三王子サミュエルを支持していた派閥は活気づいていた。
王もサミュエルを王太子にすることを承認した。
アレクサンドラを妃に据えることを条件として。
王はアレクサンドラの優秀さをいたく気に入っていたし、サミュエル支持派もその実力は認めていた。
結果、サミュエルの王位を確固たるものとするだろうということで、アレクサンドラは義弟となるはずだったサミュエルの婚約者に急遽されてしまった。
アレクサンドラはその件について何も言わなかった。
一重にまったく興味がなかったからである。
しかしラファエルの死に関しては、さすがのアレクサンドラも珍しく涙を見せ、心から悼んでいた。
泣くアレクサンドラを、セシリアはあたふたしながら慰めた。
抱き締めあう姉妹の姿に、ディラルレイ公爵は安堵し、以前のセシリアの悪口も終息しつつあった。
かのように思われた。
アレクサンドラはしばらく公爵家でラファエルの喪に服すことになった。
初めて姉の弱ったところを見たセシリアは大きな後悔に襲われていた。
一見ラファエルの片想いのように見えていたが、アレクサンドラもちゃんとラファエルを想っていたのだ。
相思相愛のふたりの仲をいたずらに乱し、あまつさえこんな悲劇が起こってしまった。
二人の幸せを奪ったのは自分だとセシリアは己を責めた。
ディラルレイ公爵の言いつけでセシリアだけは学園に戻った。
本当はアレクサンドラの側に付いていたかったが、居た堪れなさに大人しく従った。
学園では突然の王子の死に様々な声が飛び交っていた。
嫉妬に狂ったセシリアがそう仕組んだ、とか、サミュエル王子の派閥に暗殺された、とか、取り留めのないものだった。
しかし中でも普段は隙を見せないアレクサンドラが伏せっているのには、同情する声が多く寄せられた。
直接セシリアにアレクサンドラを案じて様子を尋ねる者もいた。
ますます自責に苛まれるセシリアにサミュエルが声をかけてきた。
「お前を私の妃にしてやろう、セシリア・ディラルレイ」
アレクサンドラはセシリアのすべてだった。
あの息苦しい孤児院から救い出してもらった時から。
大好きな姉、でも本当の姉妹ではない。
どれだけ公爵夫婦に可愛がられていても。
ラファエルにアレクサンドラを取られた時、とても悔しかった。
離れなくない一心で、自分もラファエルの妃になればずっとアレクサンドラと一緒にいられるなんて馬鹿なことを思っていた。
生前ラファエルはこっそりよく言っていた。
「君がいたら私はアレクの一番になれないし、アレクも幸せになれないんだよ」
言われた時は意味が分からずラファエルに対して怒ったが、今ならば分かる。
アレクサンドラはいつだってセシリアを一番に考え、優しくする。
自分のことなんて平気で二の次、三の次にしてしまうだろう。
セシリアがいると、アレクサンドラは自分の幸せを考えない。
ラファエルは依存し合って幸せになれないという本質を見抜いていたのだ。
実は裏でアレクサンドラが婚約を破棄するか、セシリアの要望を飲むかをラファエルに何度も迫っていたことをセシリアは知っている。
それをラファエルはニヤニヤしながら「君を愛しているんだ」とキザな言葉で誤魔化していつも躱していた。
よくよく考えてみれば、賢いアレクサンドラがそんな程度で丸め込まれるなどおかしいのだ。
その時点で、アレクサンドラの想いに気付くべきだった。
セシリアはサミュエルを呆然と見上げる。
話があるから、と呼び止められ、空き部屋に連れ込まれた。
だが、言われた内容は一切理解できなかった。
サミュエルはラファエルと違い、才能も権力もある王子。
もしラファエルがアレクサンドラと婚約しなければ、確実に王太子に選ばれていただろう。
しかしラファエルは死に、要とされるアレクサンドラとも婚約し、あっという間に次期王太子になった。
「…今、なんと……?」
「聞こえなかったのか?私の妃にしてやると言ったんだ」
生まれた時から王になるのだと教えられて育った。
双子の兄がいたが、どちらも王の器ではないという。
その内、片方が隣国へ留学したきり戻ってこなくなった。
そうするともう片方は部屋に籠りきりになった。
まあ、そんなことはどうでもよかった。
周囲はやたらと兄たちと比べたがり、王に相応しいと囃し立ててくるが、正直王位に興味はなかった。
興味はなかったが、どうせそうさせられるだろうと思っていた。
しかし予想外なことに、国に残っていた兄を父は王にしようとした。
ディラルレイ公爵令嬢のアレクサンドラを婚約者につけて。
厚かましく我が物顔で城に出入りして、図々しく周囲に口出しするあの女のことは嫌いだった。
しかし学園での出来事は本当に笑い草だった。
元孤児のたかが養子の妹に婚約者を誘惑されるとは。
やわらかく波打つ金髪に愛くるしい緑の瞳、と元庶民とは思えない美しい娘だった。
それにあの女みたいに背がでかくもなく、貧相な身体つきでもない。
それでも馬鹿で目が節穴な兄は誘いを断っている。
一度くらい遊んでやればいいものを、勿体ない。
ディラルレイ公爵家の弱みが握れるだろうとあの娘に近づいた。
そしてあわよくばお零れでも貰ってやろうと。
優しくすればすぐに落ちると思っていた。
しかし、あの娘は兄に飛びつくばかりで、私のことなど見向きもしない。
「(私ならば大切にしてやるのに…)」
そう考えてハッとした。
気付けばあの娘を目で追っていた。
兄に何度袖にされてもめげず、頬を赤くさせて詰め寄っている。
何を言われたのか涙を滲ませ、しかしそれを我慢する姿は相当ぐっとくるものがある。
彼女に言い寄られる兄が憎らしかったが、それ以上に、どんな酷い言葉を浴びせたのか、明るい彼女を真顔で泣かせるあの女には怒りを覚えた。
自分が彼女を救わなければ―――。
セシリアがラファエルに言い寄っていた頃、アレクサンドラ以外でサミュエルだけが優しかった。
そして何度もラファエルを諦めるように言っていた。
聞く耳を持たなかったセシリアだが、サミュエルを兄想いな人なのだと密かに感心していた。
だから、ラファエル亡き後、忘れ形見のアレクサンドラを無下にはしないだろうと考えていた。
「どうして…?」
「私ならお前を大切にしてやる。妃にもしてやるぞ」
「貴方は、お姉さまの婚約者です」
「……あの女に何か言われたのか。心配するな。私が守ってやる。」
「違う!お姉さまは私を責めたことなんて一度もありません!!私はもうお姉さまの邪魔をしないと決めたのです!!」
「あの女が邪魔するのだな…?本当に鬱陶しい奴だ」
サミュエルに不穏なものを感じ、セリシアは後ずさる。
不意にセシリアはラファエルの眼差しを思い出した。
甘く優しく穏やかにアレクサンドを見つめる瞳を。
その奥にくすぶる熱を。
「大丈夫だ。私たちの邪魔は誰にもさせない」
そんなラファエルと同じ熱をサミュエルも宿している。
もっとギラギラしく、壮絶で、苛烈なものだが。
セシリアは怖くなった。
どうしてこんなことになっているのかと。
「やめて…私は貴方の妃になんてなりません…」
それから幾度も拒絶の言葉を重ねてもサミュエルは信じなかった。
しまいには身体を押さえつけられ貞操を奪われそうになった。
必死の抵抗で難を逃れたが、サミュエルはしつこく付き纏ってくる。
それを見た周囲はまたセシリアを「尻軽女」「阿婆擦れ」と手酷く非難した。
いつもは助けてくれるアレクサンドラはいない。
セシリアは孤軍奮闘するしかなかった。
そうしてついに、セシリアとサミュエルの噂を聞き、他の令嬢からのいじめを案じたアレクサンドラが予定より早く学園に復帰した。
サミュエルの方も待っていたとばかりに、公衆の面前でアレクサンドラに対して声高らかに婚約破棄を言い渡した。
「婚約破棄だ!アレクサンドラ!私はセシリアを妃にするのだ!!」
「サミュエル殿下!?」
周囲は驚き、呆れ、そして怒った。
しかし次期王太子のサミュエルに面と向かって反論できる者はいなかった。
アレクサンドラはいつもの冷静なままでサミュエルに対抗する。
「いいですわよ。絶対に妹を幸せにすると約束できるのであれば」
「アレクお姉さま!?」
「そんなこと決まっているだろう!セシリアは私といれば幸せなのだ!」
「決めつけはよくありませんわ。セシリアといて幸せなのは貴方だけではなくて?」
「お姉さま…」
「なっ、この減らず口が!お前の邪魔さえなければセシリアだって…!なぁ!セシリア!」
「……殿下、」
「いいのよ、セシリア。遠慮せずに言いなさい」
「そうだぞ!セシリア!遠慮なく言ってやれ!」
「わ、私は……」
やりとりを見ていたセシリアは目にいっぱいの涙を溜めていた。
アレクサンドラはまだこんな自分のことを想ってくれている。
そしてサミュエルに勝手に言い寄られていることをアレクサンドラは分かっているのだ。
すぐにでもアレクサンドラの手を取りたかったが、セシリアは少し迷った。
このままサミュエルの申し出を断れば、ディラルレイ公爵家はサミュエルから目の敵にされるだろう。
今まで大切に育ててもらった公爵家には返し切れない恩義がある。
自分のせいで公爵家が潰されるようなことになったら……。
ラファエルが亡くなって、アレクサンドラは公爵家に引き籠った―――ふりをしていた。
次期王太子が死んだのだから、しっかり調査をしなければならない。
しかしどうやらサミュエル支持派の手が回ってしまっているらしい。
アレクサンドラは王からの密命を受けて、ディラルレイ公爵家の工作員を動かした。
それに加え、アレクサンドラはとある人物と接触を図った。
「うん、間近で見るとほんと素敵な女性だ」
「…近い」
「ははは、これは失礼」
ラファエルと同じ顔、声、笑い方の男。
隣国へ留学したきりまったく帰って来ない第二王子ミカエルである。
「ラファとは全然似てないのね」
「…へぇ、そんなこと初めて言われた!ますます惚れちゃうよ」
「物好きな男はラファだけで十分よ」
「妬けるなぁ…。ラファの代わりでいいから、私のことも見てよ」
「代わりにはなってもらうけど、見る気はないわ」
「ひどくきっぱり言うね…。ま、私の物になるんだからいいか」
ミカエルは甘やかに優しげに穏やかに、しかしその奥に熱情を燃やして、アレクサンドラをうっとり見つめた。
その視線を不快そうに、アレクサンドラは眉にしわを寄せながらも、懐から巻物を取り出し読み上げた。
「国王陛下からの勅命です。第二王子ミカエルを王太子に指名することをここに宣言する」
「謹んで承りました、と。これからよろしくね、私のお妃さま。私のことはミカと呼んで」
「ミカエル殿下、急ぎ城へお戻りください」
「ミカ、だよ!アレク」
「馴れ馴れしく愛称を呼ばないで下さい、ミカエル殿下」
「ミカ…」
「ミカエル殿下…」
決断を迫られ躊躇うセシリアにふと、ひとつの影がさした。
「君がいてもいなくても、私はアレクの一番になれないから、別に貰ってあげてもいいよ」
「愛称で呼ばないで下さい。それに何ですか、セシリアに対してその物言いは」
すぐにアレクサンドラから突っ込みがあったが、周囲はそれ所ではなかった。
サミュエルも、顔をあげたセシリアも、現れた人物を見て驚いた。
「ラファエル様……」
「違うよ」
「…お前、もう片方か!」
「生意気な弟だなぁ」
「そちらはミカエル殿下です」
「もう、ミカって呼んでよ!アレク!」
「愛称で呼ばないで下さい、ミカエル殿下」
ラファエルとそっくりな容姿の男の登場に一瞬幽霊かと思われた。
アレクサンドラの紹介で正体が分かっても、その場は騒然としていた。
セシリアも状況についていけず、動揺を隠し切れない。
「で、君の返事は?」
「はい…?」
「アレクは私の妃にすると決めているけど、君も貰ってあげてもいいよ」
「……貴方はアレクお姉さまを愛してる?幸せにできる?」
「愛してるよ。けどきっと彼女を幸せにはできないかな」
「どういう意味…?」
「それをできる奴は死んだ」
「……。」
「…でも、君がいればできるよ」
「え?」
「君がいれば、あいつほどじゃないけど、アレクは幸せなれるよ」
「私がいても、いいの…?」
「お互いもう一番にはなれないけどね」
「だったら、私は……」
サミュエル並びにその一派は、ラファエル殺害の罪状で処刑された。
そうして第二王子ミカエルが王太子となり、王太子妃にはアレクサンドラが、側室にはセシリアが両脇を固め、ミカエルを支えた。
セシリアが側室になるのには多くの反対があったが、実は隣国の王の庶子だったということが判明し、隣国の王女としてミカエルに嫁ぐということで周囲を納得させた。
後世の書物には二人についてこう記されている。
「内政はアレクサンドラ妃、外政はセシリア妃、この二人の妃の内助の功があったからこそ、賢王ミカエルの治世は最上治だと謳われるのである」と。
しかし後に見つかるアレクサンドラの日記ではミカエルをこう評されている。
「兄弟を殺した冷酷王」と―――。
ポッと出の第二王子ミカエルに最後せんぶ持っていかれてる(笑)
あらら?こんな予定ではなかったのに…。
ラファエル!殺す気はほんとなかったんだよ!ごめん!