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星々の祈り、砂漠の涙  作者: 新月
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 天は青く、左手に連なる岩山は赤い。

そして足下、際限なく広がる黄砂を一定のリズムで踏みしめながら、二頭の駱駝が進んでいた。

先を行く一頭は白衣の男を乗せ、後続は荷を負い東を目指す。

照り付ける太陽に男は顔を下げ、まるで与えられる熱を従順に受け入れているように、黙々と進んで行く。

 その単調な景色をどれ程進んだ頃だろうか。

舞い上がる砂煙の中に、一つの城郭都市が現れた。

規模は大きくないが、この都市が豊かな泉を持つオアシスだということを、旅人は商人に聞いて知っていた。

陽も赤く傾いてきた頃だ。

旅の空の仮の宿り、それを求めるため旅人は城門を目指す。

そしていくらもしないうちに、風に舞い上げられる砂の中、男と駱駝の姿は蜃気楼のように消えていった。


 「酒は飲まない、煙草もしない、女は目の前を泳がすだけ。――アンタ、それでも男かい?」

女は苛立ったように立ち上がり、寡黙な、自分を断じて近づけようとしない男を見下ろしながら言った。

「何のために高い金払ってアタシを呼んだんだ!」

美しく弧を描く眉をきりきりと跳ね上げて、女は詰め寄った。

男は驚くでもなく、ゆっくりと視線を上げて女を見た。

「――俺は、女はいらないと言った。宿屋の主が女を買わなければ泊められないと言っただけの話だ」

ようやく口を開いた男の言うことは、娼婦としての女にとって取り付く島もない事だった。

端的な言葉には情欲の欠片も感じ取ることはできず、女は更に神経を逆なでされるのを感じた。

男をにらみつける。

女が部屋に来てからもう二時間以上たっていた。

その間女は甘えても、誘ってもみた。

仕草の一つ一つにしなを作り、男達が好むような甘くまとわりつく声、娼婦らしい面倒のない愛嬌を携えて、受け付けようとしない男の態度を引きずり落とそうとした。

しかしそれらはどれも功を奏さず、男の実直ですらある視線に行き会ってしまう。

酔わせて無理に事を運ぼうにも、決して酌を受けようとしない。

ただ静かに、男は手元の茶を飲むだけだ。

そして何故自分を呼んだのかと問えば、ただ一晩の宿をとるのに必要だっただけだという。

女にも娼婦としての――それはある意味とても悲しい――意地がある。

買われた相手に何も求められないとすれば、自分の価値が、無論娼婦としての忌まれる価値だとしても、その自分が唯一持ちうる価値を否定されたようで、どうにもやるせない様に思われた。

男はそれ以上、口を開かない。

憤懣やるかたなき思いを一つの激しい息に逃がして、女は背を向ける。

男はやはり黙したまま。

「――……っ…。」

もう一度息を、今度はため息をついて、男に目をやったがどうのしようもなく、転じて格子越しの窓外を見る。

細い三日月が浮かぶ天は雲一つなく、この小さなオアシス都市の夜は、昼と一転酷く冷える。

薄い紅色の多くの刺繍が施された衣の下で、女は外の寒さを思い出したかのようにふるりと肩を震わせた。

ふと、風に乗って同じ娼館内で繰り広げられる饗宴の声が聞こえてくる。

男と女の笑い声がわっと高まり、またその二種の声がからまりもつれて、そうして風と共に去ってゆく。

――ああ、これだ。

女はぼんやりと思った。

それは妙な居心地の悪さを感じる現状とはかけ離れた、とても馴染み深い音だった。

酒でうやむやにされる理性と矜持、そして出口を求める情欲とが紡ぎだす、きらびやかで一見華やかでその実唾棄したくなるような、醜悪な夢。

毎晩見知らぬ男と交わされる盃と安っぽい夜。

ごく当たり前に自分が身を置く、淀んだどぶの様な世界だ。

「……」


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