救いの手
真は予知夢を見てからすぐに支度をすませ登校した。
学校に着いたのはいつもより一時間程早くだった。
まだ生徒は朝から勉強をする数名しか登校していない時間帯だ。
「はぁ…はぁ…」
ここまで全速力で走ってきた真は膝に手をついて呼吸を整えていた。
焦って学校に早く到着してみたが、まず何から手をつけていいのか分からなかった。
とりあえず、今日何者かが学校に侵入してきて大変なことになる。って伝えてもどうして?と聞かれれば自分がオズであるということを正直に話さなければならない。
でも、これはクラス全員の命に関わるかもしれない程危険な事態に繋がる可能性が高い。
早く手を打たないと取り返しのつかないことに…
「あー!奥橋真ね!?」
「!?」
声のする方向を振り向くとそこにはスタイルがモデル並の金髪碧眼の美女がいた。
「…どちら様でしょう?」
「オズ学園から来た女神のステラ・ウォーカーよ!」
あ、オズ学園の人か。ってか、女神って…?
「…おはようございます」
「とりあえず挨拶しておこうって顔してるわよ?」
…私はそんな顔に出やすいタイプなのか?
「奥橋真…あんたは私の中丸を…!」
なんで私は金髪碧眼美女に睨みつけられる程の恨みを買われているのだろう…
全く心当たりがない。どうやら中丸先生が関係しているようだ。
「中丸先生の彼女さんですか?」
「そうよ」
おぉ!即答。美男美女カップルですか!目の保養になるだろうなぁ~
「あの、私何か悪いことでもしましたか?」
「えぇ、したわよ!あなたは私の彼氏の中丸を誘惑していたじゃない!」
「…は?」
何を言っているんだろうこの人は。
私が中丸先生を誘惑?いつのことを言っているのかわからないけどそんなことした覚えは一切ない。
というか、たとえ私が中丸先生を誘惑したとしても見向きもされないだろうに。
「頭を撫でられたぐらいでいい気にならないことね!」
ステラ先生は真をさっきよりも強く睨みつけて指を突きつけた。
頭を撫でられた…あぁ、記憶の読み取りの時のことか。って…あれは学年全員がされていたのでは?
真がそう言い返すとステラ先生は肩を震わせて言い放つ。
「中丸と同じことを言うんじゃないわよ!」
中丸先生も同じことを言ったのか。大変だなぁ、彼女さんが心配性な人だと。
「ちょっと、何?その呆れたような顔はっ!」
いや、まぁその通りなんですがとは言えるはずもなく真は愛想笑いを浮かべながら「そんなことありません」と答える。
すると何故かステラ先生はせっかくの可愛い顔に怒りマークをつけてしまう。
「私は騙されないわよ!だってあなたが頭を撫でられた時中丸があなたに向けた眼差しは優しかったんだもの!」
知らんがな。と思わず言ってしまいそうになるのをすんでのところで止めることができた。
「気のせいじゃないですか?」
「いいえ、絶対にそうよ!中丸の彼女の私が言うからには間違いな」
「誰の彼女だって?」
ステラ先生の言葉が噂の人物の声で遮られた。
「中丸先生、おはようございます」
「おはよう奥橋さん。で、今は何の話をしてたんだ?」
「中丸!あなたのことを誘惑している奥橋真に注意してたのよ!」
ステラ先生は猫なで声で中丸に訴える。
「…誘惑?」
「えぇ、私が知らないところで奥橋真が中丸を誘惑していると思ったかりゃふん!」
ステラ先生の頭にゴツンと中丸先生の拳が入った。
「いったーい!何すんのよ!」
「いいか、言いたいことが二つある。一つ目は奥橋さんが俺を誘惑したことなど一度もない。よって今後お前の勝手な妄想で奥橋さんを困らせるな。二つ目は俺はお前の彼氏じゃない。勝手に嘘をばらまくな」
中丸先生のいつもの眠そうな目が鋭くなってステラ先生をギロリと睨みつけていた。
ステラ先生はビクリと身体を震わせて瞳に涙を浮かべながら
「そんな、私は、中丸のためにっ」
と今にも泣き出しそうな声で抗議する。
「じゃあ俺のために何もしないでくれ」
「っ…わかったわよ!中丸のバーカ!もう頼まれても構ってやんないんだから!」
うわーん!と言いながらステラ先生は涙をキラキラ見せつつ走り去って行った。
「…中丸先生いいんですか?」
「気にするな。いつものことだ」
ステラ先生、なんか、頑張れ。
真は内心でステラ先生にエールを送った。
「すまなかったな…同僚が変な言いがかりをつけてしまったようで」
「いいえ、大丈夫です」
真は笑顔でそう答える。
「そうか、なら良かった。ところで、今日は随分と早い時間に登校してきたんだな。いつも遅刻ギリギリと聞いていたが…」
誰情報ですかそれ!って…なんかステラ先生に話し掛けられてから忘れてたけど、今日何者かが学校に侵入してくるんだった!
そのことを思い出した途端に身体が小刻みに震えだした。
「えっと…」
中丸先生に言うべきだろうか?でも、言ってしまったら私のオズ学園行きが確定してしまう。
「奥橋さん?」
私の異変に気づいたのか中丸先生が心配そうに近づいてくる。
「私、あの」
言わないと、クラスの皆が危険に晒されるかもしれない。
「どうした?」
中丸先生は優しく真に問いかける。
真は身体の震えを抑えこみ、大きく深呼吸をした。
「中丸先生、私、私は実は、」
『もしもーし。聞こえるー?神林高校でまだオズ学園に正体を隠してるオズの誰かー』
突然頭の中にガンガンと鳴り響く声に真は思わず顔をしかめる。
なにこれ、すごく気持ち悪い。
真は激しい頭痛と目眩に襲われる。
『今日の午前九時に迎えに行くから待っておくよーにー。あ、このことはもちろん他言無用ねー?もし、オズ学園の奴らにチクったらー関係ない奴らの命は全部ないからねー?おとなしく捕まってくれたら、出血大サービスで人間は助けてあげるよー。わかったかなー?じゃ、またねー』
頭の中で鳴り響いていた声がピタリと止んだ。
でもまだ頭痛と目眩が治まらずに思わずふらつく。
「奥橋さん!?おい、大丈夫か?」
あまりにも顔色が悪いのだろう。中丸先生は真のふらつく身体をしっかりと支えてくれた。
「奥橋さん、保健室に行こう」
中丸先生はそう言って真の前でしゃがんだ。
「中丸先生?」
「乗れ。歩くのもキツいだろう?」
「いえ、大丈夫です」
「どこが大丈夫なんだよ。ほら、乗れ」
ここで保健室に行くと中丸先生に事情を詳しく聞かれてしまう。さっきの声の言うことが本当なら、バレるわけにはいかない。
「本当に大丈夫です。いつも朝は貧血気味なんですよ」
真は笑顔でそう言って中丸先生から一歩離れる。
「…お前、何を隠そうとしてる?」
「…」
「さっき、何か言いかけたよな?何を言おうとしていたんだ?」
「それは…」
どうしよう。確かに先ほどまでは本当のことを言うつもりだった。だが、あの声のせいで言いたくても言えない状況になってしまった。
「奥橋さん、」
「すみません、やっぱりなんでもありませんでした」
「そんなわけないだろう」
「すみません、失礼します!」
「おい!待て!」
ここは逃げるしかない!
今日来る不審者たちの狙いは私だけなら、私だけでなんとかすればいい。
なんとかするしかない。
どんな方法でも構わない。
私だけでも、できる!
真は自分に言い聞かせる。
大丈夫、大丈夫だ。
無我夢中で走っていたら思いっきり誰かとぶつかった。
「きゃ!」
「っ!」
真は尻餅をついてしまった。
痛い。頭痛と目眩にプラスされると尻餅はこんなに痛いのか。
「奥橋?」
その声にハッと我に返り真は立ち上がる。
「か、海藤君…」
「気をつけろ。危ないだろーが」
「ご、ごめん」
「…奥橋、保健室行ったら?」
「何で?」
「また顔色悪い」
もう何でこう朝からオズ学園の人にしか合わないのかな…
「大丈夫だよ」
「いや、大丈夫には見えないが?」
「本当に大丈夫なんで」
さっさと逃げてしまおうと真は歩き出す。
が、海藤に腕をガシリと掴まれた。
「ちょ、離して」
「離さない」
「はい!?」
「離してほしいならその泣きそうな顔をどうにかしろ」
真は何故かうっと喉から声が出そうになった。
「そんな顔してないですが」
「何があった。話してみろ」
「だから、何もないって」
真は自分の身体の震えを必死で止めながらそう言う。
「震えてる」
「震えてない」
「何を隠してる?」
「隠してないって」
「嘘が下手すぎだろ」
「嘘じゃないから」
「じゃあ何でこんなに震えてるんだ?」
「震えてないって!」
真は掴まれた腕を乱暴に振り切ろうとする。
が、上手く力が入らない。
話したくても話せない。だって皆を助けたい。私が一人でなんとかしなければならない問題なんだ。
「奥橋、聞け」
「…何」
「お前一人でなんとかできると思ってんのか?」
「…?」
「大丈夫だ。俺を信じろ」
海藤は何を言っているのだろうか?
私はまだ何も話してないのに。
まるで、事情を知っているみたいに、
「知ってる。今わかった」
「え…?」
どうして…?
ふと海藤の手を見る。
「あ」
指輪がはめてあった。
「奥橋、俺らを甘く見んなよ?」
俺ら?
真はふと後ろに気配を感じて振り向いた。
そこには何故か新崎、若宮がいた。
奥橋真が今までに気づいたこと①海藤は意外と喋る②新崎は天然悪戯っ子③若宮は腹黒天使




