三限目 初登場!! コイツが主役の剛力 九大
私達はいつも夕食を武道場に机を並べて食べています。今日は男子が机を並べる日なのだけれど優しくしてあげようと思い、男子がくる前に机を並べ給食を運んであげた。二階に行けないからそうしたというのもあるけど、やっぱり男子に甘えるのは個人的に少々折れなかった……。
「おおっ。なになに。
今日女子がしてくれたんだぁ。優しい所あんじゃあぁん」
「別にアンタのためにやったわけじゃないからねっ」
「そうよっ!! 調子のらないでくれる?」
アイツの姿は、男子の中心にあった。欠伸をひとつうかべて、がにまたでのんびり歩いてきた。男子格闘部(2年生)は全員で7人、そのリーダーがなんともくじ運の悪いアイツだった。
のん気に歩いてくるアイツを見て少しムッとした。頼っていいのだろうか、こんなのん気な奴にアレを本当に始末できるのだろうか、不安以前にむかつく。
「剛力君っ! ねぇ、お願いがあるんだけどねっ」
私の仲間がひとりアイツにかけよって、それにつづき私を含まない女子全員がつられるように走って行った。私は給食をひとりでむすっと運んでいて駆け寄りはしなかった。
「ねぇ、九大君。ちょっとお願いがあるのよっ」
「私達、二階の女子寮にいるじゃない?」
「あのね……、その二階のトイレなんだけど<ごにょごにょ>がいるの」
「えぇっ!? 何かの間違いだろ」
「本当よぉ」
「三年生も一年生も合宿中でいないでしょ?」
「だから、お願い。剛力君。力を貸してほしいの」
「大会もあるし騒ぎをおこせねぇからな……。
移動させて一時埋めておくか」
「やってくれるの?」
「まぁな」
アイツは私を見てにやりと皮肉そうに唇をゆがめた。どうせ、また私をからかうつもりだ。顔にそうやってかいてあるのがよくわかる顔をどうもありがとう。そう、私の腹は真っ黒になった。
「お前、なんなわけ。俺に頼るわけ」
格闘技部員の食器を洗う当番(週ごと)に丁度私達になったのを忘れていて、ちょっと気まずかった。アイツがいつものように私を横目で見ながら話しかけてきた。からかわれるのか……。喧嘩にならないような返事をちょっと考えて、ぽんとはきだす。
「――皆がそういったのよ。
私は別にねっ、アンタに頼まなくても良かったんだけど、
だって皆がアンタに頼むって言うから……」
流しは昭和の頃からあってちょっとぼろぼろなのだけれど、水道が壊れない限りこのままだった。わたされた皿をふきながら、水が下におちるドーバシャ、という音を聞き流していた。
「おめぇも意地っぱりだよな」
「仲間のためならなんでもやります!」
「そのリーダーがなんで俺に頼まないんだよ」
私はそう言われた時、唇をゆがめた。皿を顔面にぶつけようかと思ったけど、確かにコイツは正論を言ってるからぐっと内心に閉じ込めた。とがめるのは拳法家としても立派な行為のうちのひとつ。いや、常識なのかもしれないわ……。
「今頼みます。処分してください」
「……本当にいたのか? その……死体」
「いたわよ。証人が3人もいるわ」
「わかった。明日のうちにやっとくわ。
で、女子寮にはどうせ戻れねぇんだろ。今日はどうすんだ」
「決めてないんだよなぁ、それが」
「じゃ、お前だけ俺ん所こいよっ」
<バチン>
私は、アイツの頬を強く殴った。私の焦点はぼやけず、まっすぐにアイツだけを見ていた。たったの10秒の会話で響いた会話がここまで私を怒らせていた。
「女を道具か何か勘違いしてるんじゃないの」
「なっ、馬鹿言うな! アレだよ、アレェッ」
「は?? アレって何よ」
「何だよその反応っ。もしかして……忘れちまったのか?」
「忘れる?」
私の熱が一気に冷めた。アイツがそんなこと言う訳ないのに今きづいた。
そして、私はコイツのアレに首をかしげた。