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第八話

 アルディアの元を離れたヨハネスは、戦士に連れられて、男たちが仮眠しているテントまで戻ってきた。着くと戦士は、不機嫌そうな顔をしながら、しかし大切そうに水の入ったタンクを抱え、木桶に少しずつ水を注いでいく。


「言っておくがな。砂漠の旅で水は、命の次に大切と言っていい程、貴重なものなんだ。本来ならば、貴様のような何処の馬の骨かも解らぬクソガキに与える水など、一滴も無いのだからな。・・・・・・全く、アルディア様も何をお考えになっておられるのか・・・・・・。」

 

 戦士はそんな風に、ぶつぶつと愚痴を溢し、タンクを下に置いた。

「さっさと済ませるんだぞ!」大きなあくびをしながら言った。

 

 戦士に急かされヨハネスは、さも不満いっぱいという感じであったが、仕方のない事だと割り切り、木桶の前に膝を着き、そっと手を伸ばした。と、その瞬間、ハッとした様にその手を止めた。


――俺の顔が見られるチャンスかもしれない!!

 ヨハネスは傷だらけになったボロボロの手を見つめた。徐々に胸の鼓動が高鳴っていくのがわかる。

 そして、静かに木桶の中の水面を覗き込んだ。


――これが俺・・・・・・なのか・・・・・・!?


ヨハネスが自分の頬に手を触れると、確かに水面上に映る少年も手を触れる。


――てっきり、もっと歳を取っていると思っていたが・・・・・・そうだな、アルディアが言っていたとおり、俺も彼女とそう歳は変わらないみたいだ。


 後ろでヨハネスの様子を見ていた戦士の苛立ちは、もう少しで頂点に達するところであったが、それを知ってか知らずか、ヨハネスが直ぐに顔を洗い始めたので、戦士は舌打ちしてドスンと地面に座り込んだ。


「おい!顔を洗ったら、さっさとこれに着替えて朝メシの支度だからな。終わったら、テントを片付けて出発だ!」


「・・・・・・はい、はい。」



 ここで一旦、話は昨晩に戻る。

 ヨハネスを狙う怪しい二人組と、その後をつけるアズライル。二人組は、酒場を出た後、街のメインストリートから逸れた雑木林へと続く、狭い道に入っていった。街灯は、まばらで薄暗く、人の気配は全く無い。そこをしばらく進むと、どうやら無人らしい廃墟の中に二人組は姿を消した。

 

 アズライルは雑木林に差しかかった辺りから、何か嫌な感じはしていたが、廃墟の前に着くと、それは異様なまでに強くなっており、アズライルでさえ近づけない程であった。


「ジップ、気づいているか。」

「はい、シュゼール様。何者かが我々の後をずっとつけている様ですね・・・・・・街に居る時は気づきませんでしたが、闇が濃くなるにつれ、我々の“内なる力”も表に現れてくる。当然、感も鋭くなる。

・・・・・・殺りましょうか?」


「いや、もしかすると、オスティスと何か関係のある者とも考えられなくも無い。しばらく様子をみる。殺るのはそれからでも遅くあるまい。まあ、向こうもなかなか出来るようだ、そう簡単に姿は見せぬだろうがな。」


「そうですね。オスティスの足取りが掴めない以上、今は少しの可能性も無駄には出来ませんからね。」


「夜が明けたら、直ぐここを出る。」


「承知致しました。シュゼール様、それまで私が見張っております。安心してお休み下さい。」 

 

 一方、アズライルは木の上から、二人の出方を、息を忍ばせ待っていた。


――さすがに、奴等も気づいたか・・・・・・!?


 しかし、彼は知らなかった。月明かりに照らされ壁に浮かび上がったシュゼール達の影は、明らかに、人間のそれではなかった事を・・・・・・



 そして、今日もいつもと変わらぬ灼熱の太陽が、砂漠を、街を、照らし始める。

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