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第七話

 アルディアは目を覚ました。

 砂漠の夜明けは肌寒い。テントの中とは言え、柔らかい絹の羽根布団にくるまなければ、とても耐えることが出来ないほどだ。けれども太陽が昇ると、忽ちの内に気温が上昇する。

 直ぐ横には、ティラが微かな鼾を立てて、まだ眠りの中にあるようだ。


 アルディアは身支度を整えると、テントの入り口の幕屋をそっと開けた。入り口には、屈強な戦士が一人、しゃがみ込んで寝ずの番をしていた。

「あっ、アルディア様! もう、お目覚めで……」

「お願いがあります。昨日助けたあの少年を起こしてきてちょうだい。聞きたいことがあるの」

「あの、クソガキですか?! あんな奴を呼んで何になるのです?」

「あなたは、ただわたしの命令通りにすればいいのよ!」

 アルディアの声には、苛立ちが明らかに見て取れた。

「わたしは、ウルギス・ハーン国の皇女だと言うことをお忘れなく」

「はっ!」

 見張りの戦士は、立ち上がった。


 やがて暁の中に、こちらにやって来る二つの影があった。例の戦士と、そして相変わらずボロボロの服を纏っただけの、砂まみれのヨハネスが、まだ眠そうな表情をしながら、トボトボと近付いて来ていた。昨日の疲れや痛手がまだ充分回復してはいないが、それでも若さというものは、ヨハネスを少なくとも昨日よりはまだましに見させている。

 ヨハネスが近付くにつれ、彼が案外まともな人間であり、むしろその瞳は聡明そうで、肉体的にも頑健そうに見えた。全体的にどことなく品位も備わっているようだ。


「お連れしました。おらおら、ガキ! アルディア様にご挨拶と御礼をしろ! この方が居なかったら、おまえは今頃野垂れ死んでいたか、砂のなかに永遠に埋まっていた事だろうよ」

 そう叱責され、ヨハネスは黒いベールに顔を隠している“高貴な”娘を見つめた。胸がドキンとする。ベール越しでも、アルディアの類まれな美しさと気高さ聡明さは、明らかだった。けれどもそのせいだけではない、なぜか宿命のようなものすら感じるのだ。


 ヨハネスは戦士にドンと背中を押されて、思わず両手を突いて砂上に突っ伏した。

「頭が高いっ!」

 アルディアはその大きな漆黒の瞳をじっと薄汚れたヨハネスに注いでいたが、すぐに彼の左手の指に気付いて、ハッとした表情を浮かべたものの、何気ない素振りをした。


「ヨハネス、お聞きしたいことがあるのです」

「俺も……俺もそうでした」

「勝手に口を聞くな!」と又戦士ががなった。

「いいのよ。ところでヨハネス、あなたはなぜあんな所に一人で居たか、本当に何も覚えていないの?」

「覚えていません」とヨハネスと呼ばれている若者は答えた。

「何も? 何か一つでも覚えていない?」

「―――?」


 ヨハネスは首を傾げ、何か思い出す為に頭を働かそうとした。すると激痛が頭の芯に押し寄せ、彼は両手で頭を抱えてうずくまった。

「どうしたのですか?」

 不安そうなアルディアの声がした。彼女は覗き込むように、ヨハネスの顔をうかがっていた。彼の顔には、殴られたような蒼い痣や無数の小さな傷があった。

「突然頭痛がしてきて……」

「今のあなたにはとても無理ですね。尋ねたりして悪かったわ」


「それでは教えて下さい! あなた達は誰で、ここはどこで、そしてこの隊商は何処へ行くのです?」

「わたしは……」

「皇女!」と戦士が遮った。

「こんなことを、この様な者に喋っていいものですか? もしかしたらこいつは『アズライル』のスパイかもしれませんし」

「例えそうだとしても、この者がここから逃げ出すことは不可能ですわ! でも確かにうかつなことは言えませんね」


「それでは一つだけ」

 ヨハネスはすがるように言った。

「アルディア様、あなた様はお幾つですか?」

「17歳よ」とアルディアはあっさりと言った。

「あなたと同じぐらいか、それともあなたの方が少し年上かも……」

「そう見えますか?」

「そう」

 答えながら、アルディアは微笑んだ。砂漠に咲く、一輪の花のような微笑みだった。


「それとも自分では年寄りだと思っていたの?」

 ヨハネスは恥ずかしそうに下を向いた。向こう意気はどこへやら、だ。

「この者に、新しい服と靴をおあげ! それからその前に、ちゃんと顔を洗ってあげなさい!」

「けれども……水はここでは貴重なものですが」

「命令です!」

 戦士は何かブツブツ不平を言っていたが、結局引き立てるようにして、再びヨハネスを連れて行った。


「アルディア様!」

 テントの陰から、ティラの険しい皺だらけの顔がのぞいた。

「ティラ、見たでしょう?! ヨハネスの左手を!」

「畏れの山の巫女が宣託した通りでしたわ」

「そうよ!」とアルディアは叫んだ。


「巫女はこうご宣託して下さったわ!

『あなたを守護する者は、指が一つ無い者だ』と! 彼がその守護する者なのよ!」



一巡して、最初に戻ってきました。W0533AのERIKAです。始めに思っていたのとは全然違っている展開になりましたが、かえって面白くなりました。

又一人一人の個性や得意分野が違いこそすれ、ストーリー展開には余り違和感が無いですね。これからも星葡萄の面々を宜しくお願い致します。

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