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第四話

荷台に乗せられた俺は、所狭しと積み込まれた木箱の間を縫う様に座り込み、揺られていた。

漆黒塗りの服飾に身を包んだ少女・アルディアやその御意見人と思わしき老婆・ティラらの輿とは駱駝五頭分後ろの荷台に放り投げられた俺だが、まぁ、殺人的な直射日光に晒されないだけマシと言えよう。怪しい奴だと思われるのも無理はないだろうし。正直、俺自身が怪しいと思うのだから。

俺は、自らの手のひらを眺め、思いに耽る。

(……誰なんだ、俺は?どうして砂漠のド真ん中になんか……いや、そもそも)

元は白だった、と予測するしかない程に薄汚れたシャツ。黒いズボン。武器になり得そうな物は何一つ持っていない。

こんな、砂漠を嘗めているとしか思えない装備で、記憶喪失で行き倒れ。誰がこんな未詳男を信用すると言うのか。

(やってらんね……とりあえず、これからどうしよ)

思わず天井を仰ぐ。ため息を吐きながら。

「陽が沈み始めた。今日はここで野宿だ!」

前方から、野太い大声が聞こえてきた。見なくとも、声だけでどんな頑強な男だか分かる気がする。

「おら、クソガキ!とっとと降りて手伝いやがれ!何をボサッとしてやがる!?」

腰に歪刀(シャルティエ)を帯びた男が荷台の口から顔を覗かせ、俺に怒鳴り散らす。腕なんか丸太みたいに太く、胸なんか岩壁みたいに厚い。ついでに熱くて暑苦しい。

「いいか。先に言っておくぞ?アルディア様に何か不祥事を働いてみろ?貴様の首一つじゃ済まないからな!?」

「はいはい了解了解」

テキトーに大男をあしらい、俺は荷台から飛び降り、黄昏に染まった砂漠に足をつく。

「さって。助けてもらったお礼分は、働いて返しますかな」

肩や首をゴキゴキと鳴らし、俺は大男に倣って作業する。どうやらテントを組む気の様だ。

「ぬぐっ。重っ……」

嫌がらせとしか思えない量の骨組みを渡された俺は、力の限りを振り絞って運ぶ。

(倒れていた人間を介抱した日に使うってのも正直どうなんだろ……。立ってる者は親でもって事か……)

渡された骨組みを運び終えた俺は、輿の方を見た。

微笑した少女が、俺に向かって小さく手を振っている。

少女の隣で、俺を威嚇するかの如き猜疑的な視線を送ってくる老婆については、俺は無視する事にする。

何だか、少し元気が湧いてきた。何故かは分からないが。

「おら、サボってんなよガキ!助けてもらった恩は果たせ!」

「はいはい。んじゃ、もう一頑張りしますかね」

俺は立ち上がり、大男の元へ小走りした。

俺を助けてくれて、俺に名をくれた少女。

彼女の為に。





不思議な力を感じる。

果たしてそれが何なのか、アルディアには分からない。何せ、かつて無かった感覚だから。

「全く……あの様なならず者、放っておけばよいものを……」

ティラが、今日何度目だろう、聞き飽きた愚痴をこぼす。

「彼には……何か、私と深い結びつきを感じるのです」

アルディアは同じ言葉を繰り返す。

まるで磁石の様に引き合う様な、それでいて反発している様な、何とも言えない不確かな感覚。

未来予知(さきよみ)

彼女には、代々そう呼ばれる能力(ちから)が宿っていた。

「それで。何か分かった事はあるのですか?」

声をひそめて囁くティラに、アルディアは首を横に振って答えた。

偶発的で、意志に関係なく稀に『視』える。今回も同じ事が起きただけに過ぎない。

こんな話がある。アルディアの祖先で、同じ能力を持った男の話だ。

その男は幼少の頃に、

「どこかの国が戦争している未来を『視』た」

と言った。

その当時は周辺の国家は交易が盛んで、戦争を企てる素振りはなく、初めは誰も信じていなかった。男が予知したのはそれが最後で、数十年の時が過ぎた。国王が亡くなり、男が王位に就いた矢先、交易を行っていた近国が造反を起こしたのだ。

不意をつかれ、国は衰退しつつも事なき事を得た訳だが、幼少の頃に『視』た光景と酷似していたからこそ、敵国の戦力や戦法を見抜き、勝てた戦だったと言う。

その能力が、アルディアにも宿っている。

「とりあえず、今はこのままで構わないと思います」

黒いヴェール越しに、働く少年を見つめながら、アルディアは呟く。

「一人の少年の生命を救った。今はそれだけでいいじゃありませんか」

「しかし……あの者については、分からない事が多い。あまり近寄らぬ事です。何を企んでいる事やら……」

ブツブツと愚痴るティラの言葉に苦笑し、アルディアは言う。

まるで、賛美歌を謳うかの様に、凛とした鈴みたく澄んだ声で。

「あら。ヨハネスはきっと、誠実な人よ。私には分かります」

ヴェールから垣間に覗く、アルディアの彼の少年を信じきった瞳を見たティラは、嘆息吐くしかなかった。

ヨハネス。

それが、アルディアが少年に捧げた名だった。

今回はW0584Aの月城が手掛けさせて頂きました。主人公に命名するという大役が回ってきて、緊張と困惑が同時に襲ってくるという初めての体験をさせて頂き、恐縮です。

さて。主人公・ヨハネスですが、名前は実在した占星術師であるヨハネス・ケプラーから捩りました。未来予知のヒロイン→何か関連付けよう→占い→占星術→ヨハネスという安直な考えです^^;

感想などを戴けると幸いですm(_ _)m

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