第四十話
「オスティス!!!」
アズライル、ウェレ、イマナの頭上を跳んで通過する赤獅子に、三人が声を揃えて叫んだ。
赤獅子は、そのままサスキアに向かって飛び掛かっていった。
「ギああああああああああああ!!」
ものすごい勢いで仰向けに倒されたサスキアは、全身を地に叩きつけられ、やがて息絶えた。そして、体中から黒い蒸気が発生し、白骨化していった。
サスキアが死んだ。と同時に、アズライル達の身体の自由を奪っていた冷気も消えて無くなっていった。
「オスティス遅いぞ!こっちは、もう少しでサスキアに殺されるところだったんだからな。」
アズライルはそう言って、何か訴え掛ける様な目でニッと笑った。
「・・・・・・アズライル。貴様、何をした・・・・・・!?」
メフィストフェレスは、アズライルの妙な様子をすぐさまキャッチしていた。
「邪神。お前のバリアーは確かに指一本も通さない程に強力なものだった。だが、完璧では無かった。お前の足元周辺は微妙に膜が薄くなっている部分があってな。ウェレとイマナがお前の注意を引きつけている間に、俺のイメージした剣を、地を這わせるように伸ばしていき、ウェレとイマナが一撃を与える瞬間、お前に一瞬出来た隙を狙って、そこを突いたという訳だ。あとは、剣を鞭の様にしなやかに曲げ箱に巻きつけ、ウェレとイマナが弾き飛ばされていくのと一緒に、こちらに引き戻すだけだ。まぁ、箱を手にした瞬間、オスティスの指が飛び出していった時は正直、かなり動揺したが・・・。」
「ふははははははは!さすがだな、アズライルよ。一瞬の内にこのバリアーの弱点を見抜き、冷静にそこを突いてくるとはな。ふふ、それでこそ殺りがいがあるというものだ。ますます楽しくなってきた。・・・残ったこちら側の仲間は、メフィストフェレス一人のみ・・・か、と言いたいところだが、既にこいつの魂は食い尽くしてしまったからな。完全にな。この身体は四年前に乗り移って以来、徐々に月日をかけ、ようやく“あの箱”を手に入れるまでの仮の器を手に入れる事が出来たという訳だ。」
「くっ!貴様のくだらん野望は既にあの時から始まっていたという訳か・・・・・・。しかし、邪神。メフィストフェレスの身体ではお前には少々、窮屈な様だな。現に今、お前に出来ている隙がそれを物語っている。」
アズライルは手に持っていたガラスの箱を闇の中へと放り投げた。
「!!??」メフィストフェレスがふと気が付くと、ウェレと赤獅子の姿が見えない。メキメキメキと首だけ180度回転させる。その瞬間、背後に空間の歪みが生じ、そこから赤獅子が飛び出してきた。ウェレの空間移動である。メフィストフェレスは即座にガードを取ったが、一歩遅かった。
――ピキ、ピキピキ、ピキ・・・・・・パリーーーーーン!!!
その場を厚く濃く漂っていた闇は、まるでガラスが割れる様に砕け散り、かと思えば、皆が気付いた時には、既に辺りの景色はシャラグリアの湖に戻っていた。
「いってぇー!って、あれ?元の姿に戻ってる・・・・・・。」
オスティスは赤獅子の姿から戻っていた。外で皆の帰りを固唾を飲んで待っていた、アルディア、シスル、エルス、プシュケは慌てて皆の元に駆け寄る。
「ナイス・コンビネーション、ねっ!」
イマナが隣に居たウェレに言った。
「へへ、まぁな。」
ウェレが少し照れくさそうに答える。
「くくくくくくくくくくく・・・・・・はぁっははははははははははぁ!!」
メフィストフェレスがゆらりと静かに立ち上がった。