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第三十八話

「う・・・・。」

凄まじい痛みの中で、徐々にはっきりする意識。ゆっくりと目を開くと、二重にも三重にも重なって、心配そうに覗き込む四人の姿がそこにあった。

「ヨハネス・・・・!!よかった・・・・。」

懐かしいその声の持ち主は、アルディアその人だった。

なぜか目いっぱいに涙を浮かべながら、きつくヨハネスの手を握り締めている。

「・・・なんで、俺・・・。アルディア・・・・?」

先程までの血の気の失せた顔から、少しずつ赤みが戻ってくる。

腹部がやけに熱い。

「傷はほぼ塞がりました。ただ、内臓の修復まではもう少し時間がかかりそうですが・・・。」

イマナが額に汗を滲ませながら現状を報告する。

「どの位かかるってンだヨ!」

アズライル達が邪神の元へと去ってからすでに十五分は経過していた為、少々いらついた様子でプシュケに掴みかかろうとするエルスの手を、アルディアとシスルがなんとか二人係で抑える。

「いけません!!落ち着いて下さい!!!」

なんとか思い留まったエルスは、仕方なしにドスリとその場に腰を落とした。


「内臓は表面の傷とは違い、細い血管が張り巡らされている為、治癒には相当の集中力を必要とする上、時間も倍以上は掛かります。それに、この方の場合、肝臓、腎臓などの主要な臓器がほぼ原型を失っていましたので、アルディアさんのある程度の治癒があったとは言え、更に時間がかかるでしょう。」

プシュケはエルスに視線を向けることなくひたすらにヨハネスの腹部の治癒を続ける。

「くっそ・・・!アイツら負けちまってンじゃねェカ・・・?こんなことしてる間に!」

ヨハネスがこうなったのが自分のせいだと知りながらも、少しでも早く先程の三人に加勢したくてうずうずして堪らないといった様子のエルス。

「お・・・お前、なんで・・・ここに・・・いる・・・・?」

ヨハネスがいまいち状況が理解できずにじっとエルスを不審そうに見つめる。

「オスティス様、エルスさんは私たちの仲間になってくれたのです。そして、このプシュケさんも・・。」

プシュケの表情は先程よりも目に見えて辛いものになってきている。滴る汗は相当量の運動をした並のものだ。

しかし、ほんの少し前まで、自分を憎み、殺そうとしていたこのエルスという少年が、こうも短時間で仲間になったなんてことはすぐには飲み込めそうもない。


「に、兄さんや・・・ウェレは・・・・・・・?」

自分が意識を失っている間に色々と状況が変わってしまたことだけは確かで、その内のひとつに、兄とアズライル、そしてイマナの姿がここにはないということだった。

すると途端にここに居る四人の顔が深刻になり、エルスはちっと舌打ちをするばかり。

「どうした・・・・?何かあったのか??」

ヨハネスは思わず手近にあったアルディアの手を引っ掴む。

「ヨハネスは心配などせず、少しでも回復なさい。」

アルディアは懸命にその手を握り返す。

「アルディア!兄さん達はどこに行ったんだ?」

がばっと勢いよく起き上がると、腹部の痛みの苦痛で顔を歪ませながら今度はシスルの肩を大きく揺さぶった。

「シスル!命令だ!兄さん達はどこに行ったか言え!!」

がくんがくんと揺さぶられ、シスルはとうとう口を割ってしまった。


「・・・・邪神の元です・・・・!!」


ぴたりとその手を止め、ヨハネスは表情を曇らせた。


「なんだって・・・・・・??」


瀕死の重傷を負った人間とはとても信じられない勢いで、ヨハネスは険しい顔で立ち上がった。痛みはまだ癒えていないはずだ。

「駄目です!!まだ内臓の細胞が全ては蘇生しきれていません!!

今無理をすれば、本当に死にますよ!?」

プシュケが汗だくの体でヨハネスを引き戻そうとするも、いとも簡単に振り払われてしまう。

「俺はもう大丈夫だ! 行くぞ、邪神の元へ・・・・!!!!」














眼前に広がるは一面の暗闇。

その真ん中で、あの頼りなさ気なメフィストフェレスが一人、こちらに背を向けて小さく腰を下ろしている。

何やら手に箱のようなものを持って、熱心に観察しているようだ。


「メフィストフェレス・・・・?」


アズライルが戸惑い気味にとりあえず呼びかける。

ぴくりとそれに反応し、ちらりとこちらを振り返る。

その雰囲気はいつものメフィストフェレスそのもので、この暗闇の中のそれは、嵐の前の静けさのようで、逆に不気味にさえ感じられた。


「やあ、アズライル。よくここまで来たね。」


ゆっくりと立ち上がり、くるりと向き直ったメフィストフェレスは、例のあのヨハネスの指と指輪の入ったガラスの箱を手に持っていた。しかし、その指にはまだついて間もないというようなどす黒い血液と肉片のようなものがヌルリと付着している。それは、どう見ても切断時のヨハネスのものではない。


「あれ?オスティスは来てないんだね。きっとこれが欲しかったろうに。」


暗闇の中で、静かにメフィストフェレスの声が響く。


「メフィストフェレス、いいから、それをこっちによこせ。」


ウェレがゆっくりと歩み寄る。

恐れもせず、メフィストフェレスが微笑みかける。

すると、急にどこからともなく強い突風が吹いた。

三人は飛ばされまいと必死にその場に踏ん張るが、メフィストフェレスだけが悠悠とした態度で立っている。


「くう・・・・!!な、なんだ・・・!?」


先程まで感じられなかった殺気が空間を埋め尽くしていく。メフィストフェレスという小さすぎる器には納まりきれないといった暗黒が肉体から溢れ出す。眼つきはこの世のものとは言えない程の狂気に満ち、髪は黒く変色し逆立ち、肌も浅黒く、みるみるうちに全身が邪悪と化した。


「ふ・・・・ふふふふ・・・・・・・・・。」

地鳴りのような声。正しく、これは邪神そのものであった。


「邪神・・・・!!貴様、一体何者だ!!!!!」

アズライルがいつでも攻撃に備えられるように構えながら、大声で叫んだ。


「私は、一千年前のパセイダンの国王・・・。

シャラグリアとの戦に負けた後、この地下で自決したのだ・・・。

しかし、その後、ティラという魔術師の手により、この世に再び蘇った。暗黒の力を手に入れてな。ふふふふふ・・・・・・。

神聖なる力を持つ皇女の生贄と、白百合の蒼玉、そしてお前の持つその紅玉、予定通り私の元へ揃った。後は完全なる肉体の復活を待つだけだ・・・

ふはははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!」


アズライル、イマナ、ウェレは驚きを隠せなかった。

今までの長き戦いの苦労は、全てこの邪神の手の内だったのだ。

そして、このヨハネスの指輪も、紅玉を手に入れる為の囮だったのだ。


「ま、まさか、じゃあ、イマナが蒼玉を持っていないことも知ってたってのか!?」

ウェレが目を大きく見開き、邪神に向かって叫んだ。


「アルディア皇女をここまですんなりと連れて来させる為だ、悪く思うな。」


邪神はにやりと馬鹿にしたように笑う。

その笑いを見て、怒りに震えるウェレ。

「くそっ、その為に、どれだけイマナが辛い目にあったか・・・・・!!!!」

イマナが心配そうにウェレの肩に手を置く。


「さあ・・・・!!!

その紅玉をよこせ・・・・・・・・!!!!!」


突然発した黒い炎の攻撃を避けながら、アズライルはイマナとウェレに目配せした。

「そうはいくか!!!!」

イマナは攻撃を避けたと同時に邪神の背後に回り込み、ウェレは空間を飛び越え、瞬時に頭上へと回りこんだ。

 

「おりゃああああ!!!!」

「やああああああああ!!」

イマナとウェレはほぼ同時に渾身の力で剣を突き刺しにかかった。


バチイイイイ!!!!!!


激しい音とともに、二人の武器が弾き飛ばされる。なんとか体勢を取り戻し、イマナとウェレは別々の方向で不時着した。どうやら、邪神の周囲三メートル以内は、一種のバリアーのようなものが張り巡らされているらしい。それも簡単には破れそうもない。


「無駄だ・・・。

貴様達は私に指一本触れることもままならぬ・・・・。

ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ・・・・・・・・・・・・・。」


そう言った直後、暗闇の奥でふっと何かが動いた。

三人はじっと目を凝らす。


「忠実な僕、サスキアよ・・・・。

無能なこの者達を、さっさと片付けてしまうがよい。」


暗闇からゆらりゆらりと現れたのは、あのサスキアであった。

しかし、なぜか頬に抉り取ったような傷があり、そこからすでに腐敗が始まって、顔全体から首の辺りまで紫色に変色している。目は血走り、自分の意思で動いているとは到底思えない。


「サスキア!?」


三人の状況は、よからぬ者の登場により、急転回を遂げることになりそうだ。











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