第二話
焼き付けるような砂漠の熱と、容赦なく照りつける太陽の狭間で、彼はぼんやりとした、眩暈にも似た感覚の中を彷徨っていた。
目覚めた時から既にこのような過酷な状況にさらされていた彼にとって、それは永遠に突き放す事の出来ないかの様に感じられた。
−このまま誰にも気づかれずに死んでいくのだろうか・・・・・・。
いや、むしろ今、自分の置かれている状況、そして何よりも自分が何者かさえ解らぬまま此の世から消えていく事の方が、どれだけ恐ろしいだろう・・・・・・
そんな時だった。遥か遠く、陽炎に揺らぐ地平線上に、彼は何か見え隠れするのに気が付いた。
−気のせいか・・・・・・!? しかし、あれがもし人だとしたら・・・・・・!!
彼は一度、頭を大きく左右に振り、再び目を凝らして見てみる。が、やはり人らしき影は変わらず見える。
−どうやら見間違えでは無い様だ。今、自分に出来る事があるとすれば、それは・・・・・・
彼は体中に走るあらゆる痛みに耐え、ゆっくりと立ち上がった。そして、一歩一歩、ふらつきながら、しかし着実に、遥か向こうに微かに見える人の影をめざして歩いていった。
真上にあった太陽がゆっくりと沈みかけ始めた頃、彼は再び砂漠の上に座り込んでいた。 しかし、気持ちは先程とは違い、希望に満ちていた。
−向こうもこちらに気づいているようだ。しかも、自分より相当速く移動している。もうこれ以上、無理をして歩く必要も無さそうだな。このまま此処に居ても安心だ。
それから暫くしない間に彼は眠ってしまったが、誰かに呼ばれる気がして、ハッと目を覚ました。
−貴様は何者か!?何故、この様な砂漠の真ん中などに一人でいる!?
彼は言葉が出なかった。
そして、辺りを見回してみたが、目の前の男達の他に、背がごつごつとした大きな動物、その上にまたがる男。皆が険しい顔をしており、自分を警戒している事は、彼自身、良くわかった。
正直、助けてもらえるかどうかは、もう彼にも分からなくなっていた。緊張と不安が全身を駆け巡る。
すると、今度は突然、男達がざわめき出した。見ると、その後方から、あの大きな動物が、これまで目にしたことのない鮮やかな色で装飾された、窓のある、大きな箱のようなものを背負って、彼の方にゆっくり向かってくる。そして、彼の前で立ち止まり、静かに腰を降ろした。中からカーテンを開け、若い娘が出てきた。
アルディアだった。
彼は、ベールの奥に見える、吸い込まれるような漆黒の目を見て直ぐに、何故だか確信出来た。
−助かった・・・・・・!!