第二十七話
(さて、どうしたものか。)
アズライルは再び宮廷内にいた。
(さっき外に出た時、騒ぎは城の最上階辺りから聞こえた。オスティスがメフィストフェレスの部屋までは辿り着いていた事は間違いないだろう。しかし、逃げるとなると・・・・・・確か、あいつが所持していた武器といったら、ナイフと縄付きの鉤爪程度だったはず。衛兵に追い込まれて逃げるともなれば、窓をブチ割って鉤爪で下の階に逃げる以外に方法は無い・・・・・・。部屋の窓側の階下の部屋を中心に探す方が賢明だな。長居は無用。急がねば!)
その時だった。アズライルは、何者かがこちらに来る気配を感じ、急いで身を潜めた。
隣の部屋の扉が開く音がする。しばらくすると、扉は閉められ、いよいよ足音はこちらの部屋に向かってくる。
(――追っ手だろうか!!??)
ガチャ。
息を殺すアズライル。
「アズライル様、アズライル様、いらっしゃいますか・・・・・・!?ご安心下さいませ。私、以前オスティス様の御世話をさせて頂いておりました、シスルでございます。オスティス様からお話は伺っております。いらっしゃいましたら、どうか御返事を!」
シスルはアズライルの拘束されていた地下牢から上の階を、オスティスに代わって、人目を避けつつ探し回っていたのだ。
懐かしい声。アズライルはホッと胸をなで下ろした。
「シスル、シスルなんだな!?」
アズライルが部屋の奥から姿を現した。
「アズライル様!!あぁ、ご無事で・・・・・・安心しました!本当でしたら、もっとお話を聞かせて頂きたいところなのですが、何しろ今は急を要します。私がオスティス様のいらっしゃる部屋までご案内致します。時間がありません。さあ、早くこちらへ。」
「悪いな、シスル。感謝する。」
そのころアンラ・マンユのアジトでは、スクリーン上に映し出されるエルスの危機を前に、シュゼールとウェレが話し合っていた。
「どうする?空間移動で連れて帰ろうか?」
ウェレが少々面倒臭そうに言う。
「ああ。ったく・・・・・・何処までも世話の焼ける奴だ。」
シュゼールが溜め息混じりに呟いた。
――!!!!
シュゼールとウェレはスクリーンに現れた意外な人物に驚く。
「プシュケぇ!?」
エルスの手をぐいぐい引っ張って歓楽街を突き進んでいく少女。その足を止めさせ、目の前に立ちはだかったのは、紛れも無くプシュケであった。
「――エルス。此処から先へは行ってはなりません。」
「あア!?何ンでおまェがこんなトコに居ンだア??それにィ、此処から先に何があるッてンだよォ。訳わかンねェ。なア、ウィネ。ほンと・・・・・・――」
エルスがぶつぶつとウィネと話を始めた。普段の自分からは全く考えられない今の自分の行動を、事もあろうに、アンラ・マンユの人間に見られてしまったという、どうしようもない恥辱感。ウィネと話すことで、それを必死で隠そうとしているのだろう。
「――わ・・・たしが・・・・・・わたしが!!!エルスと話をしているんです!!」
プシュケがエルスとウィネの会話を中断させたのは、これが始めてのことだった。
エルスは口をあんぐりと開けたまま、プシュケの方に視線を移した。プシュケがあまり真剣な目でじっとこちらを見ているのに、少し驚いた様子で、エルスの目が泳いでいる。
「気付かなかったのですか!?今夜はこんなに綺麗な月が出ているというのに、その子には前後左右、何処を見回しても影が見当たらない。少女の姿は仮の姿で、正体は物の怪なのです。」
(――!!!)
エルスが視線を落とすと、確かに少女には影が無い。少女はずっとうつむき、黙ったままである。
「さあ、早く行きましょう。上にはチコが待っていてくれています。」
エルスが見上げると、チコが砂の雲の上に乗ってふわふわと浮かんでいた。
「やあ♪」チコがポロローンと琴を鳴らしながら言った。
「シャラグリア城でアズライル達が騒ぎを起こしていると聞いてね♪その偵察中に、君が歓楽街をふらふら徘徊しているのをプシュケが見つけたんだな♪ほらほら、早く乗った乗ったァ〜♪(ポロン、ポロン、ポロロ〜ン)」
チコの乗った砂の雲はぐーン地上すれすれまで降りてきた。
プシュケが乗り、最後にエルスが乗る。そして、砂の雲が浮かび上がろうとした瞬間。
「お兄ちゃん!待ってよう!一人になっちゃうよ!置いてかないで!置いてかないでぇぇ!!」
少女が走ってくる。
「あァ、え、と・・・・・・」
かなり動揺しているエルスをよそに雲はぐんぐん上昇していく。
「――逃がすかあ〜〜〜オラあああああ!!」
エルスに飛びつく、半分物の怪に戻った少女。すかさずプシュケの放ったダガーが物の怪を貫き、物の怪は黒い塵となって消えていった。
三人を乗せた雲は、アンラ・マンユのアジト目指し、月光に照らされた湖の上を静かに飛んでいた。エルスは珍しくウィネとは一言も話さず、ボーっと夜空を見上げている。
(間に合ってよかった・・・・・・!)
「♪」
プシュケが微かに笑っているように見えたのは、チコの気のせいでは無いはずだ。チコは何となくだが、プシュケの気持ちを悟った。