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第二十一話

ぼうっとする意識の中、アズライルはズキリと腹部が痛んでうっすらと目を開ける。

「男でありながら、なんと美しい髪・・・高貴な顔立ち・・・。」

誰かがアズライルの髪を指で掬い取り、匂いを嗅ぐ。


「う・・・・。」

軽く腕や足を動かしてみるが、何かに縛り付けられているようで、ガチャガチャと鉄の音をさせるだけで、動かせそうもない。


「殺すには惜しいですわ・・・。アズライル、一言わたくしに愛を誓ってくださるなら、一生この城で生かしておいてあげてもいいですわよ・・・?」

サスキアは冷たく不気味な笑みを漏らしたまま、仰向けに縛り付けられるアズライルをすぐ隣で見下ろす。

「サ・・・スキア・・・、なぜだ・・・・?」

アズライルとサスキアは、従兄弟関係にあり、小さな頃は共に遊ぶ機会も度々あった。その為、2人は面識があったのだ。

「まだ気付いていないのですか?わたくしは、常にあなたをお慕いして毎晩思い悩んでおりましたのに・・・。」

淋しそうにアズライルの瞳をじっと見つめる。

「まさか・・・?」

肩にかかる、ウェーブがかった髪を、耳に掛けると、サスキアは恐ろしいことを口にした。


「一言わたくしを愛しているとおっしゃれば、死刑にならずに済むのですよ?さあ、おっしゃって!。あの、王という名の馬鹿で無能な兄を裏で動かしているのはわたくしですのよ。」





 ほんの一時間程前のこと、アズライルは、弟のオスティスの奪われた力を取り戻すべく、シャラグリア城に潜り込むことに成功した。

しかし、そこでは、既にそれを予測していたメフィストフェレスを、妹サスキアが待ち構えており、アズライスはまんまと罠に嵌ってしまったのだった。



「何者です・・・!明かりをつけなさい!」

サスキアの声が部屋中にこだますると同時に、暗闇だった部屋に目が眩むばかりの明かりが灯る。

大理石のひんやりした部屋の真ん中で、水晶の小箱が厳重に保管されている囲いのすぐ目の前で、何者かが身構えた。


「あ、あなたは・・・・・!。」

驚き、サスキアが吊り上がった勝気な目を大きく見開いた。


部屋の中心で、正にオスティスの指輪を持ち去ろうとしていたのは、なんと、あの4年前の国王暗殺事件で首謀者として捕らえられ、その後逃亡した、あのアズライルではないか。


「今すぐ彼を捕らえなさい!!」

目配せで兵に合図を送ると、すぐさま、一斉に彼に麻酔銃を打ち込み、その身体はどさりと冷たい床に倒れ込んだ。


こうして、アズライルはサスキアの思惑通り、捕らえられてしまったのだった。



「君を愛することはできない・・・。」

アズライルがあからさまにサスキアから視線を逸らした。

「な、なんですって・・・・!・・・・許せない・・・・・・。」

怒りに震え、サスキアが優美なドレスの下に隠し持っていた短剣をアズライルの首に宛がった。

「・・・・!」

「その言葉、後悔しても知らなくってよ・・・?」

吊り上がった目じりからは悔しさの涙がこぼれ落ちる。生まれてこの方、思い通りにいかないことのなかったサスキアには、このような醜態をさらされたことに耐えられなかったのだろう。

「さあ、オスティスはどこ?」

突きつけられた首筋の短剣の刃がわずかに悔い込み、ツツと赤い鮮血が流れ始めた。

「・・・・・・。」

子どもの頃には感じられなかった、サスキアの殺気に満ちた目から、アズライルは身震いを覚えた。



       あの頃のサスキアじゃない・・・・・!

       まるで、誰かに洗脳でもされたようだ・・・・



「さあ、言わないと、本当に殺してしまいますわよ・・・?」

更に持っている短剣に力が加わる。今のサスキアなら本当に殺ってしまい兼ねない。


「誰が、裏で糸を引いている。私を陥れたのもそいつなんだろう?」


驚きの余り、サスキアが一歩飛び退いた。

「な、なんのことですの?そんな者居る訳ないじゃないですの、ほほ。

さっきも言った通り、兄を動かしているのはこのわたくし。」

同様を隠せないのか、持っていた血のついた短剣をガシャンと床に落とす。

その妙な様子を、アズライルは見逃さなかった。


  

        やはりな・・・・。

        何者かが、メフィストフェレスとサスキアを操っている。

        狙いは赤い石か・・・・?



「これ以上無駄口を叩いても仕方ありませんわね。

あなたはを3日後、公開絞首刑に処します。」

冷たく言い放ったサスキアは、何かをアズライルに見破られたのではないかという不安を隠すかのように、ツカツカと振り向きもせず、扉に向かって歩き出した。

アズライルはその後ろ姿を目を細めて見つめる。

「そうすれば、オスティスも堪らずに姿を現すでしょうしね。大切な鍵を持って・・・。ほほほ・・・・。」

そう不気味に言い残して、部屋を後にしたサスキアのローズの甘酸っぱい香水の香りが今もまだ空気中を漂っている。



「まだ、私が石を持っていることに気付いていないみたいだな・・・。」

誰もいなくなった部屋でぽつりとアズライルが呟いた。



       

      オスティス、なんとか指輪を取り戻せ・・・・・!!




その頃、城の中で二手に別れて行動していたオスティスが、なんとかメフィストフェレスの私室に辿り着くことに成功していた。

しかし、まだ、兄のアズライルが捕らえられたことを知らず、こっそりとベッドの下で息を潜め、チャンスを狙っているのだった。

     


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