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第十四話

「あまり力を込めすぎて、赤獅子を殺すなよ?」

白髪と言っていい程に真っ白な長い髪の男・シュゼールは隣に佇む少年に呟く。シュゼールより頭二つ分小さな少年は、片目を閉じたまま、ふざけた調子で答えた。

「分かっとりますって、ちゃんっと力加減しますよ♪威嚇程度の力っしょ?あ〜ホラホラ♪砂嵐は逸れてますっての♪」

「テントを破壊するだけでいい。赤獅子には早く、砂漠の国に辿り着いてもらわねば、我らアンラ・マンユの目的が成就しない」

「アイアイサ〜♪まっかせて下さいな〜♪さぁさぁ砂塵ちゃん、じゃんじゃんテントをブッ飛ばしちゃってくんなさいな〜♪」

ポロン、と肩から下げた琴を鳴らしながら、少年はヘラヘラと笑っている。シュゼールは顔をしかめた。


「どうでもいいが……貴様、その喋りはどうにかならんのか?」

「何言ってんですか♪『永遠の美少年』兼『砂塵を渡る吟遊詩人』たる僕、チコちゃんはいつでもどこでも唄ってないと♪ホラホラ、シュゼール様も歌って踊って♪」

ポロ〜ン、ポロロ〜ン、と少年・チコは琴を鳴らす。ますますシュゼールは顔をしかめる。

彼らより1km先に見えるオアシスに向かって、もの凄い速度で進む大砂塵。肉眼でそれを見つめながら、再びシュゼールは呟く。

「……『永遠の美少年』って、……貴様はまだ16になったばかりではなかったか?」

「細か〜い事は〜、気にしない〜♪」

シリアスをブチ壊すチコと共に、シュゼールはその場から一瞬で姿を消した。シュゼールのため息が残った気がするのは……まぁ気のせいではないだろう。







砂を巻き上げ、湖を濁らせ、辻風はオアシス周辺に群生していた木々を薙ぎ倒していく。その様はまさに『悪魔の砂嵐』と称するにふさわしい。

「クソッ、テントから離れろ!!」

大男が叫ぶが、その声が皆に伝わる前に、暴風にかき消される。同時に、テントがメキメキと音を立てて強引に分解されていく。

(マジかよ……ヘルメスってのは、こんな事も出来んのか!?)

その場にうずくまり、ヨハネスは心中で悲鳴をあげる。目を開く事も叶わない暴風の中、手を使って両耳を塞いでいる。

そんな中。自らの身の安全すら保障されていない中、ヨハネスはアルディアの事が気にかかった。

(そうだ、アルディア!アイツは大丈夫なのか!?)

ほんの僅かに瞼を上げ、ヨハネスはアルディアの姿を探す。いた。ほんの少し離れた場所で、ティラと抱き合ってこの砂嵐に耐えている。ヨハネスは少しだけホッとした。

と、ふと、ヨハネスの視界の隅に、小さな影を発見した。

(なんだ、アレは!?)

小さな影は倒れ伏せたままだった漆黒の少年の元まで歩み寄ると、それを抱えた様に見えた。ヨハネスは驚愕する。

(なっ……この砂嵐の中、動けるのか!?)

明らかに隊商の者ではない小さな影は、目すら開けられない砂嵐の中、姿を消した。漆黒の少年を抱えたまま。

(クソ、何だか分からんが、逃がしてたまるか!)

ヨハネスが一歩、足を踏み出した瞬間、

「みんな!固まるんだ!」

今度ははっきりと、大男の声が聞こえた。その声にヨハネスはハッとする。

(って、んな事してる場合じゃねぇな……俺はアルディアを守るんだ!)

ヨハネスは再び、アルディアに向き直る。大男の声は皆にも伝わったらしく、風に逆らってジリジリと集まっていく。やがて皆がガッチリと肩を結んで円陣を組み、アルディアを中心に押し競饅頭よろしく固まる。

「絶対に離れるなよ!?陣型を崩すな!」

大男の叱咤激励が、初めて、ヨハネスの心に響いた。

それから暫くして、砂塵は少しずつ収まっていく――。







「ふぅ……チコの力加減は、強すぎて加減になってませんね。……まぁいつもの事ですが」

漆黒のマントを身に纏った少女は、フードを外して頭を振る。髪に入り込んだ砂を手で落とし、肩に背負った少年を乱暴に砂の上に下ろす。

「さて。エルス、生きてますか?」

爪先で少年の頬をつつき、生死を確認する。返事はない。

「死んでる……いや、ウェレ……浄化師の力で昇華された、が正しいのでしょうか?」

しゃがみ込み、少女は漆黒の少年・エルスの額に手を添える。

空間移動(さきがけ)のトリスメギストス、浄化師ウェレ。魂のみを別空間に飛ばしただけであれば、私の能力で呼び寄せる事も可能でしょう)

空間移動(さきがけ)の浄化師ウェレ、快刀乱麻(きりさき)の退魔師アズライル。このトリスメギストスの二人こそ、彼女らアンラ・マンユの宿敵である。

(エルス……貴方は絶対に、死なせはしません。私の命に代えても……!)

エルスの額に添えた少女の小さな手が、仄紅く輝き始める。

薬石無効(いやせり)の能力。彼女もまた、アンラ・マンユのヘルメスなのだ。

時間にして、僅か数分。エルスの顔に生気が戻り始めた。

少女がホッとしたのも束の間、

「……もうイイ。邪魔だ」

パン、と。少女の手を鬱陶しそうに、エルスが弾く。

「おはようございます、エルス。もうお昼過ぎですが」

「……あァ、そォだな。太陽がウゼェくらいに眩しい」

ゆっくりと立ち上がり、漆黒の少年・エルスは身体にまとわりつく砂を払う。

「ウェレに、してやられましたね。流石はトリスメギストスと言ったところですか?」

少女の言葉に、エルスの肩が、ピクリと震える。

「……クヒ、キヒヒッ。……ウェレ、か。ヒヒャ、ヒヒャヒャ!ヒヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァ!!」

空を仰ぎ、両手を掲げ、エルスが笑う。

ただし。

その漆黒の瞳だけが、憎悪に灼け爛れていた。

「アイツ……そォか、俺ァ、あのクソ野郎に殺られたワケか。キヒヒヒャ、フヒヒ!イイじャねェの?すッげェイイじャねェの!楽しいじャねェかよ、オイ。アッハッハッハッハ!ウィネも、アイツが殺したなァ!悔しいよなァ、ウィネ。俺ァ悔しいよ。だって負けたンだぜ?……あァ、やッぱ、アズライルはやめだ。先にあっち殺そォぜ、ウィネ」

エルスがいる限り、ウィネは存在する。ウィネが存在する限り、エルスは他を見ない。

少女はエルスを見つめ、告げる。

「それもいいのですが、シュゼール様より命令が下っています」

「……ァあ?邪魔ァすンなよ、プシュケ。俺ァ今、ウィネと話してンだよ」

ほんの一瞬、少女・プシュケは目を伏せ、しかし次の瞬間にはまた無表情に戻し、告げる。

「一旦、アジトまで戻れ、だそうです」

「……チッ、シュゼールの野郎。……分かッたよ、まずァ戻るよ」

砂漠の砂を蹴り上げ、エルスは舌打ちする。

だからか、エルスは気付かなかった。

漆黒の少女・プシュケが、悲しい表情をしている事に。

最後まで――。

砂丘の彼方へ、いよいよ三週目が来てしまいました。W0584Aの月城です。

何だか今回は書きたい事が多すぎて、でも文字数の関係で詰め込みすぎて仕舞い、読みにくいです。いやはや……申し訳ない限りです^^;

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