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第十二話

 ウェレが、来た時と同じ、唐突に空間に消え果てた時、そこに居る誰もが唖然としてただ突っ立っているだけだった。自分の持てる魔術を使い果たしたティラが犬のようにハアハアしている横に、美麗なテントからアルディアが歩み出て来た。

 黒いベールに全身黒装束だが、頭の飾りもイヤリングも腕輪も全て精巧な銀の装飾に包まれたアルディアは、この何もない砂丘には不釣合いなほど美しく可憐だった。

 ちょうど一陣の風が吹き抜け、アルディアのベールと薄い布地で出来た幾重にも重なる腰に巻いたスカートの裾を吹き上げた。その時すらりとした足と、男なら誰もがはっとする艶めかしさを持った美少女の顔が現れた。


「何の騒ぎなの?!」とアルディアは詰問した。

「アルディア様! トリスメギストスらしき者が、この倒れている少年を怪しの力で打ち倒しました。わたしの魔術も効かなかった少年なのに、その者にとっては、いともたやすく倒してしまったのです」

 ティラが大きく息を付きながら答えた。

「ティラ……あなた疲れているわ。すぐにテントで休みなさい」

「やれやれ、わたしの力も落ちたもんだ……」

 ティラはブツブツ何事かつぶやきながら、おとなしく自分のテントに這うようにして戻って行った。


「そのトリスメギストスは誰? 何処に居るの?」

「消えました……。まるで歪んだ陽炎のようなところに一歩足を踏み出したかと思うと、ふっと我々の目の前で消えたのです」

 一人の屈強な戦士がワナワナと震えながら、どもった。

「誰でしょう?」

「ウェレです……」

 その時、端に控えていたヨハネスがポツリと言ったので、アルディアは驚いてマントにくるまっている“見知らぬ”少年を見つめた。

「あなた、誰? え? ヨハネス?」

「はい」

「まあ、見違えたわ! ちゃんとすると、あなたって……」

 アルディアは風に逆らうようにベールを押さえながら言った。「案外、ハンサムなのね」

 再びヨハネスの頬が我知らず赤くなり、胸がキュンとして来た。


−なぜなんだ? なぜアルディアを見る度にそうなってしまうのだろうか?


「ウェレって言ったわね。どうしてあなたはその者を知っているの?」

「思わず言葉が出たんです」

「そう?」

 アルディアの瞳は明らかに不審そうに翳った。

「アルディア様! ここに伸びている訳の分からないガキが、ヨハネスのことを『オスティス』だの『赤獅子』だのと呼びかけていました!」

と戦士の一人が、がなった。


「オスティス!!」

 アルディアは恐怖に叫ぶと、口をベール越しにそのふっくらとした唇に持って行った。

「オスティスですって?! それは本当ですか?!」

「はい、アルディア様!」

「オスティスは、アズライルの弟の名前なのです!!!!」


えーーーっ!

 

 叫び声がそこかしこに上がった。

「やっぱりこいつ、アズライルに関係があったのだな!」

 戦士達が唸り出した。そして戦士達はヨハネス=オスティスのもとに、ぐるりと円をえがきながら近寄った。全員弓なりの刀を持ち、今にもオスティスに襲いかかろうという面構えだった。

「記憶が無かったなんて、嘘だったのね!」

 悔しそうなアルディアの声が飛んだ。

「アズライルこそ、アルディア様のお命を狙っていた者だ! 黙って出立したのも、彼らに分からないようにする為だった。だが、これからは考えを変えなくちゃならんな。とにかく、こいつをひっとらえろ!」


「待って! 彼はわたしを守護する者でもあるのです!」

「それでは……一体……」

「わたしには、訳が分からなくなりました」

 悲しそうにアルディアはつぶやいた。

「彼が刺客だなんて思いたくはない……」


−俺だって、そう思いたくはない。なぜなら俺、この人を好きになり始めているような気がする。だから殺すなんて真っ平だ。むしろ、むしろ、この人を守ってやりたい! 邪悪なものから、この人を絶対に守ってやる! だから皇女、信じてくれ、俺を!


 周囲を戦士に取り囲まれたオスティスの心に、何かが入って来た。


−わたしもあなたを信じたいわ、オスティス! でもアズライルはわたし達にとっては危険な者、異能者、そしてわたしを殺そうと付け狙っているのよ!


 それはアルディアの内なる声だった。ティラ程ではないにしろ、アルディアもまた魔術を使うものだったのを、オスティスは忘れていたのだった。

 周囲に沈黙が広がった。けれどもそれは、誰かの叫び声によってかき消された。


「砂嵐だぁぁぁぁ! あの恐怖の砂嵐がやって来るぞぉぉぉぉ!」 



二巡してきました。ERIKAです。

そろそろ、人物の関係が繋がり始めたかな〜という所です。これからも宜しくご贔屓の程、お願いいたします。

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