第十一話
アズライルが意を決して廃墟の中に踏み込んだときには、時すでに遅し、シュゼールの姿はまるで闇に吸い取られたかのように、気配すら無かった。
ただ、ガラクタを無造作に除けたことがはっきりと埃の剥げた跡から確認できた。
その除けてできたコンクリートの地に、今だ黒い炎を残している奇妙な円陣が描かれていた。
「シュゼールめ、ジップを囮にしたという訳か・・・。
ずる賢い奴だ・・・。」
アズライルはちっと舌打ちをすると、先程のジップの血液が付着した靴底を地に擦り付ける。
それにしても、ウェレは一体どこをほっつき歩いているんだ。
こんなややこしい時に・・・。
そのとき、
『ジジジジ・・・・・』
奇怪な音と共に部屋の上隅の空間に、微かな風が起こる。
それは徐々に強さを増し、地の埃を巻き上げた。
「コホコホ・・。」
思わずアズライルが咳き込むと同時に、一気に空間に歪みが生じ、そこに人1人分程の真っ黒い穴がぽっかりと口を開けた。
「いや〜〜〜、まいったまいった。」
ぬっと穴から手が伸び、足が伸び、出てきたのは他でもないウェレである。
「貴様・・・・。よくもぬけぬけと私の前に現れることができたものだな。」
アズライルは素早く短剣を抜くと、ウェレに投げつける。
ウェレは血相を変えて飛んできた危険なそれを慌てて屈んで避けると
「わ!!っぶないじゃないか〜〜〜、何するんだよ
アズライル。いきなり・・・。」
と叫んだ。
「貴様のせいでシュゼールに逃げられたではないか。
二人いれば確実に仕留められたというのに・・・。」
アズライルは、悔しそうに唇を噛み締めて怒りの矛先を全てウェレに注いでしまっている。
「へ!?ま、まあ落ち着けって。僕もただ遊びに出てた訳じゃないって。」
そう言って、コンクリートの地に突き刺さった短剣をズズっと引き抜くと、再びアズライルに攻撃されかねないことを予想して、とりあえずは近くの壊れかけた椅子の上に置いた。
アズライルはまだ信用していないのか、顔を顰めている。
「砂漠の小さなオアシスで、思いもしない奴と会ってきた。」
ニヤリと笑うウェレの意味有り気な表情に、アズライルは不審に思う。
「誰だ?」
「オスティスだよ。」
「な、なんだと・・・?」
アズライルの目が大きく見開かれる。
にじり寄るアズライルとなんとか距離ととると、ウェレはこう付け足した。
「けど、いい知らせばかりでもない。
アズライル、あんた、アンラ・マンユの手下に罪を被せられてるぜ。
つまり、シャラグリア国を敵に回したってことさ。」