第6話
草原に向かう途中、いい感じに土がむき出しになっている地面があったので魔法を試してみる事にした。
一応周囲を確認して誰もいない事を確認。
目を閉じて魔力を手に集めるイメージをしてみる。
唸れ!俺の妄想力!
そうしてしばらくイメージしていると手が淡く光りだした。恐らくこれが魔力なのだろう。
でも手が光るって仕掛ける時に敵にばれやすいな・・・
光らないようにできないかなと頭の中でイメージしてみると、フッと光は消えた。
手に魔力が集まっている感覚は残っている。
「意外と簡単に成功したな。でも俺ですら簡単に出来るってことは、他の奴もできる可能性が高いな。魔導師と戦う時は気をつけないと」
とりあえず耕してみるか。地面に手をつけてっと・・・
「・・・<アースカルティベイト>!」
そう唱えた瞬間!ズザザザザと言う音ともに当たり一面の地面が耕されていくのだが・・・
「やっべ・・・やりすぎた・・・」
ちょっとだけ耕すつもりが集めた魔力が多すぎたのか数百メートル範囲で耕されていた。
耕された範囲内に生えていた木が柔らかい地面に耐えられなかったのか、斜めに傾いている。
「今度はやりすぎないように注意してっと・・・<アースライズ>!」
一回やってコツを掴んだおかげか、素早く魔力を集められるようになっていた。
グモモモモっと盛り上がっていく地面、今度は百メートルほど直進して止まった。
「威力の調整が難しいな、でも盛り土はちゃんとできてるみたいだ。っと最後に・・・<ストーンイジェクト>!」
パァッと地面が光った後、当たり一面に5cm~30cmくらいの石が転がっていた。
「ふむ、こんなものか。<アースカルティベイト>と<ストーンイジェクト>が範囲効果で<アースライズ>が直線効果だな。
まぁイメージの仕方で変わるかも知れないが・・・やっぱ楽しいな『地』属性!最高だぜ『地』属性!」
っとそろそろ草原に行かないとフリーザ様御一行がミッションを達成してしまうかもしれない。
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草原に到着っと・・・道中で魔物の死体がいくつかあったけど、あいつら掃除してくれたのかね。
ありがたいことだ、俺が襲われないように掃除してくれるなんてさ!
さて、あいつらはどこかなっと・・・目を凝らして探してみる。
・・・いた!100mくらい先にいるようだが、まだボアは見つけられてないようだな。必死に探してやがる。
俺は草に隠れて気配を消し、あいつらの会話を聞いてみる。これだけ離れていても集中すれば聞こえてくるんだから身体強化はありがたいね。
「くそっ!本当にここにいるのか!もう森に帰ったんじゃないか!?」
なるほど、やっぱりボアは森に住んでるのか。見つからないからもう帰ったんじゃないかとフリーザは言ってるわけだ。
「いえ、フリーザ様。ボアはここにいるはずですわ」
「そうです。一度手に入れた縄張りを捨てるとは思えないです。」
「ならお前達二人で探して来い!俺様はここで待ってるからな!」
「わかりましたわ」
「わかったです」
女二人に探させるのかよ!しかも了承してるし・・・
「ったく!何で俺様がこんなFランクの依頼をしなきゃいけないんだ!俺様にはもっと上位のランクの依頼が相応しいのに!」
おいおい、俺から横取りしておいてよく言うな。しかも自分にピッタリって言ってたのに・・・
「にしてもあいつらはいつまで俺様を待たせるつもりだ!」
おぉ、まだ数分も経ってないのにイライラしてる。あんな奴が本当に実力あるのか?とそんな事を考えていると・・・
ガサガサッ!
という音がしてかなりでかい牙が生えた体長2mくらいのイノシシみたいな獣が出てきた。あれがボアかね?
「チッ!ボアか!探しに行ったあいつらは本当に使えないな!父様に言って代えてもらうか!」
とボアを前に両手剣を取り出してかまえるフリーザ。
ふむ、あの様子からして勝てるみたいだな。
それでは・・・作戦開始と行きますか!
「プギィィィイイ!」
おぉ!ボアがフリーザを見て怒っている!わかるぞ、その気持ち!俺も見た瞬間に殴りたくなる!
ドドドドドドドド!
「ハッ!当たるかよ!獣風情が!」
ボアの突進をサッと避け、すれ違う瞬間に手に持った両手剣で斬りつける。
ガギィン!
だがボアの毛はかなり硬いらしくボアに傷ついた様子はなかった。
すげーなボア!剣で斬りつけられても無傷とか、まぁそんな簡単に倒せるなら依頼を出すわけもないか・・・
っとこんな観察をしている暇はない、すぐさま準備しないと!
大事なのはイメージだ・・・あいつの立っている地面が深く・・・柔らかく・・・耕されているイメージッ!
「行くぞっ・・・<アースカルティベイト>!」
詠唱した瞬間、フリーザの立っている地面の周辺だけが柔らかい地面になっていた。
「よしっ!成功した!」
「な!?なんだっ!?」
急に地面が柔らかくなったせいかバランスを取れなくなって焦ってる焦ってる!やばい超楽しいぃい!ひゃっほぉおおおう!
「っと楽しんでいる暇はないな!<ストーンイジェクト>!」
今度は投げやすい石だけをイメージして詠唱する。
こちらも無事に成功したらしく手元の地面が一瞬光った後に、投げやすいサイズの手ごろな石が落ちていた。
「狙いはあいつの手・・・オラァッ!」
俺が投げた石は吸い込まれるようにフリーザの手に命中した。
「ウグァッ!?」
あまりの痛さに剣を落とすフリーザ、その瞬間を待っていたかのようにボアが突撃を開始する。
「プギィィィィイ!」
「な!?ま、まずい!」
逃げようとするフリーザ、だが柔らかい土に足を取られてなかなか動けないようだ。
念には念を入れて足も狙っておくかなと思った時、視界の片隅に映る二人の女の姿があった。
「チッ、もう戻ってきたか・・・どうすっかな」
フリーザも二人に気づいたらしく。
「おい!お前達!俺様を助けろ!」
二人も異常に気づいたらしく、慌ててフリーザの元へ駆け寄っていく。
「おっと!助けさせる訳には行かないよっと!<アースカルティベイト>!」
フリーザにした様に二人が走っている足元の地面を柔らかくしていく。
「な、なんですのこれは!?」
「う、動きにくいです!」
そりゃそうだろう、動きにくくするために唱えてるんだし。にしても『地』属性魔法でこういう事ができるのは知られてないのかな?
いまだに魔法だと気づいていないみたいだ・・・まぁ、本来は畑を耕す魔法だから仕方ないのかね。
「くぅっ!こうなればイリス!魔法を使いなさい!」
「駄目です!届かないです!」
「それでもいいから使うのですわ!」
「わかったです!」
おっと、やっぱり黒髪おかっぱは魔導師か。名前はイリスと言うようだ。届かないと言っているが止めておかないと、万が一と言う事もあるからな。
「狙いはフリーザの時と同じ手で大丈夫だろ、詠唱が出来ないように喉を狙ってもいいが喉だと殺してしまうかも知れないからな。
死の恐怖を刻み付けて殺さないと面白くないし・・・フンッ!」
こちらも狙い通りにイリスの手に当たる。
「あいたっ!」
と杖を落とすイリス。
「イリス!何をやってますの!」
「ち、違うです!石が飛んできて手に当たったです!」
「そんなのどうでもいいですわ!早く杖を拾って魔法を・・・!」
と言っている間にもボアはフリーザへと迫り・・・
「や、やめろ!俺様は勇者の子孫なんだぞ!偉いんだぞ!」
HAHAHA!獣相手に命乞いとか最後まで楽しませてくれるな。
「う、うわぁあああああ!?」
ドンッ!というでかい音とともにフリーザは吹っ飛んでいった。にしても全身に鎧をつけた男一人を吹っ飛ばすなんて、ボアってどれだけ強いんだよ。
「「フリーザ様!」」
二人が叫ぶが・・・ボアは追撃の手を弱める事をなく吹っ飛んだフリーザへ向かって更に突撃をかけていった。
「うはー容赦ねぇな・・・あれで生きてたらとりあえず目の前でおちょくってやろう」
とある程度フリーザに突撃をして満足したのか、次にボアは二人の方へ威嚇を始めた。ちなみにフリーザは地面に倒れたままピクリとも動かない
「プギプギィ!」
「よくもフリーザ様を!許しませんわ!」
「許さないです!」
と二人はボアと戦う気満々みたいだ。
んーどうすっかな、二人には特に恨みとかないけど俺のドS心が疼いているからとりあえずボアにやらせて様子をみよう。
「プギィイイイイイイ!」
二人に突進していくボア!狙いはイリスのようだ。
「イリス!早く魔法を唱えなさい!」
「わかってるです!<ファイアボール>!」
杖に光が集まりイリスが詠唱をすると杖の先から15cmくらいの丸い形をした火の玉が飛び出してきた。
ふむ、杖についてた赤い石から『火』属性っぽいと思ってたけど本当に『火』属性だったのか。
ってか他人の魔法を初めて見たけどやっぱり『地』属性だけ地面に手をつけないといけないっぽいな。
戦闘中に地面に手をつけるのは隙が大きいからなぁ、時間があるときに色々試して改良しないとな・・・案はあるんだけどな!
っと続き続き。
火の玉がボアに迫るが、ボアは避けようともせずにそのまま火の玉に突っ込んだ!
「うは!ボアさんすげー!」
思わず、さん付けしてしまうほどの勇ましさを見せたボアは火の玉が当たっても額の毛がちょっと焦げただけだった。
「かっけー!ボアさんかっけー!」
とテンションがハイになってしまった俺と違って二人は驚き焦っていた。
「な、何で効かないんですの!?イリス!ちゃんと魔力は込めましたの!?」
「込めたです!何で効かないのかこっちが聞きたいです!」
「くっ!こうなったら、わたくしが!」
と言って腰に下げたレイピアを取り出し構える金髪縦ロール。
うーん、ボアの突進力でカウンターが決まれば串刺しでボアは死ぬかもしれないな。それは困るなぁ、せっかく楽しくなってきたのに。
「これでもくらいなさい!」
突進してくるボアに向かってレイピアを突き出す!・・・が足場が悪いせいか真っ直ぐ突けないようだ。
念のためにボアの様子も見てみる。すると金髪縦ロールと同じように足元を耕されているはずなんだが関係ないとばかりに突っ走っている。
すげぇな!野生の力かな!
「きゃあっ!」
と跳ね飛ばされる金髪縦ロール。跳ね飛ばされた衝撃でレイピアも落としたみたいだ。
「これは終わったかな」
と思っていると
「よくもジュリアを!これならどうですかっ!<ファイアアロー>!」
ふぅん、金髪縦ロールはジュリアというのか。っと今はそんな事考えてる場合じゃないな。
詠唱を終えたイリスの持っている杖の先から30cm程の火の矢が飛んだ!
火の矢はそのまま吸い込まれるようにジュリアに追撃をかけようとしていたボアの額を貫いた!
「プギィッ!?」
「ボアさぁああああん!」
と超小声で相手に聞こえないように叫ぶ俺。
だが貫いたように見えた<ファイアアロー>はさほど効いていないようで、また額がちょっと焦げているだけだった。
「ふぅ、流石だぜ、ボアさん!一瞬焦っちゃったよ!」
「な・・・なんで効かないですか!おかしいです!こ、こうなったら私が覚えてる魔法で一番攻撃力の高い魔法を使うです!」
初撃が全く効果なかったんだから、二発目にその魔法を撃てばよかったのにな!
出し惜しみするなんてお馬鹿さん!
まぁ、ボアが死ななかったから俺にはありがたいんだけどね!
「プギィィ!プギィィ!」
おぉ、流石のボアも、今の<ファイアアロー>は痛かったようだ。かなりご立腹のようで目標をジュリアからイリスに変更した。
ドドドドドドと派手な音を立てつつイリスに向かって突進!
さて、また魔法を唱えられたら面倒だから妨害するかな。いや、でも攻撃力の高い魔法を見てみたい気もする。
「いくです!<ファイアランス>!」
イリスの上空に、1mはあるであろう火の槍が出てきた。
あれ?杖の先から出てくると思ったんだが、魔法によって変わるのかな。
上空に出てきた火の槍がボアへ向けて一直線に飛ぶ!当たるかと思ったその時!
ドドドドド・・・ピタッ!
ボアが急停止したのである!直進していたら当たっていたであろう火の槍は、そのまま地面へと突き刺さり消えていった。
「な!?避けるなんて・・・もう魔力が・・・」
魔力切れるの早いな、まだ3発しか撃ってないはずだが・・・それとも別行動してる時に何回か戦闘したのかね。
それに杖の先から火の槍が出てたら角度的に停止しても真っ直ぐ貫いたのに、運がないなぁ、ハッハッハ!
と考えている間にイリスは跳ね飛ばされて倒れていた。
あれ?イリスは鎧を着てないからボアの牙に胴体を貫かれると思ったんだけど、
貫かれなかったな・・・何でだろう?まぁ、見に行けばわかるかな?
全員動かない事にボアは満足げな表情している。
にしても『地』属性を使った初の戦闘は思いのほか上手くいったな。
魔物相手に通じるかわからないが常識で凝り固まった人間相手なら楽勝レベルだろう。
まぁ、これが戦闘って言えるかどうかわからないけどね!やっぱり楽しいな『地』属性は~♪
それに結構魔法使ったのに魔力も全然減ってないみたいだしな。
強化されてるとはいえもっと減ると思ったんだけど・・・初級魔法だからかな?
ようやく戦闘?シーンです。