第15話
やばい・・・どうしよう・・・
俺は今、異世界に来て最大のピンチを迎えていた。
事の始まりは朝まで遡る。
空が明るくなり始めた頃・・・
「ギョッギョッギョッギョッギョッギョーエー♪」
「朝からご機嫌だな・・・」
ギョエ助が朝からリズム良く鳴いている横で俺は目を覚ました。
「あぁ~っと、もう朝か。あんまり眠れなかったなぁ・・・」
睡魔はすぐに襲ってきたのだが、途中で目が覚めてある事を思い出したのだ。
結界針の効果って魔物を防ぐだけで人間には効果ないよな?と言う事を・・・
人間に効果がないって怖い!怖いよ!だから確認するために何度も目が覚めちゃったよ・・・
まぁ、そんな事があればギョエ助が気づいてくれると思うんだが・・・
過信はしたくないし?まぁ、野宿初日だし?って事もある。
早く街に着けるように頑張るしかないな。
頑張るのは俺じゃなくてギョエ助なんですがね!
にしても、やっぱり起きた直後は口の中が気持ち悪いな。
昨日は疲れてたから何もせずにそのまま寝てしまったが、今日はうがいだけでもしておくか。
ゴロゴロゴロ・・・ペッ!
やっぱり洗浄水を味わった後じゃ物足りないな・・・トゥルトゥルが足りないんだよぉおお!
まぁ、無いものは仕方ない。
「さて、今日もガンガン進むぞ。ギョエ助」
「ギョエッ」
頷くギョエ助。
「その前に朝飯の準備だ!」
「ギョエー!」
道具袋から薪を出し、着火石で火をつける。
ボッと勢い良く燃え出した薪に、俺は片手鍋を用意して手で千切った野菜を入れていく。
今日の野菜はヒッホー。形はレタスに近いかな。色は鮮やかな青・・・食欲が無くなると思うだろう!?
だが!だがしかし!このヒッホー!熱を加えると色が変わるのである!それはもう鮮やかな赤!燃え盛るような赤!
味は酸味がちょっと利いた感じだから甘めの調味料で味を調整。
そして完成!甘酸っぱいヒーホー炒めの出来上がりだぁあああ!
初恋の・・・味がします・・・
嘘ですけどね!
そんなこんなで飯も食い終わり一息ついた所で便意が催して来たのでギョエ助に待っててもらうように頼む。
「ギョエ助、ちょっと待っててくれ」
「ギョエッ」
さーてトイレトイレ・・・と木が生い茂って出来た物陰に移動したその瞬間!俺はとんでもない事に気づいてしまったのだ!
紙がないのである!!
こうして話は冒頭に戻るわけだ・・・
便意はある!だが紙がない!大ピンチである!
くぅ!昨日は朝のうちに宿屋で済ませてたから気づかなかった!
ちくしょう!異世界に来て最大のピンチが紙が無いってどういうことだよ!
どうすればいいんだよぉおおおおおおおお!
ふぅ・・・スッキリした・・・
いやぁ・・・葉っぱで拭くのも悪くないね。
かなりゴワゴワしたけど、そこは仕方ない。
さて、戻るか。
「待たせたなギョエ助、出発するか」
「ギョエッ!」
荷物をまとめて騎乗完了。
「出発!」
「ギョエー!」
こうして俺の異世界での最大のピンチはあっさりと解決したのであった。
――――――――――――――――
見渡す限りの平原を走る俺達。
空は青く澄み渡り、俺達を歓迎しているようだ・・・
あーあー、このまま何事も無く街まで着かないかなー
と願った直後、俺の願いは打ち砕かれたようだ。
俺とギョエ助の進路の先には大量の砂埃が舞っている。
「ギョエ助、止まれ」
「ギョエッ」
俺の指示を聞いて停止するギョエ助。
あれだけ砂埃が舞ってるって事は何かいるな・・・何だ?と思って目を凝らして見てみる。
「あれは魔物か・・・?一体何をやってるんだ?」
「プギィィィィルルウァアア!」
そいつらは豚のような頭を持ち、体もブクブクと太った醜悪な姿をしている魔物だった。
観察してみると、どうやら商人の荷馬車を襲撃した後のようだ。
辺り一面に散乱している死体と商品がそれを証明している。
さて、どうするか・・・
豚頭の魔物、とりあえずオークと名づける。
オーク達がまだ武器を振り回して暴れている所から見て、生き残りはいるようなのだが・・・
正直関わりたくない。
と言うわけで・・・
「ギョエ助、あいつらに見つからないように遠回りするぞ」
「ギョギョエー」
頷き走り出そうとするギョエ助・・・が、
「ギョエッ!?」
突然走り出すのを止めてオークの集団がいる方角を見つめるギョエ助。
何だ?と俺はギョエ助が見ている方へ目を向ける。
「さっきと変わらな・・・」
ドッゴォオオオオオオン!!
いきなりの爆音と共に風が吹き荒れ、大量の砂煙と一緒にオークの死骸や持っていた装備の破片などが飛んできているのが見えた。
「なっ!?」
やばい!急いで周りを見回してみるがこの辺りの平原には盾に出来そうな物は何もない。
チィッ!と内心で舌打ちをしつつ、俺はギョエ助の上から飛び降りた。
「ギョエ助!逃げろっ!」
「ギョエェエエエエ!」
そう指示している間にもこちらへと近づいてきている砂煙・・・
ちくしょう!間に合えよ!そう思いつつ地面に手をつける。
「<ストーンイジェクト>!!!」
これで防げるかはわからないがやらないよりマシだろ!
ありったけの魔力を込めてこの辺り一面の石ころを集める。
今までに込めた事のない魔力量のせいか、いつもより輝きが強い。
これならっ・・・!
――――――――――――――――
「どうしようかギョエ助・・・」
「ギョエー・・・」
うん、呪文は成功したんだ。飛んできた破片も防ぐ事は出来たんだ。
確かに俺も魔力を込めたよ、緊急事態って事もあったしさ。でも・・・
「高さ10mに届きそうな石ころの山が出来るって・・・」
そう、強い輝きの後に現れたのは石ころが積み上がって出来た山と言ってもいい大きさの物だった。
石が出現した瞬間に爆風が来たのだが、爆風によってある程度外周部の石ころが吹き飛んだにもかかわらず、この大きさなのである。
んー・・・よし、放置していこう。さっきの爆発も気になるし。
元に戻す方法なんて知らないからな!
「行こうかギョエ助」
「ギョエッ」
いざという時、すぐに行動できるようにギョエ助から降りたまま移動する事にした。
石ころの山を迂回して爆発が起こった場所へゆっくりと近づいていく。
遠くからでも見事なクレーターが出来ているのがわかる。
「これだけの爆発だと生き残りはいないだろうなぁ・・・」
「ギョエー・・・」
「ギョエ助、何か異変を感じたらすぐに逃げるんだぞ」
俺はギョエ助に注意を促す、また、あの規模の爆発が起こったらヤバイからな。
「ギョエギョエッ」
ぶんぶんと首を縦に振るギョエ助。
そうして近づいていくと何かが動いているのが見えた。
「んん・・・?生きてる奴がいるのか?」
あれだけの爆発があったのに?と思いながらよく見てみると、下半身が爆発で吹っ飛んだのか上半身のみで動いているオークがそこにいた。
下半身が吹き飛んでいるのに出血している様子がないのは傷口が焼け焦げているからだろう。
「上半身だけで生きてるのかよ・・・すごい生命力だな・・・」
その内死ぬと思うが・・・殺しておくか。
俺は道具袋から石を取り出して投げる。
狙いは頭で良いだろう。
「ソイヤッサ!」
石はオークの頭に直撃。
「プギャッ」
脳髄を撒き散らしながらオークの体は数回痙攣・・・そして動かなくなった。
よし、これで大丈夫だな。
他に何か動いてる物がないか注意しつつ、クレーターの端へと近づいて行くと焼け焦げた様な嫌な臭いが鼻についた。
臭いを我慢しつつクレーターにたどり着いたが、中を覗いても焼け焦げた地面があるだけで、他には何も見当たらなかった。
「ふむ・・・何が爆発したのかは流石にわからないか・・・」
だが、ギョエ助が爆発する前に反応してたって事は・・・魔法か?
でもなぁ、危険を感じて反応したって事も考えられるし・・・
ちょっと聞いてみるか。
「ギョエ助、爆発する前に何か反応してたが魔力に反応したのか?」
「ギョー・・・ギョエッ」
ちょっと俯いて考えた後に曖昧に首を横に振るギョエ助。
ふむ、じゃあ・・・
「危険を感じて反応したのか?」
「ギョエー」
この質問にも曖昧に首を横に振る。
あれ?どっちも違うのか?
んー・・・もしかして・・・
「両方に反応したのか?」
「ギョエーッ!」
その通りだと言わんばかりに嬉しそうな顔で首を振るギョエ助。
うーむ、両方か・・・これが魔法だとしたら、術者も巻き込まれて死ぬと思うんだけどなぁ。
そんなおもしろ・・・危険な魔法、普通は使わない・・・ハズ。
まぁ、使った術者が生きてるならぶん殴ってるんだけどな!
危うく巻き込まれて怪我をするところだったんだからな!下手したら死んでたかもしれないし!
とりあえず、これ以上考えても分からないだろうし、先へ進むとしよう。
臭いが酷いから早く立ち去りたいって言うのもある。
「行くか、ギョエ助」
「ギョエー」
こうして俺とギョエ助は石ころの山とクレーターを放置しつつ先へ進むのであった。
この臭い落ちるのかな・・・染み付いてたら嫌だなぁ・・・
――――――――――――――――
日も完全に昇りきった頃・・・俺とギョエ助は木陰で小休憩をしていた。
ちなみにお昼ご飯は生野菜を仲良くボリボリ食べるだけである。
野菜は水分の多いスキューリングという野菜をチョイス!
この野菜はドーナツ状のきゅうりみたいな形をしていて、どのくらい水分が多いかと言うと、一口噛むとジュワッと口の中に溢れて来る程である。
味はほんのりとした甘さが美味しい。まぁ、野菜独特の青臭さはあるがそこは仕方がないだろう。
「さて、行くかー」
「ギョエー」
小休憩も終わり、そろそろギョエ助に騎乗しようとした所でサイクォッツ方面から帳の付いた荷車がやって来ているのが見えた。
荷車を牽いてるのは八本足の巨大トカゲ、エイレッグリザードだ。
なるほど・・・乗り心地の悪いエイレッグリザードを牽引に使用してるのか。
考えてるなぁと観察していると、荷車の前に座ってエイレッグリザードを操っている御者が目に入った。
御者は革鎧を着込んでおり背中には剣を身に着けている男だ。
冒険者かな?まさか盗賊ギルドの連中じゃないよな・・・?
流石にそれはないか、来るとしたらカルナッタ方面からだと思うし。
まぁ、念には念を入れておこう。
「ギョエ助、何かあったら、すぐに走り出せるようにしておけよ」
「ギョエッ」
ギョエ助に指示した後、荷車が通り過ぎるのを待つ。
そのまま通り過ぎると思った荷車は徐々に速度を落としはじめた。
あれれ?このままだと俺の前で停止しそうなんだが・・・
と思っていたら予想通り俺の前で停止した。
停止するなよ!通り過ぎろよ!
「こんにちは」
御者の男が話しかけてくる。年齢は十代後半って所かね?
「あぁ、どうも」
一応返事はするよ!
返事をしつつギョエ助を確認するが警戒している様子は見られない。
「この辺りで何を?」
「疲れたから休憩してたんだよ」
「そうですか、カルナッタから来られたのですよね?」
「そうだが、あんたはサイクォッツから来たんだろ?」
「えぇ、サイクォッツの冒険者ギルドから依頼を受けましてね。今向かってる所なんですよ」
ふーん、やっぱり冒険者だったのか。若いのに頑張ってるなぁ・・・
「それでですね、この辺りでブォークの集団を見かけませんでしたか?」
ブォークがどんな魔物か知らねぇよ!
「ブォークってどんな魔物だ?」
「そうですね・・・ボアのような大きな鼻がついた頭を持つ、肥え太った魔物です」
んー・・・?俺がオークって名づけたあいつかね?
「その魔物であってるかどうかは知らないが途中で魔物か何かの死骸を見たぞ」
「えっ?本当ですか?」
「あぁ、だが頭が無かったからボアのような鼻だったかどうかはわからなかったが」
頭をぶっ飛ばしたのは俺ですがね!後の死骸は爆発で吹き飛んでたから知らないよ!
「そうですか、ありがとうございます」
と御者がお礼を言った所に
「ねぇ~いつまで止まってるのぉ~?早く行こうよ~」
と妙に肌を露出したショートカットの女が帳付の荷車から出てきた。
うわぁ・・・と思ってよく見ると双剣を腰に装備している。
こいつも冒険者か?すごい軽装だな。
ちなみに気になる服装だが、スポーツブラみたいな上服に太もも部分で切ってあるズボン、靴は普通のロングブーツのようだ。
上服には左胸だけを覆う金属プレートがしてあるが・・・へそ出しですよ奥さん。へそ出し。
大事な事なので二回言いました。
だが残念なのはおっぱいが無いってことだな!軽装なのに全く揺れてない!無念なり!
まぁ、おっぱいに罪はないのだが・・・
と馬鹿な事を考えていると
「むぅ~何ジロジロ見てるのさっ」
怒られちった。
「これは失礼、突然美しい女性が出てきたものですから驚いてしまって・・・」
自分で言っててわかる。俺、気持ち悪い。
ギョエ助も微妙に嫌そうな顔をしている気がする。
「えっ!?そ、そう?照れちゃうなぁ~」
おぉ、効果あったぞ!
良かった・・・[徹底的にキザになれ!これさえ読めばあなたもキザ男!]を読んでおいて・・・
ちなみにこの本、古本屋の50円コーナーに置いてあったものだ!ネタになるかと思って買ってみたら結構面白かったのである。
他にも色々とキザな台詞やキザな動作が載っていたが初心者向けのこの台詞だけで気持ち悪いから上級者向けは永遠に使う事はないであろう・・・多分。
え?何で使ったかって?
・・・その本に頭のゆるそうな女に使えって書いてあったからだ!なんて俺の口からは言えないよ。
フッ・・・初心者向けとは言え実践した自分が怖くなるぜ。
あっ、ちなみに本に載っていた動作や行動は全部マスターしてるからね!人をおちょくる為なら努力をする男!それが俺!
「はぁ・・・冗談に決まってるじゃないですか。貴女の格好に呆れてただけですよ」
照れている女に向かって御者の男が呆れた様子で声をかける。
「むぅ!違うもん!それにこの格好は動きやすいからいいんだもん!」
「もう、行って良いかな?」
何か最終的にイチャイチャしそう雰囲気なんだもん。
「あぁ、すみません。お手数をお掛けしました。ほら、もう出発しますから乗ってください」
「むぅ、まだ話は終わってないんだからね!あっ、またねっ!お兄さんっ!」
お兄さんか・・・おじさんじゃなくて良かった・・・
「えぇ、また」
会えるかどうかは知らないけどな!
そして俺とギョエ助は再度サイクォッツへ向けて走り出した。
お気に入りが5000件目前だったので、びっくりして鼻水噴出しちゃいました。
皆様ありがとうございます。
次の更新は明日か明後日です。
それではまた。