第10話
「ヌンドォオオック、出ておいでー何もしないからー」
と呼びかけながら森の中でヌンドックを探す。
ヌンドック出てこないよ・・・まぁ、探し始めて5分も経ってないんですけどね!
ガサガサッ!
「おっ?ヌンドックか?」
と思い見てみると出てきたのは・・・
「ウサギかよ!期待外れだよ!」
こちらをつぶらな瞳で見ている50cm程のウサギらしき生き物だった。ちなみに毛は茶色。
「にしても垂れ耳ウサギとはマニアックな・・・」
そう、一般的なウサギと違いこのウサギは耳が垂れていた。
「でかい垂れ耳ウサギって確かに可愛いけどさぁ・・・今はヌンドック探してるんだよねぇ・・・」
「ヌーン」
・・・えっ?ヌーン?
「もしかしてヌンドック?」
「ヌゥン?」
おいおい!犬じゃねぇのかよヌンドックって名前なんだからよぉおおお!
いやいや!待て俺!確かにヌーンと鳴いているがヌンヌンとは鳴いていない!
あとこいつが魔獣には見えない!違う!獣違いだ!そうに違いない!
っていうか普通の獣と魔獣の違いを聞いてくるんだったZE!うっかりミスだっ!
俺がそんな事を考えていると、ヌンドック?はこっちに近づいてきて俺の匂いをスンスンと嗅ぎ始めた。
「大人しいっていうのは当てはまるな・・・どうするよこれ」
・・・とりあえず撫でておくか。
ナデナデ
「ヌーン♪」
気持ち良さそうに目を細めるヌンヌン。
ナデナデ
「ヌーン♪」
気持ち良さそうに・・・以下略
「・・・ハッ!こんな事してる場合じゃねぇ!?」
「ヌゥン!?」
「おっと驚かせてしまったな。スマンスマン」
と言いつつ再び撫でる俺。
「ヌーン♪」
癒されるな・・・この世界に来て初めての癒しだ。
まぁまだ二日目なんだけどね!
にしてもなぁ・・・受付はすぐ判断できるって言ってたんだけど判断できねぇええ!
ドックだろ?ヌンドックなんだろ?これウサギじゃん!俺が悪いのか?俺の先入観が悪いのか?
これでこいつが犬とかいうオチだったら俺は絶対に許さんぞ!この世界を!
とヌンドック?をナデナデしながら軽い現実逃避をしていると
ガサガサッ!
「またかよっ!今度は何だ?」
と思い見てみると
見るからにガラの悪そうな男が二人出てきた。
「おい兄ちゃん!その魔獣を渡してもらおうか!」
またこういうフラグかよ!っていうか魔獣なのかよ!あと呼ぶなら魔獣じゃなくて正式名称で呼んでくれよ!
「その前に聞きたいんだが・・・」
喋りかけて来た髭男に逆に尋ねてみる。
「あぁ!?何を聞きたいってんだ!」
「この魔獣の名称を教えてくれないか?」
「・・・あぁ?兄ちゃん知らねぇのか?」
「全く知らないね」
「そいつぁヌビットって言う貴重な魔獣でなぁ!その筋の愛好家には高く売れるんだよ!」
・・・やっぱりヌンドックじゃなかったぁああああ!俺の予感ギリギリ当たってたぁあああ!
っていうか名称しか聞いてないのに貴重とか高く売れるってわざわざ教えてくれるとか髭男ナイス。
「喋りすぎだ馬鹿!おい!お前!さっさと寄越せ!」
と思っていたらバンダナをつけた男に髭男が注意されていた。哀れ髭男。
「残念だが・・・そいつは無理な相談だな」
俺は二人に堂々と言ってやった。
「おいおい兄ちゃん!教えてやったのにそいつぁねぇよ!」
「断るなら痛い目にあってもらうしかないな!」
フッ、脅しなんかに俺は動じない何故なら・・・
「おいおい・・・お前ら・・・まだ気づいてないのか?」
「あぁん!?何をだ!」
「もうとっくにヌビットはここにいないと言う事に!」
「「な、なんだとっ!?」」
依頼の魔獣じゃない時点で捕獲しておく意味がないからな。
まぁ、俺が逃がしたんじゃなくバンダナ男が髭男に注意してる隙に勝手に逃げ出したんだけどね。
「おい!早く追いかけるぞ!今ならまだ追いつける!」
「あぁ!」
そう言って髭男とバンダナは去っていった。
・・・ウサギを追いかける男二人組とか第三者からすれば微笑ましい光景だよね。
「さて、俺は俺でヌンドックを探すかー」
――――――――――――――――
・・・見つからぬ!見つからぬぞ!
既に1時間以上捜し歩いてるがヌンドックのヌの字も見つけられぬ!
ってかヌビット以降生物見かけねぇえええ!この森よくわかんねぇええ!
どうすればいいんですかぁああああ!
と絶望にくれていると・・・
「ウワァアアアアア!」
という声が聞こえてきた。
「また救助フラグかぁ!」
と叫びながら俺は声が聞こえてきた方へと向かう。
襲っているのがヌンドックだったらいいなと思うが大人しい魔獣らしいから期待はせずに行ってみる。
え?関係なさそうなら行かなければいいじゃないかって?
・・・人が襲われてるんだぞ!あと、こんな面白そうな見世物を行かない訳ないだろ!
っとそろそろかな、速度を落として隠れ身の術っ!
隠れ身の術って言ってもただ単に物陰に隠れてるだけですけどね。
さてさて、どうなってるのかなぁっと覗いてみると・・・
一人の男が倒れていた。
あるぇー?結構急いできたんだけどもう終わったのかね?
とりあえず男に声を掛けてみようか。
物陰から出て男に近づいて行こうと思ったのだが、起き上がりに襲われてると言うパターンもありそうなのでちょっと離れた距離から話しかける。
「おーい、生きてるかー?」
声をかけると男の指が動き、顔をこちらに向けた。
何だ、死んでると思ったのに普通に生きてるみたいだな。つまらん。
「一体何があったんだー」
「・・・うっ・・た、たすけ・・て・・・足が動かないんだ」
「お断りします」
とりあえず一回は断っておかないとね。
「そ、そんな・・・」
うはは、絶望してるぞ。
「まず何があったか説明をしろ、助ける助けないはそれから決める」
怪我してたら問答無用で助ける善人主人公とは違うのだよ!
「ま、魔獣に襲われたんだ」
「まぁ、それは見ればわかるよ。何ていう魔獣に襲われたんだ?」
「ヌンドックだ・・・」
ここで来た!ヌンドック来た!ヌンドック来たぞぉおおおお!
っと冷静に冷静に・・・
「大人しい魔獣だろ?何で襲われたんだ」
受付からはそう聞いてるぞ!
「・・・」
おろろ?急にだんまり決め込んじゃいましたよ?
「どうした?急に喋らなくなったな」
「うっ!足が痛くて・・・先に治療をしてくれないか・・・」
「今喋れてるだろ?ほら、さっさと襲われた理由を言えよ」
「ヌンドックの・・・子供を捕獲したんだよ・・・」
「ふーん、それで親に襲われたのか。もしかしてヌンドック捕獲の依頼か?」
「あぁ!そうさ!依頼を受けて探しに来たら都合良く子供だけ居たから捕獲して
街に帰ろうとしたところを襲われたんだ!理由は話しただろ!速く治療をっ!ウグッ!」
叫ぶ元気があるなら大丈夫だろとか思わなくもない。
「待て待て、落ち着けよ。その親は子を取り戻したんだろ?どっちに行ったんだ?」
「あっちだよ!もういいだろ!動けないのはつらいんだよ!早く治療してくれよ・・・」
「だが断るっ!」
「なっ!何でだよ!全部話しただろ!?」
「いやぁ、悪い悪い。言ってなかったけど俺も同じ依頼受けててさぁ。ヌンドックが必要なんだよねぇ」
「なっ!?」
「だから放置させて貰うわ、治療は他の人に頼めばいいよ。それじゃ」
そう言って男を放置して立ち去る俺。
「ま、まってくれ!こんなところ誰も通るわけがっ!」
何か聞こえる気がするがスルー。
いやぁ、ヌンドックの情報が手に入ってよかったよかった。
――――――――――――――――
情報通りの方向へ俺は急いで走る。
ヌンドックって名前的に犬っぽいから素早いと思うんだ。
だから結構な速度を出して走ってるんだけど・・・
履いてるサンダルがパカパカになってきた。
やっぱ靴買わないと駄目だな。でも靴下売ってるの見た事ないしなぁ。
ムムム、悩む・・・とそんな事を考えていると何やら物音が聞こえてきたので
微妙に方向転換して物音がした方へ向かう。
するとそこにいたのは・・・
1m程の白い犬と20cm程の白い子犬がいた。
「これは当たりかなっと!」
「グヌルルルルッ!」
・・・うん、当たりっぽい。
威嚇にもヌが入ってるし、
「さて、どうすっかねー」
威嚇されながら捕獲方法を考える。
んー親を殺して子供だけ連れて行くか?
それとも親だけを捕獲して連れて行くか?
親子仲良く捕獲して連れて行くっていうのもアリだよね。
依頼で数の指定はなかったから何頭連れて行っても大丈夫だろうとは思うんだけどね。
にしても1mサイズで小型ねぇ・・・大型だとどれくらいのサイズになることやら。
っといつまでも考えてる訳にはいかないな、逃げられても困るし。
さっさと捕獲して帰ってご飯にしよう。
「グヌァッ!」
「うぉっ!」
危ない危ない
行こうと思ったら襲い掛かってきやがったZE!
まぁ、即座に回避行動を取ったから怪我は無いからいいんだけど・・・
ちょっとイラッとしたよ!だから殴り飛ばすよ!
「グヌヌルルルッ!」
「・・・」
睨み合う俺とヌンドック・・・いつ動きがあってもおかしくない。
「ヌンヌンッ!ヌンヌンッ!」
子ヌンドックが俺に向かって吼えたその瞬間、止まった時が動き出すっ!
「グヌァッ!」
「舐めるなよ駄犬がぁっ!」
襲い掛かって来たその瞬間、俺は握った拳を親ヌンドックの顔に向かって振りぬく!
もちろん手加減は忘れずにね!
バキィッ!
「キャヌンッ!」
「ヌンッ!」
見事に顔面にヒットし倒れた親ヌンドックに心配そうな子ヌンドックが駆け寄る。
終わったと思ったが手加減しすぎたのか、フラフラと起き上がり逃げようとするヌンドック親子。
「逃がすかよっ!」
急いで地に手をつける。
「<アースカルティベイト>!」
ヌンドック親子の足元をふわっふわに耕す。
「追加で<アースライズ>!」
<アースライズ>は唱えなくても大丈夫だと思うが今回は実験も兼ねている。
直線効果だった<アースライズ>はイメージの仕方で変えられるかどうか・・・だ!
今回のイメージは円形、ヌンドック親子を囲い込むのだ。盛り土くらいなら逃げられるだろって?
いいんだよ、ちょっとした実験と時間稼ぎだからぁ!
「よっしゃ成功っ!」
円状の盛り土がヌンドック親子を取り囲んだ。
フハハハ!最高だよ『地』属性!
さてさて、追いつめましたよっと。
「ヌゥン・・・ヌゥン・・・」
不安になったのか子ヌンドックが親ヌンドックに向かって鳴いている。
「グヌルルルル・・・」
親ヌンドックは俺に向かって威嚇をしているが、迫力があまりないのは弱ってるせいか。
まぁ弱らせたのは俺なんですがね!
さてさて、縄で口を縛るとしますかね。
「動くと殺すぞ?」
と威圧を込めながら近づいていく。
まぁ、ヌンドックも俺の力がわかっているのだろう。近づいていくとすぐに大人しくなった。
良かった、知能はある程度あるようだ。これがゴブリンとかだと確実に死ぬまで暴れるもんなぁ。
というか本来もっと簡単な依頼だったっぽいのに、あの倒れてた馬鹿が子供に手を出したからこんな事になったんだよな。
さて、とりあえず口を縛ってと。
親ヌンドックは大人しく縛られたが子ヌンドックはイヤイヤと首を振っている。
まぁ、子ヌンドックの方はいいか。
というかどうやって連れて行けばいいんだ?1m程のヌンドックを担いでいくのは荷物も持っているから無理。
首に縄をつけて連れて行くか?でも引きずっちゃうと傷がついちゃいそうだしなぁ・・・
子ヌンドックだけ連れて行くのも何だかなぁって感じだし。
仕方ない、首に縄をつけてみるか。
「いいか?引っ張る方向についてこいよ?」
駄目もとで言ってみる
「・・・ヌン」
・・・返事しちゃったぞ。口を縛ってるのに器用な奴め。
まぁ楽になったからいいや。
ちなみに子ヌンドックは肩に乗せて歩いている。
人質ならぬ犬質である。
そして俺は森の出口を目指して歩き出した。
――――――――――――――――
森をひたすら歩いて出口を目指す
その途中で俺は面白い事を思いついた。
1.ヌンドックを引き渡す。
2.依頼達成書を貰う。
3.ヌンドックに逃げてもらう。
4.ヌンドック捕獲依頼を受ける。
5.1に戻り以下ループ。
どうだろうこの作戦!
そもそもヌンドックが完全に人語を理解してくれてないと駄目なんだけどさ!
よし、とりあえず警戒しながら着いてきているヌンドックに説明しよう。
「いいか、ヌンドック。今から説明する事をよく聞け、上手くいけばお前達親子も無事に元の生活に戻れる」
「・・・ヌン?」
訝しげな顔つきになりながらも話を聞いてくれるようだ。ってか知能高すぎね?逆に怖くなってきたよ。
~事情説明中~
「・・・ヌン」
仕方ないな、みたいな顔つきだがどうやら納得してくれたらしい。
っていうか理解できたんだ、すげぇよヌンドック。
成功すればギルド職員が涙目になるだろう。
楽しみだZE!
「おっと、そうと決まれば仲間も同然だ。口の縄は解かせてもらおう。
逃げやすいように首の縄もすぐにはずれるようにしておくからな。子供はどうする?早く走れるのか?」
「ヌン!」
子ヌンドックが元気に返事をするが頼りないなぁ・・・親ヌンドックの背中に乗せておくか。
「これで大丈夫だろ」
「・・・ヌン?」
不思議そうな顔をしているが当然だろ。
ここまで知能高くて裏切るリスクがわからないわけがない。
まぁ、逃げ出した時は躊躇無く殺すんですけどね。
そして森の出口に到着。
ふぅ、ようやく外に出れたか。
さっさと街に帰ろうと思い街に向かって歩き出そうとしたらボブが死んだ場所で何かが光った。
「んん?何だ?」
とボブの死骸に近づいてみると、ギルドカードが太陽の光を反射して光っていた。
「ギルドカードか、そういや死んだ人のカードはギルドに届けた方がいいのかね?」
あぁーでも何か疑われても嫌だから放置でいいか。
さ、街に帰ろうっと。
そしてしばらく歩いて西門に到着。
特にイベントも無く普通につきましたよ。
門にいる衛兵に声をかける。
「捕獲依頼を受けてヌンドックを捕獲してきたんだが、ギルド職員を呼んでくれないか?」
そう衛兵に声をかける。
「捕獲依頼か、ちょっと待ってろ」
衛兵がギルド職員を呼びに門の中に入る。
今のうちに最終確認だ。
「いいか?合図をしたら逃げろよ?」
「ヌンッ」
よしよし、大丈夫そうだな。
おっと戻ってきたようだ。
門の中から衛兵と男が出てきた。
あれがギルド職員か?見た目はかなり若いな、逃げられて怒られるが良いさ!フハハハ!
「捕獲依頼と聞きましたが・・・おぉ!ヌンドックですか!」
ふむ、やっぱりこいつがヌンドックであってたか、良かった良かった。
「傷は少ないはずだ」
一発殴り飛ばしただけだしね。
「そうですね、目立つ傷はありませんね」
「そういえばヌンドックを捕獲してどうするつもりなんだ?」
これは聞いておかないとね。
「確か領主様の息子がヌンドックをペットとして欲しがっていたので、ペットじゃないですかね?」
・・・マジか?魔獣をペットってすごいな、何考えてるんだ。
「魔獣をか?」
「魔獣と言ってはいますが、知能が高い獣は全部魔獣と呼んでいるので、その魔獣の中でもヌンドックの危険性は低く人懐っこいですから一部の貴族には人気あるんですよ」
あぁ、知能が高い獣を魔獣って言うんだ。道理で俺の言う事を理解できるわけだよ。
ってか危険性はないって怒らせたらやばい事わかってんのかな?冒険者一人が立てなくなってるんだZE!
「そういえば今回の依頼に数の指定はなかったから親子で連れてきたんだがどうなるんだ?」
「親子は珍しいですからねぇ、二頭分の報酬に加えて更に増額が期待できるんじゃないかと」
おぉ!そうかそうか!
「じゃあ依頼達成書をもらえるか?」
「はい、こちらが依頼達成書になります。状態が良いのでその分も増額されると思いますよ」
依頼達成書を受け取る。
「そうか、期待しておこう。そういえば縄ははずして大丈夫か?買ったばかりだからもったいなくてな」
「はい、様子を見る限り大人しくしていますから大丈夫でしょう。それに、すぐにこちらの縄で縛りなおしますので」
「わかった。ほら、ヌンドックだ。逃がさないように注意しろよ」
きちんと忠告してヌンドックを繋いでいた縄をはずして渡す、フフフ・・・優しいな俺って。
「ハハ、大丈夫ですよ。今までも何度か扱った事ありますから」
そう言ってギルド職員がヌンドックを新たな縄で捕縛しようとした瞬間!俺は目で合図を出す!
「ヌンッ!」
と言ってヌンドックは逃げていった。
よし!完璧!タイミングバッチリだったぞ!
「・・・」
「・・・」
受け取ったギルド職員と見守っていた衛兵が固まっている。
「おいおい、忠告してやったのに逃がすなよ。結構苦労したんだぞ?」
と追い詰めてみる。
「ハッ!ど、どうしましょう!?」
「俺は知らんぞ、依頼は達成したからな。そっちの責任だろ?」
そう言って衛兵にギルドカードを見せる。
「衛兵さん!追いかけてください!」
「無茶を言うな!仕事があるんだ!」
衛兵とギルド職員の声を聞きつつ街の中に入る。
いや~成功してよかったよかった。
さて、達成報告に行こうっと。
日間ランキング2位って・・・どうしてこうなった・・・
作者の知らない間に一体何が・・・
ボブか?ボブのせいなのか?
感想ありがとうございます!
返信は出来ませんがきちんと読ませてもらってます!
まぁ、また更新が止まったりするかもしれませんが完結はさせますので
よろしくお願いします。