恋心
私笹原 陽子は彼、竜宮 純一に恋をしています。
彼は隣に住む幼馴染です。私が幼稚園へ入園する少し前に引っ越して来て、同じ幼稚園に入園しました。
入園し1年が経つ頃、彼は砂遊びをしていた私に花を差し出しました。
「陽ちゃん。僕とけっこんしてください」
これが、私の恋の始まりでした。
けたたましく鳴り響くスマホのアラームに叩き起こされ、嫌々起き上がり身支度を済ませ家を出ると彼が待っててくれます。
「おはよう、陽子」
「おはよう純一」
彼は小学生高学年になってから、私を一度も陽ちゃんとは呼ばなくなりました。そういった時期なのかもしれませんが、やはり寂しく思います。私もそれからは純ちゃんから純一へと呼名を改めました。
「今日は一緒にお弁当食べられる?」
「悪い、今日も約束しててさ。明日は食えるから」
「そっか、じゃあ仕方ないね。明日は絶対だよ?」
「おう! 約束だ」
そう言うと純一は指を伸ばしました。
「何?」
「指切りだよ、指切り。昔良くしたろ」
ええ良くしましたとも。結婚の約束を。
「いいよ、そこまでしなくて」
「こういうのは大切だぞ? 決意表明」
「なんじゃそりゃ」
純一は強引に指を絡めました。
「ゆーび切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます。指切った」
切ったと言うと同時に彼の指が離れ、彼の温もりが風で流されていきます。それはとても虚しく、とても冷たいものでした。
「これで絶対明日は一緒に食べられるぜ」
「ありがとう」
彼の笑顔は、冬の分厚い雲を時折突き破る太陽のように暖かなもので、私の心はあっという間に春を感じるのでした。
私にとって学校は酷くつまらない、牢屋のような場所です。私には勿論友達と呼べるような存在はいません。かといって虐めだの嫌がらせを受けている訳でもない。そう、私は単に協調性が乏しいだけなのです。
昼休みになり人気の無い旧校舎へと向かう途中、純一を見かけ足を止め、声を掛けようと口を開きます。
「純、」
建物の陰から現れた人影に口を噤みます。それは、純一と同じ美術部に所属している池知 美桜でした。二人の話す姿は、とても友達の仲には見えず、私の心臓は何者かに握り込まれているように苦しくなりました。
「嘘つき」
呟きは霧のように散り、目の前には変わらず笑い合う二人。私の笑顔はどこにあるのでしょうか。
放課後、無理を承知で純一を帰宅に誘いましたが、やはり部活を理由に断られてしまいました。ですので私は一人で帰路を歩いているのです。
「つまんない」
何か気を紛らわせる物はないかと辺りを見回します。すると一匹の猫が目に付きました。
「おいで」
しゃがみ込み、指を前後に折り曲げ誘いますが、猫は見向きもしまへん。どうやら猫にも好かれないようです。諦め立ち上がると猫もどこかへと駆けていきました。
「連れないやつ」
鍵を開け、部屋で着替えてテレビを付けると、昔よく純一と見ていたアニメが流れていました。
頬に温かなものが垂れました。
「純一のバカ」
私一人のリビングに谺する泣き声は、更に涙を呼びました。




