千年生きてる大作家、名作古典と呼ばれる自身の過去作をリメイクしてみた
このお話はフィクションです。
登場する人物・地名などは架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
わたしは紫式部。千年生きてる大作家。まごうかたなき本人よ。あの『源氏物語』を書いたのはこのわたし。実はわたし紫式部はエルフ。平安の昔から21世紀の今日まで千年ずっと生きている。
エルフが実在することも、日本にもいることも、あまり知られていない。なにしろものすごく少数派だから仕方ない。世界でも一万人いないし、日本では百人くらい。ちなみに、エルフとは漢字で「永留生」と書く。永遠に生きてこの世に留まる、という意味。
わたしは紫式部。実はエルフの大作家。明治になって戸籍をつくるときに、通称である紫式部に別の字を当てて「村崎四季舞」という名前にした。以来、村崎さんとか四季舞ちゃんとか呼ばれている。たまたま当時の役所の人がわたしと同じエルフだったので、いろいろ融通利かせてくれて戸籍の作成はスムーズだった。
昭和のいつ頃だったか、役所で手続きするとき、生年月日欄に「M・T・S」とあったので、天禄元年生まれのわたしは「T」に丸を付けて「1」と書いた。以後、大正元年生まれと扱われてしまうこともあるけど、間違いなく千年生きている。いや、大正生まれだとしても百年以上生きていることになるんだけど。
いずれにしても、エルフを知らない人々からはずっと昔から生きていることを信じてもらえないし、見た目のせいでせいぜいが平成元年生まれにしか思ってもらえない。平安と平成は千年違うのに。運転免許証やパスポートだってちゃんと本物なのに、生年が天禄元年だったり大正元年だったりすると偽造を疑われたりもする。
履歴書に至ってはどんなにまじめに書いてもふざけていると思われる。まず学歴。学歴はなし。だって今の学校制度ができるよりずっと前に大人になっていたから。強いていうなら昭和の後半に通った自動車学校がわたしの通った唯一の学校。次に職歴。職歴は書ききれない。千年も生きていると、時代ごとに食べる手段は違うから。そもそも生年月日に真実を書いただけで、まじめに書いていないふざけた履歴書だと判断されてしまう。まわりのエルフ仲間もみんな同じような経験をして苦労している。
わたしは紫式部。千年生きてる大作家。代表作は『源氏物語』。でも、わたしは著作権の概念ができるよりもはるか遠い昔々に死んでしまったことになっている。普通の人間なら江戸時代生まれでさえ誰も生きていない中、平安時代から生き続けているエルフがいるなんてほとんど誰も知らないのだ。せっかく『源氏物語』が現在まで読み継がれていて、現代語訳のみならず英訳まであるのに、お金になるのは訳者と出版社。ありえない、作者であるこのわたしが、一銭ももらえないなんて。
わたしのエルフ仲間にはちょいちょい文筆家がいるんだけど、誰一人とも自分の代表作が収入につながっていない。それどころか、エルフの認知度が低いこともあって、本人の著作とさえ思ってもらえない。けんちゃん――吉田兼好くん――は徒然草を今も書き続けているけど、室町時代以降ものは「吉田兼好の文体を真似て後世の無名人が書いたもの」とか「タイトルも内容も徒然草のモノマネ」とかなんとか言われて全然評価されない。ちゃんとけんちゃん本人が書いてるのに!
「そんな昔の作品にこだわっても仕方ないねん。うちらエルフの宿命やねん。」
静かにやさしく諭してくれるのはエルフの大親友なことちゃん。
「いや、それはそうなんだけど、そうなんだけど……。
今も生きているわたし自身の著作なのにそれが認められないのはなんか悔しいじゃん!」
みんな『枕草子』とその作者清少納言は知っているでしょ?実は清少納言もエルフで今はわたしの大親友。明治以降は生まれた家の姓「清原」を苗字にして通称の後ろ二文字を読み替えて「清原納言」が戸籍名。お互い戸籍の下の名前で、なことちゃん、しきぶちゃん、と呼び合っている。
え?紫式部と清少納言って仲悪いんじゃないの?って思ったあなた。そう、生まれて五十年経ってない平安の昔は仲良くなかった。でも、長く生きているうちに、同じエルフとしても同じ文筆家としても共感し合えるところがたくさんたくさん出て来た。お互い性格も丸くなるし。気づけばなんやかんやで戦国末期までにはすっかり仲良しになっていた。人生の半分、もう五百来の大親友!
なことちゃんとわたし、今は大阪府淀川市――川の名前は「よどがわ」と濁るけど自治体名は「よどかわ」で濁らない――の郊外の小さな古民家でルームシェアして暮らしている。わたしたちエルフは、いつまでもも容姿が変わらないし、いつまでも死なない。それを不思議がられたり気味悪がられたり、時に悪用されたりするので、みんな十年から二十年を目安に各地を転々としながら生きている。
でも、わたしとなことちゃんは生まれ育った畿内……、あ、今は関西だったね、関西が好きで、戦後はずっとここ淀川市に住んでいる。もっとも、淀川市内や周辺自治体での引っ越しや転職は何度かしているけど。
なことちゃんはいつも、静かに穏やかに緩やかにわたしをやさしく諭してくれる……。
「うちかて誰からも清少納言やなんて信じてもらえへんねん。
それに『枕草子』書いてた頃とは時代もちゃうし、
そもそもあの頃は書きものや著作権で食べていける時代が来るとは思てないねん。」
反対にわたしはいつも、やかましく騒がしく落ち着きなく涙目で訴える。
「それはそうだけどぉぉぉ……。
でも、わたしたちの著作で、全然無関係な訳者とか出版社が儲けてるのって、
なんかおかしくない?めっちゃおかしくない??」
「うちらエルフやさかい、まさかまだ生きてるとは誰も思わへん、死んだものと思われてる。
だから、しゃーないねん、過去の著作がお金にならへんでも当たり前やねん。」
清少納言ことなことちゃんは、そこそこ人気のブロガーとして月々数万円の収入がある。そのせいか若干の余裕が感じられる。
「そうだけど、そうだけどぉぉぉぉぉ!!!!」
ぴえんぴえん。わたしは地団太を踏む。われながら子どもっぽ!無料タウン誌・ポータルサイト『よどかわわがまち』に細々寄稿するだけがわたしの文筆家として唯一の定期的な仕事。収入は月々数千円しかないんだから泣いちゃうよ!
「どうどう。」
でも、静かで穏やかで緩やかななことちゃんにやさしくハグされて頭や背中を撫でられるとなんだかだんだんと落ち着いてくる……。
「明日も仕事なんやし、落ち着いてゆぅ~っくり寝たほうがええねん。」
細々タウン誌ライターのわたしはもちろん、そこそこ収入ある人気ブロガーのなことちゃんも、さすがに文筆だけでは食べていけないので他の仕事もしている。明日も出勤日。
「ふにゃぁぁぁぁ……、むにゃむにゃむにゃ……。」
なことちゃんの静かで優しい穏やかな声はまるで子守歌。
わたしは紫式部。清少納言ことなことちゃんの腕の中で寝落ちするのだった、ふにゃぁぁぁぁぁ…………。
AEショップ淀川織江。わたしとなことちゃんが勤務する携帯ショップ。文字通りAEのスマホやタブレットを扱っている。場所は淀川市の中心市街地のひとつ織江。履歴書チェックがいい加減な派遣会社のおかげで、百年千年生きているわたしたちエルフも勤務先を得られている。畿内……関西のエルフ仲間五人中四人がこの派遣会社のいい加減さのおかげで二十一世紀の今を生きるための職を得られている。二十一世紀になって四半世紀が過ぎているのに、容姿が全然変化していないことを全く怪しまないありがたい会社。
それはさておき、わたしがここで働いているのは、そのいい加減な派遣会社のおかげでもあるけど、なにより制服がかわゆいから♪そう、制服が、か・わ・ゆ・い・から♪大事なことなので二度言いました。ぱっと見はグレーのジャケット・ベスト・ボトムスだけど、間近でよく見ると細かい白黒のチェック柄。しかも光沢がある素材でちょっと高級そうに見える。ブラウスは純白のようで、これもよく見るとほんのりアイボリーで少し光沢があるし、襟や袖口には黒い糸の縁取りがあっておしゃれ。
スカーフも光沢がある薄紫か桜色、控えめで上品な2色から選べる。わたしは薄紫。わたしは紫式部。だから紫が選べるなら紫を選ぶわ。清少納言ことなことちゃんは桜色。春はあけぼのって感じで。ボトムスはタイトスカートとスラックスが選べるのだけど、ここはスカート一択でしょ。わたしはスカートに黒いタイツまたは黒いストッキングという装いが好きだから。服装にこだわりがないなことちゃんにもスカートと黒タイツ・黒ストッキングを強要している。だってかわゆいんだもん。そう、なことちゃん、か・わ・ゆ・い♡大事なことなので二度言いました!
小柄なわたしは明るい金髪のショートボブでちょっとチャラい感じなのだけど、長身のなことちゃんは黒髪ロングの大和なでしこ。どちらにもこの制服はよく似合うと思っているし、似合っているからこそ小柄なわたしの金髪ボブと長身のなことちゃんの黒髪ロングは好対照を成してお互いに映えると思っているわ!あ、金髪は染めてるのよ。生え際が黒髪に戻りつつあってちょっとプリンな感じ。
ふふ、わたしたちってばなんて名コンビ♪ていうか、なことちゃんの制服姿は似合いすぎてて萌え萌えきゅん♡ほわぁぁぁ……、ほんと毎日ついつい見とれちゃうわぁぁぉ………………しゅき♡うん、なことちゃん、しゅき♡大事なことなので以下略。
「おーい、村崎さん、ぼーっとしないでちゃんと仕事してねーっ!!」
っと男の声が後ろからうちを呼ぶ。よく言えば甘~いイケヴォイス、悪く言えば甘っちょろいガキの声。
「すみません店長…………じゃなくて藤沢っちじゃん!!!」
この男、エルフではない普通の人間で二十代後半のイケメン――だけど、わたしとなことちゃんの好みでは全っっっ然ない――藤沢大和。東京の出版社「冬虫夏草社」から出ている文芸雑誌「月刊冬虫夏草」の若手編集者。原稿に穴が開くとわたしのところにやってくる。まじめキャラっぽいのは控えめな濃い茶髪の七三分けの髪型だけで、中身はわりとチャラい。あとチョロい。
今時原稿依頼なんてメール1通か電話1本でいいのに、大阪府で唯一鉄道の通らない市である淀川市まで、東京からわざわざやってくる目的はただひとつ。
ふっふっふ、わたしはあの『源氏物語』を書いた紫式部。だから、色恋沙汰には敏感なのよ♪
「ところで、なことさんは?え、接客中?いや、今日はなことさんに機種変してもらいたくて……」
ふぁさっ、キラキラ☆藤沢っちは無意味に前髪をかき分ける無駄なイケメンムーブでそうのたまう。一見クールなイケメンムーブなのに、さりげなくなことちゃんを見る目にはハートマークが宿る。それと、イケメンムーブのせいなのか、なんか無駄にキラキラして見える。
「はい?機種変なんか相模……じゃなくて神奈川でもできるじゃん。」
冷たく言い放つわたし。
「神奈川じゃねーよ、うちは千歳船橋だ!!」
名前が藤沢大和、藤沢市も大和市も相模……じゃなくて神奈川県だからつい……。でも、ん?
「千歳?船橋?えぞっ……北海道なのか、下総っ……えと、千葉県なのかはっきりせい!!」
「千歳船橋は世田谷区だ!!」
藤沢っち、そういえばやけに「東京都」にこだわるんだっけ。相模……神奈川だっていいところなのに、なんか神奈川扱いすると妙に怒るんだよね。
「ま、機種変くらいわたしがやったげるよ。どんなのがいい?」
「いやいや、村崎センセエとは、なことさん待つ間に仕事の打ち合わせするから。」
藤沢っちはめっちゃ事務的にそうのたまいやがった。あと、「センセエ」に全然敬意がこもってない。
「スミマセンお客サマ、わたし今はAEショップの大事なお仕事中なので、
原稿のことなら退勤後にお願いシマス!ト言ウワケデ……。」
わたしも事務的に敬意なく返してやった。そして、素に戻って一・五倍速再生みたいな早口で続ける。
「今イチオシのゲーゲレ・ピケセレ最新型の、わたし村崎おすすめライトパープルにしとくわ♪
えーと、名前は藤沢大和……」
「違う、沢の字!旧字体!!」
ああ、藤澤大和ね。なんか「沢」がつく苗字の人って旧字体にこだわるよね。
「住所は東京都世田谷区千歳烏山……」
藤沢っちの個人情報は頭に入ってるから業務用タブレットに勝手にほいほいと入力していくわたし。
「千歳船橋!!!」
「うるさいな、どっちでもいいでしょ!」
「よくない!千歳船橋は小田急線、千歳烏山は京王線、全然違う街!!」
「…………。」
わたしは黙ってしばらく考えた。そして藤沢っちのマネをしながらチャラい感じで言ってみた。
「ああ、そうだね、阪急電車と京阪電車は全然ちゃうもんね。
高槻市と枚方市くらいちゃうということね。フッ、違いの分かる女、紫式部……。」
髪の毛ふぁさっとかき分けて、無駄にキラキラした感じのドヤ顔で。
おっと、藤沢っちのマネなのにちょっと畿内……じゃなくて関西訛っっちゃたカッコわら。
「高崎市と平塚市?納得の仕方がよくわからないんだけど……」
平塚市。平塚も神奈川だねって言いたかったけど、なんとなくやめておいた。
「はい、じゃ、いいから免許証出して!」
「ええ……、なことさんを待ちたいんだけど……。」
「なことちゃんさっき接客ついたばっかだからめっちゃ時間かかるよっ!」
AEショップ淀川織江、わが店の圧倒的人気ナンバーワンのスタッフは清原納言。ひっぱりだこの彼女の接客をそう簡単に受けられると思うべからず。しかし!わたしこと村崎四季舞は可もなく不可もなしのスタッフ。わりとフリーの時間があるから、比較的いつでも接客つけまするぞ♪
紙媒体としては無料タウン誌であり、だいたい同じ内容をネット上に公開するポータルサイトでもある「よどかわわがまち」。わたしに月々数千円の収入をもたらすこのメディアには、なことちゃんも寄稿している。なことちゃんも月々数千円をここで稼ぐけど、わたしの数千円は柴三郎さんオンリー、なことちゃんの数千円は柴三郎さんに梅子さんも混ざる。なんでやろ?
それはさておき、紙の「よどかわわがまち」はわがAEショップのマガジンラックにも置いてある。
「それじゃ藤沢っち、この記事見て見て!なことちゃん書いたんやで~~。」
と、なことちゃんのモノマネを軽く交えながらそのページを開いて見せれば、
「まじすか???なことさんのおススメスポット堪能しながら待ってますよ♫」
と、藤沢っちは、しっぽ振ってだらしなく舌べろたらしてハスハスハッハと興奮するワンちゃんのように、目を輝かせてきゃっきゃうふふと淀川市内を観光して待っていてくれる。
ここ淀川市は、京街道に近い淀川の渡し舟の舟着き場として江戸時代中頃から少しずつ発展してきた小さな二つの街が起源。京街道からほんの少しだけ離れた織江と対岸の押手。どちらも渡し舟の乗客むけの飲食店や雑貨店が集まってできた街。
現在の淀川には堤防と河川敷があり、江戸時代の名残はない。でも、織江と押手の旧市街地(堀江川端と押手川端)の堤防沿いには江戸時代の淀川がちょっとだけ復元されている。そのおかげで、旧舟着き場周りの昔とあまり変わらない街並みには、潤いと懐かしさと風情がある。京街道からも官営鉄道からも微妙に外れた織江と押手には、京阪や阪急の電車も通らなかった。だから、織江も押手も交通の便の悪い地味な地味な街となり、それゆえ開発が遅れて江戸時代の街並みが残った。
織江と押手が合併したのは、同じ渡し舟の両岸かつ鉄道がない街同士の親近感と、昭和30年代に道路橋ができて両岸が同じ生活圏に入ったことによる。大阪府で最後の市制施行だった。
そんな淀川市だけに、メジャーな観光地はほぼ皆無ながら、めちゃくちゃ地味だけどわかる人にはわかる味わい深い観光スポットには事欠かない。でも、外国人観光客のみならず日本人観光客にもほとんど知られていないマニアックな観光地、それが淀川市の堀江川端と押手川端。
――カフェはあけぼの。プリンパフェに舌鼓。
織江川端歴史地区に幕末から残る古い商家で優雅にコーヒーブレイク 【記者・N】――
「さすがなことさんのおススメですよぉ!!世田谷にだってこんな素敵なお店はありません!!!」
髪の毛ふぁさっ、キラキラ☆そして、なぜかコーヒーカップを赤ワインのグラスみたいにゆすってまわす藤沢っち。わたしたちは仕事終わりに「よどかわわがまち」最新号でなことちゃんがおススメ記事を書いたカフェあけぼので落ち合った。四人掛けの席、わたしとなことちゃんが隣同士、向かいに藤沢っちが一人で座る。藤沢っちはコーヒーとプリンパフェ、わたしとなことちゃんはお冷とパンケーキ。
「そうかなぁ、仕事やから褒めて書いただけやねん……」
なことちゃんはお気に召さないみたい。だけど……
「し~っ、なことちゃん、ここでそれ言ったらあかん。」
少し畿内……関西訛りつつたしなめるわたし。なことちゃんて静かで穏やかで口数少ないのに、言う時はズバッと言うんだよねカッコ汗。
「で、藤沢っち。原稿の話は?」
「アー。京村西太郎先生ガ病気療養デ三ヶ月休載スルカラ、
三回シリーズの短編ミステリー、できればトラベルミステリーをヨロシク。」
わたしに対してはめっちゃ真顔でめっちゃ事務的になる藤沢っち。声だけは甘いイケヴォイスだけど。
「ふむ。じゃあ『CAなことの名推理~抹茶プリンパフェの殺意~』って感じでいい?」
「なななななことさんが主人公ならもう全然全然オッケイですよっ♡」
藤沢っちはなことちゃんを主人公にすればなんでもオッケイしてくれる。まじチョロい。事務的な口調も豹変して歓喜に満ちる。目はハートマーク。ほんっと、チョロいやつ、大事なことなので以下略。
というわけで、わたしは「月刊冬虫夏草」に『CAなことの名推理』『ナースなことは医者より名医』『なことちゃんは女子校生』などなことちゃんシリーズの短編を多数掲載している。お仕事であるばかりか、かわゆいなことちゃんのいろんな制服姿を妄想して楽しむ趣味でもある、萌え萌えキュン♡
「あの『源氏物語』を書いたほどの作家やのに、登場人物のバラエティーなさすぎやねん……。」
なんかなことちゃんが呆れてるのも、それをわたしが気にしないのも、いつものこと。
「それとね、藤沢っち!わたしの長編連載の企画も聞いてもらえる?」
「は?マァー、聞クダケナライーケド。」
そう、わたしは穴埋めの不定期短編だけじゃなくて、長編連載で専業作家になりたいの!ていうか、著作権収入が得られる大作・名作を書きたいわけ!!(藤沢っちの返事が棒読みなのが気に入らないけど。)
だから、ずいぶんと前から虎視眈々と計画を立てていたのよ♪しきぶはこつこつこしたんたん!しかも、わたしは紫式部、千年生きた大作家!そんなわたしにしか書けないものを!!!それは……
「ぶはっ!!」
藤沢っち、コーヒー吹きやがった!!わたしとなことちゃんに黒いしぶきが飛ばなかったのは幸いだけど、テーブルはコーヒーまみれ……、汚い。それと、イケメンが台なし、下品。
「きゃはははははははは、きゃぁっはっはっはっはっ……。何を言うかと思えば、
『紫式部本人訳 現代語版源氏物語』ぃぃぃぃ????はひぃ、はひぃ……。
きゃはははははは!!!」
おい藤沢っち、そんなにおもしろいことか?「はひぃ、はひぃ」って過呼吸まで起こすほど笑うこと??口を目いっぱい開いて歯が丸見え、のどの奥の男の子までよく見える。失礼にもほどがある!!わたしは紫式部、千年生きた大作家だぞ!!
「藤沢さん、笑わはりすぎや……。店の人こっち睨んではるで……。」
なことちゃんが眉を八の字にしつつもやんわり静かに嗜める。
「きゃはっ、いや、だって……
『源氏物語』の現代語訳って、与謝野晶子とか谷崎潤一郎とか、
最近だったら瀬戸口八草とか……。
立派に名を成した大作家だからこそ認められるものだよ。
しきぶさんの訳なんてシロウトが古語辞典にらめっこで
たどたどしく逐語訳したような程度にしか思われないって!
しかも『紫式部本人訳』って何??痛いよ、痛すぎるよ、はははっ!
SNSのなりきりアカウント??きゃはははははははっ!!!」
破顔一笑とはまさにこのこと、イケメンもイケヴォイスも破れて台なしの下品な嘲笑は続く……。
わたしは紫式部。千年生きた大作家!その大作家たる紫式部本人のこのわたしが訳すんだから本人訳で間違いないでしょうに!!でも、藤沢っちは何度説明してもわたしが紫式部本人だとは信じてない。「自称紫式部」の痛い女、としか思っていない。藤沢っち曰く
「きゃはははは!金髪ボブ、しかもプリンの紫式部なんてありえないよ!紫式部は長い長い緑髪でしょ」
だそうです。いや、千年も生きていれば髪色も髪型も時代に合わせて変わります!ていうか、染めてるんだから生え際が黒くなる「プリン」はやむを得ないでしょ!!
「月刊冬虫夏草」に載るわたしの作品は紫式部名義での掲載が認められず「村崎四季舞」名義。それとて「苗字がたまたま村崎だからって歴史上の有名人にあやかって名付けられた痛い名前」としか思われていない。わたしが紫色にこだわることだって、
「紫式部だから紫好きって、なにその痛いキャラ付け?」
と藤沢っちには呆れられて終わり。
でも、わたしは紫式部!本人よ!!わたしが紫式部本人だからこそ、家の押し入れには『源氏物語』の草稿も登場人物の設定書もあれば、わたし自身が清書した原本も全部ある。それを元に原本に正確な現代語訳できるのはわたしだけ!平安時代の言葉も二十一世紀の言葉もどちらもスラスラと読み書きできる上に、わたし自身が作者なんだから、他人の解釈が入り込まない、純度百パーセントの『現代語訳源氏物語』を書くことができる!!むしろ、わたしにしかできない!!
「しきぶちゃん、気持ちはわかるけど、平安時代に書いたものなんて、
もううちらの手を離れて自立独立した作品やねん。
今の人らがどう読もうがどう訳そうが、今の人らに委ねればええねん。
うちらは委ねて大丈夫なくらい手のかからへん立派な子を産んで育てたんやで。
それでええやん。それでええねんで!」
はぁ、なことちゃんてば本当にやさしく慰めてくれる……。
「そうだけど、そうだけどぉぉぉぉ……。」
「どうどう。」
おまけに、涙目で訴える紫式部のわたしの頭をなでなでしてくれる清少納言ことなことちゃん。
「あぁっ!なことさんになでなでされるなんて、しきぶさんズルい!!」
さっきのムカつく大笑いから一転して、顔を真っ赤にして嫉妬して怒る藤沢っち。これはこれでイケメン台なし、イケヴォイス台なし。
ふっふん、でも、あげないよ♪なことちゃんはわたしのものだもんねー♡
「なんで藤沢さんが取り乱しはるねん?」
わたしの頭をなでなでしつつ、藤沢っちを見て首をかしげるなことちゃん。かわゆ♡
「あ。」
と、なことちゃんは急に真顔になって、かしげた首を元に戻す。
「あの、すみません、お客様。お静かに……。」
黒いブラウスに白いけどフリルのないエプロンに黒いタイトスカートに黒いストッキング、
足元は黒エナメルのストラップ付のシンプルな靴、
メイドっぽいけどメイドじゃないところが銅メダル級にかわゆい――金メダル級にかわゆいのと銀メダル級にかわゆいのはなことちゃん、あまりのかわゆさにメダル二つあげちゃう♡――ポニーテールの女性店員さんがこちらにスタスタやってきて注意されてしまった……。
「う、うるさい!僕は冬虫夏草社の人間だぞ!『週刊冬夏』でひどい店だって書くぞ!」
藤沢っち、取り乱したまんま店員さんに食って掛かる、イケメンが台なし、イケヴォイスも台なし、かなり下品。しっかし、冬虫夏草社という有名出版社の人間であることを誇りたいらしく、無駄に髪の毛だけはふぁさっとかき分ける。キラキラ……、じゃなくてギラギラ脂ぎってる感じ?
「週刊冬夏」とは、冬虫夏草社から出ている週刊誌、よくいろんなスキャンダルをすっぱ抜いて政治家が辞職したり芸能人が謹慎したりする。
「藤沢っち、ここはなことちゃんおススメのお店。忘れたの?」
なことちゃんのなでなでで落ち着いたわたしは、テーブルに手をついて首を延ばして向かいの席の藤沢っちの耳元でささやく。
「むむむ……。じゃあ褒める!『冬夏』で褒めちぎってやるぅぅ!!」
わたしは紫式部。千年生きてるけど「褒めちぎってやる」って怒鳴る人を初めて見た。なんか取り乱し方がバグってるぞ……。
「ほんまですか?じゃあめっちゃ褒めてください。ありがとうございます。
それで許すってことでいいですよね?マスター?」
とウインクする店員さん。お店の奥で、白いワイシャツにサスペンダーに黒いスラックスにを身に着けて、口ひげを清潔かつ上品に蓄えたダンディーな紳士が「うんうん」と頷きながらにやにやしていた。
後日、藤沢っちの同期の「週刊冬夏」の記者が、交通費飲食費など全部藤沢っち持ちで東京からここ織江川端のカフェあけぼのに来た。さすがに「冬夏」であけぼの特集ないし織江特集というわけにもいかず、「編集後記」でカフェあけぼのを絶賛する一文を書いたそうです。
それにしても、『紫式部本人訳 現代語版源氏物語』がこんなに簡単に一蹴されてしまうとは……。
ちなみに、『CAなことの名推理』『ナースなことは医者より名医』『なことちゃんは女子校生』ならば長期連載認めると藤沢っち。でも、主人公のモデルであるなことちゃんの承諾が得られない……。
「しきぶちゃん、うちか源氏物語しかネタないのん?」
と呆れるばかりで、首を縦に振ってくれない。短編なら許してくれるのになぜ?
「でも、ワンシリーズ三回までやで。仏の顔も三度までいうやろ?」
というわけで、『CAなことの名推理』は今回の「抹茶プリンパフェの殺意」が最終回……。
次にトラベルミステリーの依頼が来たら『バスガイドなことちゃん』にしよう♪
「あ、しきぶちゃん、これこれ。このアニメ。『まあ&らんの事情/二乗』、
三十年ぶりの再アニメ化・リメイクやって!」
帰宅後にくつろいでいると、アニメ好きのなことちゃんが今季の新作アニメをおススメしてきた。いつも通り淡々と静かにやさしい口調だし無表情。でも、わたしにはわかる!なことちゃん、実は興奮してるって。世界でいちばん清少納言を理解しているのはこのわたし、ふふっ♡
「ああ、『まあらん』、昔観てたね♪まあらんの百合展開たまらんかったね、でへへ♡」
おっぱいとおっ……【自主規制】。おま……【自主規制】。
『まあ&らんの事情/二乗』とは、女子高生まあと幼馴染の男子らんによるラブコメ。「まあらん」とは、作品名の略称でもあり、まあとらんのカップルのことでもある。
まあとらんの二人はひょんなことから、転ぶとなぜか性別が変わってしまう不思議な体質になってしまう。ちょっとつまづいても、わずかにつんのめっても性別が変わってしまうので、本来女子のまあが男子で男子のらんが女子になる展開ばかりか、まあもらんも男子男子のBL展開になったり女子女子の百合展開にもなったりする、という画期的で衝撃的でちょっぴりエッチでかなり刺激的なラブコメ。原作もアニメも一世を風靡しまくった。二次創作も多数。もちろん、わたしもたくさん書きました、まあらん百合展開の二次創作を、てへっ♪原作は留美橋高子先生。いわゆる「たーかっくワールド」の一画。
「主要キャストはほぼほぼ昔のまんまらしいで!」
なことちゃんは、女まあ役の森原メグさんと男らん役の山田カツさんの大ファン。
※このアニメは、まあらん二人に男子状態女子状態それぞれ二名ずつの声優さんがキャスティングされています。主演声優四人。
「へぇ、再アニメ化・リメイク。そりゃおもしろそだね、でへへへ……♪」
わたしも関心ないわけではない。ていうか関心おおあり♡
「じゅるり……」
おっと、ついよだれが出てしまった、わたしとしたことが下品……。
ていうか、再アニメ化?リメイク??そう、リメイクだ!!!リメイク!!!!
「それや!!!それそれ!!!!」
わたしはひとつ閃いてしまった!!!
「ん?それってなんやねん??」
首をかしげるなことちゃん、かわゆ♡
「リメイクよ、リメイク!!」
「リメイクがどしたん???」
首を反対にかしげてきょとんとするなことちゃん、かわゆ♡
「はっ!リメイク???いや、やめとき、しきぶちゃん!!絶対やめとき!!!」
突然、いつも静かで無表情ななことちゃんが、珍しく大きな声で目を見開いて叫んでる。
ふっふっふ、わたしの名案に気づいたみたいね♪
さすが大親友、さすがわたしのなことちゃん、以心伝心♡
「そうよ!!現代語訳じゃなくって、
今の時代にマッチした新しい『源氏物語』にリメイクすればいいのよ!!!!」
なことちゃんを前にわたしは高らかに宣言した!!!
元々の源氏物語のキャラや設定を元に、21世紀の現代的な要素を加えたり、現代人にわかりやすい設定に変えて、全面的に書き直した
『紫式部本人リメイク GENJI☆ものがたり』!!!
これならどう???わたしは紫式部、千年生きた大作家!その代表作を21世紀にふさわしい現代版としてリメイク!!
「しきぶちゃん、それ絶対藤沢さんに笑われて終わりや!やめとき!!」
なんか、なことちゃんに懇願されてるけど、懇願するなことちゃんも、かわゆ♡
「なことちゃん、今時出版社だけじゃないのよ。インターネットがあるわ!
『小説家になるぅ』に投稿すればいいのよ!!紫式部も「なるぅ系」作家、それが二十一世紀!!!
ネットで注目されればどっかしら出版社からオファーが来る!!
そしたらその時こそ藤沢っちに『他からオファー来てるんだけどぉ?』って
言ってやれば、『ぜひぜひ「冬虫夏草」でぇ……』って
頭を下げてくるのは確実!!!チョロい♪お~ぉっほっほっほっほっほっ!!!!」
ふっふっふ♪名案だわ!!素晴らしい名案だわ!!!これならば、コミカライズもアニメ化もドラマ化も映画化も夢じゃない、現実よ、現実!!!!光源氏も紫の上もグッズ化されて缶バッジやアクリルスタンドやフィギュアになっちゃう♪主題歌はザザの曳馬助信さんで!キャーキャー♫
私は紫式部!千年生きた大作家!!平安時代のみならず、この21世紀でも爪痕を残して見せるわ!!!
「しきぶちゃん、ちょっと落ち着いて!ネットに上げたら炎上確定や!!絶対絶対大炎上やで!!!
ハグしてなでなでしたげるから!!!どうどう!!!どうどう!!!」
う~ん、取り乱してるなことちゃんもかわゆ♡清少納言ことなことちゃんは、わたしに抱き着いて頭をなでなでしてくれる。
「なことちゃん、ありがとう!!!わたしを応援してくれてるんだね!!!!」
なことちゃんのハグとなでなででわたしは元気をもらってますますやる気がみなぎってくる!!!!
「ありえへん!うちがしきぶちゃんを落ち着かせられへんなんて!!
知りおうて千年、仲良うなって五百年、ありえへん!しきぶちゃんがここまで暴走するなんて!!」
きゃああああ、いつも落ち着いてるなことちゃんが戸惑ってるなんて!!かわゆ過ぎ♡
カタタンカタタン、カタカタカタ。カタタンカタタン、カタカタカタ。
わたしの十指は未だかつてない速度でパソコンのキーを叩いて、爆速で『紫式部本人リメイク GENJI☆ものがたり』を紡ぎ出してゆく。筆で書いていた時代でも、ペンで書いていた時代でも、こんな速度で物語を書いたことはない!
わたしは紫式部。千年生きてる大作家。今のわたしは過去千年で最高のノリと勢いで流量豊富の大河のように物語を紡いでいる!!カタタンカタタン、カタカタカタ。カタタンカタタン、カタカタカタ。
わたしは紫式部、千年生きた大作家!パソコンのキーを打つ音がこんなに軽やかで気持ちの良いものだとは知らなかったわ♪
「しきぶちゃん、やめて!しきぶちゃん、止まって!!どうどう!どうどう!!どうどう!!!」
わたしは紫式部、千年生きた大作家。今のわたしには大好きな清少納言ことなことちゃんの言葉も耳に入らないみたい。わたしの耳に入るのはキーを叩く音だけ。
カタタンカタタン、カタカタカタ。カタタンカタタン、カタカタカタ。よっしゃ完成!!
ふっふっふ、わたしは紫式部、本人よ!本人にしかできない『紫式部本人リメイク GENJI☆ものがたり』、とくと読むがいい!!いざ!投稿ボタン、ぽちっとな!!!
ついでにSNSでも拡散!!α(旧ウイスパー)にコンスタグラムにフェイスノート、さらにはミクツィも。
カタカタカッタン、カタタンタン。さらに、ぽちっとな!!!
とある土曜日の夕方、藤沢っちが仕事の用件がないのに大阪府淀川市押手郊外のわたしたちの家にやってきた。ただただやって来た。どうやらただただ嘲笑するためだけにやってきた!!
「しきぶさん、これ見てくださいよ!さすがにこれ痛過ぎでしょ?ぶふっ……。」
と、「小説家になるぅ」の『本人リメイクGENJI』のスクショをわざわざプリントアウトして、わざわざステープラーで綴じて、わざわざわたしに見せに来た。どうやらこのためだけにわざわざやってきたらしい……。藤沢っちの暇人め……。
「今これ、めっちゃ大炎上中なんです!知ってます?ぷぷぷっ……。
しきぶさん以外にも『自称紫式部』がいたみたいなんですけど……、っきゃははは♪」
いや、それ、わたしですけど……。正真正銘紫式部本人なんですけど……。そして、笑わないで!傷つく!
「この『自称紫式部』は、現代語訳じゃなくて『現代に合わせてリメイク』って言ってましてね……、
ぷっ、きゃははははははははは……、はひぃはひぃ……。」
はい、そーーです、訳したんじゃなくて白紙から現代語で書き直しましたが、いけませんか?ていうか「はひぃはひぃ」ってまたしても過呼吸するほど笑うのか??めっちゃ傷つくからやめて、まじで!!
「時代背景も平安じゃなくて平成な感じにしちゃってますし、
登場人物も全員、平成?ていうか90年代のトレンディードラマ??みたいな感じに
変えちゃってるんですよ、雅やかならぬ、きらびやか?ヤバすぎでしょ?」
いーえ違います、2020年代にマッチさせたつもりですが、1990年代に見えちゃうの?なんでやねん??
「しきぶさん、しきぶさんの『自称紫式部』キャラって客観的に見ればこんなに痛いんですよ!
マイナーな紙幣とはいえ弐千円札になったほどの人を自称するって、世間はこう見るんですよ!!」
そりゃ弐千円札に肖像載ったけどさ、あれ、下手くそな絵師が描いたやつの、さらにその模写の模写の模写くらいの絵が原典だから。全然わたしに似てないから!!!完全に別人になっちゃってるから!!!
「しかもこれ、古典ファンや源氏物語が専門の学者たちがこぞって非難してるんですよ、
この『自称紫式部』は全然わかってない!って。」
いいえ、わかってます!わたしは紫式部、わたしこそが紫式部本人だから!古典ファンや専門の学者なんかよりずっとよくわかってますけど??
「しきぶさんが短編読み切りの作家として細々やっていけるのは、
エドガー・アラン・ポーをもじって江戸川乱歩みたいな感じで、
紫式部もじって村崎四季舞だからですよ。それが源氏物語の作者本人とか名乗っちゃったら
ものすご~~~~く痛いんですよ。わかってください。
その紫式部もじって村崎四季舞が源氏物語を今時の若者でも読みやすいように軽~く訳すなんて、
生きるか死ぬかの大手術を麻酔無しでするくらい、重くて痛くて苦しいんですよ!!!
ブラッケヅヤッケ先生ですら無理なオペです!!!」
はい……、もう……、充分に……。
…………。重くて痛くて苦ちいレすのヨ、マッチョンブリカ…………。
「なことさんシリーズは、不評ではないんです。もうひとひねりいい要素があれば……、
あと、なことさんのOKさえあれば長期連載や単行本書下ろしいけるんですよ……。」
と藤沢っちが言ったところで、なことちゃんがツッコんだ。
「そのシリーズは客観的に考えてしきぶちゃんと藤沢さんの趣味でしかないねん!!!」
「「ええっ???それは世界人類古今東西普遍の文学遺産では???」」
珍しく、わたしと藤沢っちの声が揃った。とはいえ、『リメイクGENJI』の大炎上は事実……。以下は、SNSにコメントやDMで寄せられたネット上の声とわたしの反論…………ていうか抵抗……?
【「GENJI☆」って昔のアイドルグループみたいで草】
⇒今風の表記にしてみただけですけど!
むしろあのアイドルのほうがわたしの千年前の過去作に乗っかってるんですけど!
【紫式部がエルフとか本人によるリメイク設定とかなりきりアカウントにしても痛すぎて草!!】
⇒絶対言われると思ってたけどさ……。でも、わたしは紫式部、千年生きてるエルフの大作家、
まごうかたなき本人なんですけど!!!みんながエルフの実在を知らなすぎるだけ!!!
【原典ちゃんと読めてない奴が分かった風に勘違いして書いた二次創作】
⇒原典読めてる読めてない以前に原典書いた本人ですけど!!!!
【源氏物語を冒涜!!】
⇒はい?冒涜じゃなくてリメイクですけど!!!!!
【紫式部の心を全くわかっていない】
⇒いや、わたしは紫式部、本人ですけど!!わたしの心はわたし自身こそが誰よりもよく
わかってるんですけど!!!大事なことなので二度言います、わたしは本人です!!!
その他……
【不敬!】【無礼!!】【非礼!!!】【失礼!!!!】
⇒冒頭で「フィクション」「架空」「実在の事物とは一切無関係」って
さんざん丁寧に断ってるのに……。
ここだけで1ページ使って「ご容赦ください」って書いたのに……。
「しきぶちゃん、いくら架空や言うても、
やんごとなき方々を書かせていただくなんて、平安の頃より今のほうこそ難しいねんで……。」
と、なことちゃんのお説教……。表現の自由やどこへ行ったの??
「いくら表現の自由や言うても節度も限度もあるねんで……。」
藤沢っちも、
「いっそ日本じゃない架空の国の設定にしてしまえばまだ違ったんでしょうけれど、
保守系の人々中心にこの点がいちばん炎上してますね……。」
と、この部分だけは、一切笑わずに真顔で真面目に語った。
…………。こうして、大炎上した結果、わたしは〝その筋”から執筆・投稿の真意を問い質されたり、古典文学研究の権威からお叱りの手紙を頂いたりした。その他、抗議文も多数……。どこで住所が漏洩した??幸い、職場だけは知れなかったみたいだけど……。あと、藤沢っちもわたしだとは気づいていない。リメイク源氏の作者は「わたし以外の自称紫式部」だと思っている。
他にも、「表現の自由」を標榜する過激な創作家やそういう人々と近しい活動家・弁護士などから
「表現の自由を求めて戦いましょう!立ち上がりましょう!!」
などと、執拗なお誘いが少なからずあった。このあたりで、わたしは「小説家になるぅ」とSNSのアカウントを全て削除した。わたしはただ、『源氏物語』の著作者として認められ、自分の代表作である『源氏物語』で著作権収入が入るようにしたかっただけなのに……。
「で、なことさん、こっちが本題なんですけどね。」
落ち込んで固まるわたしを無視して、七三の茶髪をふぁさっとかき分け、無駄にキラキラした笑顔を見せる藤沢っち。突然正座して、ちゃぶ台の上にうやうやしく両手で箱を置く。
「この間のカフェのお礼です!世田谷中歩き回って探し出した超絶美味しい成城セタガヤージュの
超絶美味しいフィナンシェです!」
おいおい、”超絶美味しい”がダブってるぞ!頭痛が痛い……。編集者だろ?しっかり!!
「カフェ?んん??カフェあけぼの???あ、あああ…………。あれは仕事やから褒めただけで、
本音ではおススメちゃうねん。」
わたしの背中をさすりながら静かに淡々と語るなことちゃん。わたしをやさしく穏やかに緩やかに慰めつつ、藤沢っちの相手もこなしちゃうなことちゃんお見事!しゅき♡
「あそこのコーヒー・紅茶、時々一センチくらいの毛が浮いててん。たぶんマスターのヒゲや。」
「え?」
青ざめる藤沢っち。無駄にキラキラしたあの輝きも一気に消し飛ぶ。イケメンが台なし。
「だから、なことちゃんもうちも、あそこでは水しか飲まへんねん。
結構こだわりの豆と茶葉を吟味してはるらしいし、あのマスターもちゃんとした一流のバリスタの
資格持ってはるらしいけど、ヒゲ浮いてるのはちょっと……。
パフェとかパンケーキは、あのメイドっぽいけどメイドじゃない
店員さんが作てはるから安心なんやけど。水もあの店員さんが注いではるからええねんけど。
コーヒー・紅茶淹れてるのはヒゲのマスターや……。」
なことちゃんはわたしをなでなでしつつ、穏やかに緩やかに話す。
「え?え?ひげ……、ういてる……???」
干上がった池の底でピクピクしてる魚みたくなる藤沢っち。
「じゃ、ええフィナンシェ頂いたさかい、インスタントやのうてドリップのコーヒー淹れよか♪
三角巾とマスクは必須やから髪の毛とか入らんから安心しといて。
しきぶちゃんは、うちの髪の毛なら混入してええいうけど、誰の髪の毛でも混入は不衛生やろ。」
なことちゃんは、静かに穏やかに緩やかにそう言うと、そっとわたしを放してから静かに立ち上がり、コーヒーミルやドリッパーを準備する。
「違うよ!なことちゃんの髪の毛は不衛生じゃなくて、富栄養化♪はぁ…………しゅき♡」
わたしは、なことちゃんに背中さすってもらってちょっとだけ元気を取り戻す。なことちゃんはわたしの発言を無視して、冷静に話を続ける。
「それとな、藤沢さん、あの店ほんまはしきぶちゃんのおススメやねん。
メイドっぽいけどメイドじゃないあの制服のデザインの絶妙な匙加減がええのんやって。
ほんまは、しきぶちゃんが制服デザインを絶賛する記事書いたんやけど、ボツになってん。」
※冒頭の「カフェはあけぼの」だけは、しきぶちゃんの原文ママです。うちは千年前の過去作を踏襲
しとうないねん。でも「よどかわわがまち」のスタッフさんが気に入らはった……【註】by なこと
この記事、なんでボツになった?わたしはメイドっぽいけどメイドじゃないあの制服デザインの素晴らしさを余すことなく書いたのに!!
それはさておき、後日、藤沢っちは、「週刊冬夏」の同期くんから、
「あんときのコーヒーの写真見返したら、カップの円周に沿って毛が浮いてたんだけど?」
と問い詰められ追い詰められ、罪滅ぼしとして高い高いうなぎをおごらされたそうな。あわれ。
……ていうか、炎上して非難と嘲笑にさらされまくった、わたしもあわれ……。
あわれなわたしにも特上うなぎをおごって……。
「ワァ、例の『リメイクGENJI炎上事件』の火元、しきぶ先輩だったんスか?」
スキンヘッドに利休鼠の木綿の着流し、細身だけど瞳が大きくて堀が深くてガイコツみたいな彼が、けんちゃんこと吉田兼好君。片眼鏡がよく似合う。今日は久々に西鎌倉から押手郊外のわたしたちの家に引越しの手伝いに来てくれた。炎上騒ぎの当事者がわたしだと知って、ただでさえ大きな瞳がさらに大きくなって、まじガイコツ。ちなみに、今は室内なので身に着けていないが、下駄ばきにベレー帽である。全体的に明治の書生さんコーデ。
「うち、全力で止めたんやけど、止めれば止めるほどしきぶちゃん暴走してしもうて……」
と、静かに穏やかに緩やかになことちゃんが答える。答えながらコーヒーを三杯ちゃぶ台に並べる。黒のスカートと黒ストに包まれた両ひざを畳について配膳する所作の美しさと雅やかさ。こうところに平安時代の宮仕えの名残が出るのよ♪桜色のサテンのブラウスもよく似合う。なことちゃん、やっぱりかわゆい、しゅき♡
わたしは薄紫のパーカーになことちゃんとおそろの黒スカートに黒スト、部屋の隅で膝を抱えて三角座りして黒ストの自分の膝に顔をうずめて落ち込んでいる。でも、自分の脚ながらこの黒い膝に萌え萌えきゅん♡
「引っ越しの手伝いおおきに。それとバットサブレも、いつもおおきに。枚方にいいお店知ってるから、
あとでそこでおごるわぁ~。郊外やけど枚方市駅からそんな遠ないで。
なんか店の前にカクカクしたロボットがおって、焼きとりはちゃんと炭火焼やねん♪」
バットサブレはコウモリをかたどった鎌倉の有名なお菓子。安定の美味しさ♪
「なこと先輩、あざっス!で、ロボット?」
「いやいや、お礼を言うのはうちらやねん。あ?ロボットが焼きとり焼くんちゃうねん、ロボットは
店の前にただただおるだけやねん。おもろい店やろ?」
けんちゃんはなことちゃんのこともわたしのことも「先輩」と呼んでくれる。
「それはさておき……」
ゆるふわな笑顔でバットサブレに喜んでいたなことちゃんが、急に真顔になる。
「うちらも気をつけな、今回のしきぶちゃんと似たようなもんになるんやで!」
と、わたしとけんちゃんを鋭い目で刺す、ぐさっ!!なことちゃんの鋭い目はわたしの急所のど真ん中に思いっきり刺さる!!!痛い、本当に痛い、精神的に……。
「いくら作者本人ゆうてもうちらエルフが『徒然草』『枕草子』『源氏物語』に固執したって、
世間は名作古典の虎の威を借る小者の狐としか思わないねん。本人として振舞えば振舞うほど、
痛々しいなりきりキャラとして、いじられて笑われて炎上して終わりやねん。
そもそも、エルフ的にも昔は昔、今は今思うねん。過去作に執着するよりも、
今どうやって生きていくかこそが大事やねん。うちにとって『枕草子』は生まれて五十年経たん頃の
ビギナーズラックの名作や。数百年とか千年とか生きてるのに、最初の五十年のビギナーズラックに
縛られてどうすんねん。自由に生きようや。エルフの長い長い人生なら、またいつか名作書けるときが
きっと来るねん!」
わたしとけんちゃんを交互に目で刺しながら淡々と語るなことちゃん、なんか毅然としてる!かっこよ!!でも、でもでも、それでもわたしは言いたい!!
「そうだけど、そうだけどぉ……。せっかく名作書けたんなら、それが今も評価されてるんなら、
なんとか活用したいじゃん!!!」
「いやぁ~、しきぶ先輩、ボクもなこと先輩の言う通りだと思うっスよ!!マジで。
でも、ボクも次へ進む前に『徒然草』最終回だけは盛大にやりたいなァ。
次へ進むのも大事だけど、その前に節目とかけじめも大事っスから!!せっかく自分の著作なんだから
それはそれでちゃんと認めてもらいたいっスよね!!!」
「そうそう、さっすが、けんちゃんようわかってるね♪」
「お!しきぶさん上方訛り、素の発言、素でほめてくれてるっスね?あざぁっス!」
意気投合するわたしとけんちゃん!わたしってばちょっと畿内……関西訛った。
でも、なことちゃんはわたしたちを危険視してるみたい。
「しきぶちゃん、けんちゃん!『源氏物語』も『徒然草』も、今さら作者の手が必要ないほど、
大きく大きく育った立派な大人やねんで!『枕草子』もや!!過保護になったらあかんねん!!!
ひいおばあちゃんがおばあちゃんにおっぱい飲ますようなもんや、おかしいねん、変やねん!!」
静かで穏やかで緩やかななことちゃんが珍しくピシッと釘を刺してくる。
「この古民家お気に入りやったのに、しきぶちゃんの過保護のせいで引っ越しやねん……。
今日もしきぶちゃん宛で、学者や古典ファンからの非難の手紙と
”表現の自由”屋さんからの激励と勧誘の手紙が
ぎょうさん来とるわ……。」
なんか、なことちゃん珍しく怒ってる。激しく怒鳴るとかじゃなくて、表向き静かで穏やかなのに、いつもの丸さのない尖った発声と、いつものほんわかさのない細長くてキッとした鋭い目つきに怒りがにじみ出ている……。怖い……。ていうか、こんなに怒らせちゃってゴメンナサイ……。
「か、上方……じゃなくて、か、関西勢は来ないっスか?」
けんちゃん、ちょっとビビりながらなことちゃんに質問。
「国内のエルフ仲間のうちで、しきぶちゃん以外でやらかしそうなのけんちゃんだけやから、
釘刺すの兼ねて、敢えて関西勢やのうて、けんちゃん指名で呼んだんよ。」
静かで穏やかで緩やかなのに、鋭い目つきのせいか、今日のなことちゃんにはなんだか有無を言わせない圧力も迫力も強制力もあった……。その圧力と迫力と強制力により、わたしとけんちゃんは凍り付いた。
「さて、コーヒーブレイクは終わり。早よせんと今日中に間に合わへんねん。」
なことちゃんはそういうと、パンパンと手を叩きながら立ち上がった。
「ほらほら、なことちゃんもいつまでも凹んでへんで働いてや~!」
口は穏やかななことちゃんの黒スト足がわたしの桃尻をつんつんする。いやん♡
「ほわぁ……、なことちゃんの御御足でお尻つんつんされるなんて最高♡ん?ぐぇっ!!」
御御足お尻つんつんからの羽交い絞め……。
「誰のせいで引っ越しやねん?」
ああ、怒ってるなことちゃんもしゅき♡
「ああ!おふたりの百合百合しいお姿、尊い♡……最高っすね♪」
仲睦まじいなことちゃんとわたしに、けんちゃんも萌え萌えキュンしてる♡
そうでしょう?そうでしょう??
「けんちゃん、ありがと♪」
けんちゃんよくわかってる、だからお礼を言った♪なことちゃんとわたしは日本最強かつ世界最長の百合カップル♡
ぐふふむうぇっ!!!あれ???
「恋愛脳のしきぶちゃんがうちに執着するのは別に構わへんけど、うちにとってのしきぶちゃんは
タダの幼馴染程度やから、二人ともはき違えんといて!」
なことちゃんは珍しく強い口調だけど、羽交い絞めの腕の力は露骨に手加減してくれていてちょうどいい感じ♡
わたしは紫式部、対なことちゃん限定でドM……。M?紫式部だけにM♡……ていうことは、なことちゃんは清少納言だけにS???……って、ぐぇぇぎゃぇぇぇ~~~……!!!
「しきぶちゃん!反省してないやろ??しきぶちゃん、反省せい!!」
なことちゃんの腕の力から手加減が消える。加減無しの本気の力の入れ方に変わった!!こういう時の対処法はひとつ。オーバーアクションで実際より苦しそうに演技すること。
「うぐぁえっ、ぐぇっ、ぐぇっ!!けほっ、こほっこほっ!!!きひぃ、ひぃ、ひっ!!!!」
こうするとなことちゃんは我に返るのだ、我に返ったなことちゃんもかわゆ♡
「あっ!しきぶちゃん、ごめん、ほんまにほんまに、ごめん!!!!やりすぎてもうた……!!!!」
狼狽するなことちゃんもかわゆ♪しゅき♡そして、なことちゃんは羽交い絞めの手を放して、わたしの正面に回り込んでハグしてくれる。
「しきぶちゃん、堪忍な……。どうどう、どうどう。」
そして、背中をさすってくれる。
「はぁ!しきぶ先輩、なこと先輩……。尊い……♡」
けんちゃんもわたしたちの百合百合しい姿に萌え萌えキュンしてくれてる♪そして、しきぶちゃんに背中をさすられるとわたしはとっても気持ちい、そして、とっても弱い。
「ごろごろごろごろ、ふにゃああああぁぁぁぁぁ…………。」
わたしは紫式部。清少納言ことなことちゃんの腕の中ですっかり寝落ちしてしまったのだ……。
ふにゃぁぁぁぁ……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
しきぶちゃんが寝落ちするときはいつも、寝落ちの直前にちゃっかりうちの胸の谷間に顔をうずめます。しきぶちゃんは恋愛脳やし百合が大好物やから、しゃーないねん。とはいえ、うちもまあ、まんざらでもないんやけど。でも、口に出せばしきぶちゃんが調子に乗るからそれは内緒です。
永留生というのは、どうして生まれるのか、どうしてエルフになるのかわかっていません。エルフと言えど両親は普通の人間で、長くても百年前後で寿命を迎えます。エルフが子を成したとしても、その子も百年前後で寿命を迎えます。子を亡くす悲しみはエルフも普通の人間も一緒。たとえそれが寿命やとしても、自分より早く亡くなる子は悲しいもの……。ほとんどのエルフはわが子に先立たれることを繰り返すうちに子を成すのをやめてしまいます。
成人するあたりまではエルフも普通の人間と同じように成長します。むしろ少し早熟なくらい。三十代~四十代前半くらいまでは「若々しいね!」と言われるだけですむけど、五十過ぎても普通の人間の二十代後半~三十代前半の見た目のまま。そのあたりから、自分が普通の人間やないと気づくし、他人からは、バケモノ扱いで差別されるか、仙人・仙女として変に神聖視されるかのとちらかです……。ひどい場合にはわが子からもバケモノ扱いされます。極端な例だと、わが子から「新興宗教」の神に祀り上げられわが子は「神の子」を名乗る……、ようするに不老長寿を悪用されてしまうのです……。
それが嫌で、五十代あたりから、うちらエルフは姿をくらまして、新天地で暮らすようになるのです。そうは言うても、やはり不老長寿は注目の的、結局、十~二十五年を目途に移転を繰り返すのがエルフやねん。そして、いつまでも容姿が変わらないことや、それゆえの妙な噂が流れることで、「あー、あの人もエルフや」と気が付くのです。
しきぶちゃんもうちも、平安の昔から互いが不老長寿らしいことに気づいていました。そのころは仲良うなかったから、しきぶちゃんとうちが平安京を離れた時期は異なるねんけど……。
うちらのような人種を「永留生」と言うようになったのは鎌倉時代あたりからやったかな?日本以外にもエルフがいて、ヨーロッパでも偶然「エルフ」という似た発音で呼ばれているのを知ったのは、江戸の初め頃。長崎経由でオランダからもたらされた知識。実際に外国のエルフとの係わりが生まれたのは明治以降。
エルフは長寿と言うだけで、死なないわけではありません。飢えたり重病になったり殺されたり事故に巻き込まれれば普通の人間と同様に死んでしまいます。日本のエルフは戦国時代と昭和の戦時中に相当数が亡くなりました。
しきぶちゃんとうちは、戦国時代にたまたま近くにいて、戦乱から一緒に逃げ回り続けました。その頃、互いに命を守り合ってかばい合って生き延びることで、二人の理解が進んで共に尊重し合うようになり、仲良うなったのです。その後も、昭和のあの大戦争を手を取り合って逃げて逃げて生き延びて、絆はますます深くなりました。だから今では五百年来の大親友やねん。
そんなしきぶちゃんがうちの胸にだらしない寝顔をうずめて寝落ちしてる。かわいい。これからも、こんなふうにしきぶちゃんのかわいい寝顔を眺めて平和に過ごせる時代であってほしい……。頭をなでて背中をさすってあげると、だらしない寝顔が心地よさそうな寝顔に変わる。うちも眠くなってきたさかい、しきぶちゃんをお姫様抱っこでベッドに運んでから、うちも横になる。
おやすみ、しきぶちゃん……。
登場人物やその著作などについて、細かいことはつっこまないでください。
私は『葬送のフリーレン』を観たり読んだりしながら、
「千年以上生きているエルフ」が現実に存在したらどんな感じかな?西暦千年頃の人が今生きているってことだよね?とふと考えてしまったのです。
つまり、日本で言ったら……
紫式部や清少納言が西暦二千年過ぎた今も生きているようなものだ!!
おお!千年生きてる大作家!!
と、いうところから、ノリと勢いで思いついたのがこのお話の発端です。私自身が古典ファンだったり古典に詳しいわけではありません。それに、そこを深堀していたらいつまでたってもお話を書けません。詳しくないからこそ自由に発想できる部分もあるはずです。
そういうわけで、今頭の中にある知識だけで敢えて書きました。
いつか源氏物語を原典で味わえる人になりたい、と思ってはいますが、思っているだけで終わってしまっています……。でも、そうなる第一歩がこのお話なのかもしれません。
お読みいただきありがとうございました。




