第08話:ダンジョンクルーズ座礁
【中級ダンジョン・第5層広間】
ティアグラ:
……少し、掃除してもいいか?
その言葉に、私が頷こうとした時。
――ズシンッ!!
空気が爆ぜるような重低音。
群れの奥から、
巨大な戦斧を担いだ豚人族
が一歩踏み出した。
ただの足音じゃない。
「死」の宣告だ。
カイト:
――ッ!?
あ、あれ……ジェネラルか!?
後方で、カイトの余裕が消し飛ぶ。
「ただの嫌がらせ(100匹)」
のつもりが、
"全滅確定のボス戦"
になっていることに、
ようやく気づいたらしい。
カイト:
ふ、ふざけんな……!
こんなの聞いてねえぞ!
おいルナ、防御魔法……
カイトが杖を構える手が震えている。
――その時だった。
《まもなく、ダンジョンクルーズが来ます》
カイト:
このタイミングでクルーズぅ
カイトの顔色が蒼白になる。
まずい。
この状況(ボス戦)で晒しものはマズイ。
カイト:
おいルナ! 緊急離脱だ!
クルーズが来る前にズラかるぞ!
ルナ:
えっ? でも配信……
カイト:
映らなきゃバレねえよ!
通信トラブルってことにすんだよ!
カイトが懐から水晶を取り出す。
転移結晶。
ソラ:
え……?
カイトが、私を見た
冷たい、ゴミを見るような目で
カイト:
ソラ。お前、役に立つ時が来たな。
ソラ:
……へ?
カイト:
そのまま死んで、時間稼げよ。
――あばよ、負け犬。
――パリンッ
結晶が砕ける音。
カイト、
ルナ、
取り巻きたちが光に包まれる。
ルナ:
あはは! 先輩、バイバ〜イ!
――シュンッ
消えた。
Sランクパーティ『スターダスト』、撤退。
私と、ティアグラだけを残して。
そして……
《ダンジョンクルーズが到着しました》
《来場者数が17,000人を突破しました》
【コメント欄】
: クルーズから
: なんじゃこりゃあああ
: モンスターの数www
: え、今カイトいなかった?
: 光って消えたぞ
: 逃げた?
: ソラちゃん置いてった?
: 見捨てた
: これ放送事故だろ
(視聴者数:17,008 ↗ ↗ ↗)
クルーズの視聴者がなだれ込んでくる。
映し出されたのは、
取り残された二人と、
迫りくるボスの殺意。
――ブモォォォォォォォ!!
オークジェネラルが咆哮を上げる。
獲物が減って、
怒りの矛先はすべて私たちへ。
100匹の殺意が、
一点に集中する。
ソラ:
あ、あ……
腰が抜ける
死ぬ
今度こそ、本当に
震える私の肩に、手が置かれた
ティアグラ:
……賢明な判断だ。
え?
彼女は、
逃げたカイトたちがいた空間を見つめ、
つまらなそうに鼻を鳴らした。
ティアグラ:
あのまま居座っていたら、
ゴミごと消し飛ばすところだった。
分別だけはあるようだな。
ソラ:
て、ティアグラさん!
何言ってるんですか!
ジェネラルですよ!?
ティアグラ:
お前の元飼い主に見せてやろう。
ティアグラが右手を掲げる。
その指先に、
黒い稲妻がバチバチと収束していく。
ティアグラ:
奴らが尻尾を巻いて逃げ出した
『絶望』が、
私にとっては
『準備運動』
ですらないことを。
〜引き続きこの放送を視聴しますか? 〜
① [延長]
② [次へ]
【コメント欄】
: これ絶対ヤバいやつだろ
: wktk
: 延長よろ
: 延長
: 延長
: 逃げるな
: 見届けたい
(視聴者数:20,500 ↗ ↗ ↗)
《アンケート結果:
1.延長(100%)2. 次へ(0%》
《クルーズが延長しました》
《ダンジョン・クルーズが座礁しました》
《イベント終了まで停泊します》
《来場者数が20,000人を突破しました》
ティアグラ:
……ふん。
人間どもも、私の
『掃除』
が見たいらしい。
ティアグラが、ニヤリと笑う。
虐殺の合図。
(第8話 完)




