道
街を歩いて、道に迷っていた時、隣隣を歩いていた女が私に鎖を巻き付けるかのように言った。
「歩くのが段々と辛くなってきた」
私の隣を歩く女は、金銭をドブにでもつけたのかと思うほどに無駄に着飾った装飾をつけていた。女の顔は何重にもペンキが塗られており、本来の表情は見えないとすら思えた。
「ではその邪魔な装飾を取り外せばいいでしょう」
「別にそれは関係がない。私は歩くのが辛くなったのよ」
女は、まるで今の会話だけで私が全ての責任を背負っているかのように、荒唐無稽な言葉を言い放った。高い声で聞き取りにくかっただけだと思い、私は再び同じことを言う。
「歩くのが辛いのなら、その邪魔な装飾を取り外せばいいでしょう」
「何度も言わせないでください。私は歩くのが辛くなったのです」
私たちの会話は真っ直ぐに広がったストリートのようだった。女という生き物は、時折意味の分からない言葉を発することがある。会話をしているのか、ただ私が音を聞いているだけなのか分からなくなるような、私の頭の中を無理やりかき乱すような。
「ひとつ聞きますが、なぜ歩くのが辛くなったのに装飾を取り外さないのですか」
「ですから何度も言ってますが、私は歩くのが辛くなったのであって装飾を取りたいわけではないです」
「装飾が重くて邪魔になっている可能性があるでしょう、なぜしまわないのですか」
「何度も言わせないでください。私は装飾が邪魔なのではなくて歩くのが辛いのです」
ひたすら道を真っ直ぐ歩いてきた私たちは、行き止まりに当たった。女は遂に話題を変えた。
「これで歩くのは辛くなくなった。ほら装飾は外さなくてもよかったじゃない」
歩いていないのだから当たり前のことを、誇らしげに、自分の手柄のように、見栄と意地を張って言う。女というのは、こういうところがある。
「それでは、引き返しましょう」
「引き返したところで何になるの」
「ここにずっといるよりかはマシでしょう」
「そう思ってるのは貴方だけよ」
「いえ、おかしな考えをしているのは貴女だけです」
行き止まりは再び道となり私たちの前に姿を表した。
「ほら、引き返さない方が良かったじゃない」
女は気味悪く口角を上げて、私の頭を直接見つめる。再び私たちは歩き始めた。歩けど歩けど私たちの目的地へは辿り着かない。同じような道をずるずるとひたすら辿っているようだった。
「ほら、だから引き返そうと言ったじゃないですか」
「歩き始めた時に止めなかった貴方が悪いでしょう」
私は女を見つめる。女は視線が刺さった箇所から血が吹き出たかのように喚き、泣き始める。
「貴方が私をそんな目で見るのはおかしい。なぜ私が悪いかのように私を見るの」
「では引き返しましょう」
「私に謝りなさい」
「申し訳ございませんでした」
「謝れば済むと思っているの。そんな浅はかな考えをしている貴方はおかしい」
女というのは、ひたすらに自分が正しいと思い込んでいる。私は辟易して女を置いて一人で歩き始めた。
いくら歩けども、結局、私が目的地にたどり着くことはなかった。
自分だけが正しい時なんて存在しないですよね




