インターバル 信じられるもの
バルディ様とヒルダの逢瀬を目撃してから数日が過ぎていた。
ありがたいことに、父が親睦会の準備を私に丸投げしてくれたので準備に忙しくあの超胸糞悪い朝食会場に行く暇もなく、平和に忙しく過ごすことができている。
とはいえ準備は準備で大変である。
私を心底見下している家令たちに言うことを聞かせるため弱みを探し出し突きつけて協力を要請せねばならないからだ。
弱みを見つけ出すために、私がこの領土で唯一信頼を寄せている兵士たちの力を借りてしまったのもやむなしである。
兵士と言う組織はいい。力こそ全てである。
顔の美醜も地位も名誉も関係ない。力でねじ伏せれば信頼関係の構築が可能。
何ともわかりやすく単純で、面倒くさい人間関係に囲まれた私にとって愛しくもある。
「アニタ様、よろしくお願いします」
「ご苦労だったな。かかってこい」
今日も良い働きが期待できそうな侍女の弱みの情報を持ってきた私の部下の一人を労うため、鍛錬である。労いに打ち合い稽古を希望する辺りが流石私の部下だと言える。
弱みもまあ色々だ。小さな隠し事から、領内の金の横領まで――横領していた奴には当然罰を与えたが――よくもまあ調べあげてきたものだ。
私一人ではスムーズにいかなかっただろう。親睦会の準備が順調なのはここにいる共に鍛えてきた兵士たちの協力があってこそである。
ま、彼らも戦争が終わり、暇を持て余していたからこそではあるが。
戦いもできて諜報活動にも優れているとはどこに出しても恥ずかしくない立派な戦士だ。
「皆、腕が鈍っていないようで安心した!」
「うぉおおおおおお!」
私が改めて声をかけると、部下たちが全力で応えてくれる。
「これからも、その調子で、我が辺境領を支えてくれ」
「うおおおおおおおお!!」
よく見れば直属の部下ではない兵士たちも混ざっている。辺境精鋭のほとんどが集っているような状況。
なんだこれ、私の演説会なのか。
「アニタ様ばんざーい!」
「ばんざーい!」
「うおおおおおお!」
何でこんなに興奮しているのかわからないが、半狂乱で私の名を叫び続ける兵士たちに手を振って応えておいた。
だが私はこの単純な勢いが心地よくもある。
「いつものあれ、お願いします!」
部下の一人に乞われ、私は深く頷いた。
「皆、聞け! 力は全てを解決する! 私は、力を崇め、力を尊び、そして力を求める! 力こそ全て!」
「力こそ全て!」
「力が我々を救うのだ!」
熱狂に包まれる場を、しばらく眺めてから私は静かにその場を後にした。
気が進まないがやらなくてはならないことがあった。
もはや宗教団体……。