8.迷子を案内しよう
って、そんな場合じゃないのよ。親御さんが心配しているだろうから届けてあげなきゃね。このまま放っておいて肉食獣に食べられたら可哀想だし。だからググ先生、ピボノーアの住処教えてください!
【ピボノーア 住処】→ラポシェーディブル大森林の深層部
さっき読みましたー。それじゃなくて、もっとこう、軽度緯度を教えてくれるとか、マップにピン差してくれ……マップにピンか。拡大して見たら集落くらい分かるかも。ピボノーアは獣人の隣人さんらしいし。
ググマップを開けて、親指と人差し指の爪を使ってピンチアウトしてみる。画面を横や上下にスクロールしていると、三角形の線が何個もある薄茶色の部分があった。ピンを差すように触れると【ボアアーノ・熊獣人達の集落】と表示される。
『あの、熊の獣人さんと一緒に住んでますか?』
『うん! ランランさんが優しいんだよ』
そうか、そうか。ランランさんか。この子を送りついでに、私にも優しくしてもらえるかな? ググ先生では得られない情報が欲しいんだよね。ググ先生、簡潔だからさ。この森について、もっと知りたいのよ。
『私、あなたの家が分かるかもしれません』
『本当!?』
『はい、こっちです』
『待って、モモンガさん。ぼくの背中に乗る?』
そんなご褒美いただいてもいいの? もふもふを堪能してもいいの?
乗りたいけどなぁ。私の爪、凶暴なんだよね。チャメルに何回、赤い線を付けられたことか。
誤解ないように言っておきますが、故意ではなく、ふとした瞬間に爪が当たるのです。寝惚けている時に爪を切らしてもらっていたけど、伸びるのが早かったのよね。
『私の爪は引っかかりやすくて傷付けると思うので、木の上から案内しますよ』
『だいじょぶだよ。ぼく、強いっ子だから』
そうか、そうか。モモンガのリリさん、動物好きすぎて目尻が戻らなくなりそうだよ。可愛いのう。
こういう子は、何回か言い聞かせれば分かってくれるだろう。でも、胸を張って顎を上げているということは、相当自信があって、断られることは一切考えていないはず。落ち込ませるのは可哀想だなと思って、申し出を受けることにした。
『失礼しますね』
『ぞっぞー』
ピボノーアの背中に降り、爪を立てないように両手両足を伸ばして寝そべった。これで多少の駆け足も飛ばされないはずだ。
うっわー! 気持ちいい。毛は硬くないし、温かいし、もっふもふで寝れる。目を閉じたら一瞬で寝落ちれる。
木の上から見たら子供サイズに見えたが、乗ってみたら分かる。この子、大きい。というか、私が本当に小さい。
『どっち行く?』
『まずは真っ直ぐですね』
というか、ほぼ真っ直ぐなのよね。ちょっとだけ地図上は斜め下なんだけどさ。真っ直ぐ進めば知っている道に出るんじゃないかな。森だから木しかないけどね。景色は変わるんじゃないかな、たぶん……
走るスピードが速かったらどうしようと思っていたけど、木が生い茂っているおかげで、自転車くらいの速さだった。時々ふわっと風を感じる程度で、とても気持ちがいい。咄嗟に爪を立ててしまうこともなさそうで、穏やかに景色を楽しめる。
ただ花や木の実などが視界に入る度、ピボノーアの子供が興味を移してしまい、集落に近付く速度はゆっくりだった。迷子になったのも納得の好奇心旺盛な子だ。
『私の名前、リリっていいます。あなたの名前は?』
『ダオだよ』
ふむふむ。野生の魔物は名前が無いのが鉄板だと思ってたけど、熊獣人さん達から付けてもらったのかな? それとも、ピボノーアは知能が高そうだから、1匹ずつ名前があるのかも。この子もしっかりと会話できているもんな。
『この森って、ダオちゃんや熊獣人さん以外いないんですか?』
『いるよー』
よかった。全く会わないし見かけないから、本当はいないんじゃって、ググ先生を疑いそうだったんだよね。
『どこにいるんですか?』
『うんとね、遠い所って言ってたよ』
つまり、ここら辺にはいないってことね。住める場所が決まっているとか? でも、この子は住んでるしな……何かあるのかな?
ダオちゃんの『ぼくね、アップーが好きなの』や『かけっこ楽しいね』や『あの石、まん丸だよ』という無邪気な声に、「寂しくないと思ってたけど、本当はめちゃくちゃ寂しかったんだな」と心を温めてもらっていた。
それにしても、アップーって何だろ? ダオちゃんから降りたら調べてみよう。