52.フェレル視点・マズいね
私達の会話が無くなっても、野次馬の冒険者達は一向に減らない。依頼を受けている冒険者も少ないように……
うん、君達、依頼票を手に持ったままで、窓口で受理してもらっていないんだね。急ぎの依頼は無いのかい? 興味本位で残ったままで大丈夫かい?
リリの表示結果次第では長丁場になるだろうからね。依頼主の人達に悪いことをしてしまったかもね。
「フェレル。待っている間に、先にマズーラで調べるか?」
「そうですね。そうします」
何もせずに待っているのも暇だったから、ロッカスに提案されて素直に頷いた。
いつもなら混んでいるのに、今日だけは空いている窓口までロッカス達と歩く。
いつも空いてくれているといいのにね。今日はみんな並ばず、私達を見ているからね。
君達、本当に依頼を受けなくて大丈夫なのかい?
窓口に到着すると、年配のギルド職員がさっとマラーズを机に置いた。
会話、聞こえていたよね。君達が心苦しそうにしなくていいよ。掌握されると思い込んで、問題を起こしたのはギルマスだからね。君達のせいじゃないよ。
「Aランクに上がった時以来です」
「なら、魔力ランク上がっているかもだな。手合わせした時にBだと聞いて信じられなかたったんだ」
どうだろうね。Sランクになりたい訳じゃないから、上がっていてほしくない気持ちの方が高いんだよね。Sランクを狙えると騒がれたくないからね。
入国検査をする透明の板とそっくりな板に手を乗せる。
マズーラは手を置くと淡い光を放ち、光が消えると、板に白色の文字が浮かび上がってくる仕様になっている。
この神秘的な石は大きな塊で見つかり、まだまだ残っているので使い道を模索中らしい。師匠が「余っておるなら個人にも売ってくれんかのう」とボヤいていたね。
「おっ! やっぱりなAマイナスじゃねぇか。魔力上がってたな。凄いことだぞ」
上を目指している冒険者なら喜ぶんだろうけれどね。私には必要ないんだよね。パーティーへの勧誘を断るのも大変だからね。
「魔力はAマイナスとして、属性魔法は風と土か。聞いていた通りだから、増えても減ってもねぇな」
当たり前だよ。属性魔法が増えたり減ったりするなんて聞いたことないよ。
「ギルマス、私の結果に異論はありませんよね?」
ギルマスに向かってニコッと微笑むと、ギルマスは顔を歪めながらも頷いてくれた。
正体が不明すぎて不安が募ったり、この街のことを心配しての行動だと思うから、ギルマスの気持ちは否定しないよ。
けれどね、もう少し冷静に物事を見る目を養った方がいいかもね。確信めいたものがあったとしても、今回ばかりは接触せずに見張るくらいでよかったんだと思うよ。
「フェレル殿。ギルドカードを更新します。お借りできますか?」
年配の職員に声をかけられ断ってみたが、笑顔のまま差し出してきた手を引っ込めてくれない。
観念したように息を吐き出し、嫌々ギルドカードを渡した。
「フェレル、Sは狙わないのか?」
「はい。自由気ままに旅を続けたいですので、行く先々で頼られるのは困るんです」
「そうか。勿体ねぇな」
緩く首を横に振ると、ロッカスに笑いながら頬を引っ張られた。痛いというより、突然のことに一驚し目を丸くさせてしまった。その顔が面白かったのか、ダノテ達にも笑われてしまう。
緊張感が緩みかけた時、外からスクモートの音が聞こえてきた。どうやらロントくんが戻ってきたようだ。あいかわらず早いね。
「は? 子供って、こんなに小さい子なのか?」
「まさかだろ」
「あの子が奇跡を? 嘘だろ」
周りから思い思いの声が聞こえてくる。
そうなると思ったよ。ルカラウカは普通の子供だ。身長も体重も平均的で、武術を習ってもいないから雰囲気に鋭さがある訳でもない。ほわわんとしている。
ロントくんの横を、レンジャー達に囲まれ、帽子を大切に抱えたルカラウカが歩いてくる。
あの帽子の中でリリが眠っているんだろう。起きていたらルカラウカの肩にいるはずだからね。
私に気付いたルカラウカは、安堵の表情を溢し、駆け足で近寄ってきた。横に居たロッカス達が朗らかに微笑んでいる。
「師匠。リリが声をかけても起きないの。眠ったままだけど調べられる?」
ルカラウカが見せてきた帽子の中を覗いて、吹き出しそうになった。
お腹を丸出しにして眠っている姿が可愛すぎるよね。
この状態のリリは触っても起きないんだよね。だから、時々匂いを嗅がせてもらっているんだよ。
秘密だよ。バレると、嫌悪感剥き出しの顔で睨まれてしまうからね。
「大丈夫だよ。むしろ起きない方がいいかもね」
ルカラウカに不思議そうに首を倒されたが、本当に起きていない方がいいと思うんだよね。
リリはギルマスを見て、「つるつるてんが」って盛大に威嚇をするはずだからね。笑わない自信がないんだよね。
面白い表現だよね、「つるつるてん」。ふふふ。
「ルカラウカ。何をするかはロントくんに聞いたかい?」
「うん。僕とリリの魔力を調べるんでしょ。僕、楽しみ」
ルカラウカの笑顔に、ギルド内が和んでいるのがよく分かるね。
リリもルカラウカの笑っている顔が好きみたいだし、このキラキラ輝いている瞳には何か不思議な力があるのかもしれないね。
新しい植物よりも面白い発見だよ。どれだけの人が微笑み返すのか、調べるのも楽しそうだね。
「そうだよ。そこにある板に手を置けばいいだけだよ」
「分かった」
さて、ルカラウカの魔力は、どれくらいあるのかな。
受付カウンターは、大人が立った状態でやり取りをできるように高めに設置されている。その為、ルカラウカの頭より上の位置に机がある。
ルカラウカは数歩下がって板の位置を確認して、腕を伸ばして手を置こうとした。
賢い行動だが、ここには大人がたくさんいる。ルカラウカを持ち上げるくらい動作もない。なのに、賢いはずのルカラウカは、誰の手も借りようとしていない。
楽な道を選ばない理由を考えた時に、ふと普段からのルカラウカの行動が頭をよぎった。
リリに会ってからは自分の意見を言うようになったけれど、ルカラウカの主張は決して強くない。私に質問はしてきても、何かしてほしいやあれが欲しいと強請られたことがないね。許可を取られたことはあっても、手伝ってほしいとお願いされたこともないね。
私に出会う前からそうだとしたら、マアラはどんな育て方をしてきたのかな? それとも師匠かな?
「おっ! 出てきたな」
私が考え込んでしまっていた間に、ロッカスがルカラウカを持ち上げてくれていたようだ。
ロッカスの腕から下ろされたルカラウカは、見えていないのに机の上に顔を向けている。
「ルカラウカだったな」
「うん、僕はルカラウカです」
「将来有望だぞ。魔力がEプラスだ。属性魔法は風と水だな。風ならフェレルと一緒だから、フェレルに教えてもらえるぞ」
Eプラスだって? 私が7歳だった時より多いじゃないか。
これは本当に将来有望だね。ルカラウカは魔法が好きみたいだから魔法士でもいいし、魔導塔という魔法を研究する機関に所属してもいいかもね。
「魔力がEプラスで、魔法が風と水。覚えたよ」
ロッカスに「偉い」と頭を撫でられて、ルカラウカは喜んでいる。ペレグレン・ファルコンのダノテ達も目元を緩めて、微笑ましい面持ちでルカラウカを見ている。
ただ1人、「これ壊れてないだろな!」と結果を受け入れられないギルマスを除いては、本当に穏やかな時間が流れている。
「まぁいい。坊主は違ったってことなら、問題があるのはモモンガだ! モモンガを調べるぞ! よこせ!!」
突然ギルマスが、ルカラウカが持っている帽子を奪い取ろうと、勢いよく腕を振り下ろした。
「ダメ!」
悲痛な叫び声を上げるルカラウカを庇うように間に割り込んだが、それよりも先にロッカスがギルマスの腕を掴んでくれていた。
私の真横ぴったりにダノテがいるし、イヨギリはルカラウカを抱きしめているし、イヨシカは杖をギルマスに向けている。
これでも過剰なのに、ギルマスの頭を蹴ろうとしただろうレッドさんの足が、触れるか触れないかの位置で止まっている。
レンジャー達の顔が怖い。
止めようとしたけれど間に合わなかったロントくんにも、レンジャー達が見えているのだろう。瞳をキョロキョロさせて、顔を青くしている。
「ギルマス。あんた、子供に何しようとした?」
「俺はモモンガを調べようとしただけだ」
「リリは、ギルド長さんのこと嫌いだから、ダメなの……ぐす……何回も嫌だって言っているのに……ぐす……リリ、ずっと怒っているのに……ぐす……リリを取ろうとした……」
これはマズいね。リリを取られそうだった恐怖で、ルカラウカが泣いてしまったよ。
ああ、マズい。マズいよ。さっきよりもレンジャー達の顔が怖いよ。あれ、絶対に「やっちまおうぜ」って言い合っているよね。それに今、リリが起きた方が大変なことが起こりそうな気するよ。
狂花した虎相手に泣かなかった……違うね。あれは恐怖が臨界突破して、涙が出てこなかったんだろうからね。
今は大きな男が、襲い掛かるように腕を振り下ろしてきたんだ。泣いたりしないルカラウカが涙しているんだから、よっぽど怖かったんだろうね。
「ルカラウカ、大丈夫だよ。大丈夫。リリを取られることは無いからね。リリはルカラウカと一緒にいるからね。だから、泣き止もうか」
しゃがんでルカラウカの背中を撫で、落ち着かせようとした時、帽子の中のリリがピクッと動いた。
ああ、これは……ギルマスの命はないかもしれないね。
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