51.フェレル視点「私じゃないよ」
夜中にリリと話して、コモウェルの男性の件は解決していると知った。だから、朝イチでギルドに行かなくてもよかったが、何も知らないロントくんが私を待っているかもしれないと思ったら、ゆっくり行く気にはなれなかった。
彼にも大丈夫だと教えてあげないといけないからね。気にしていたから安心するだろう。
ギルドに到着すると、ギルド内は騒然としていた。
何か事件でもあったのかなと不思議に思いながら進むと、掲示板の前に居るロントくんを発見した。目を見開いて1枚の依頼票を見つめている。
「おはよう、ロントくん」
「あ、おはようございます。フェレルさん。あの、たぶん、これです。あのおじさんの依頼……」
ロントくんが驚愕しながら指している依頼票に目を通して、息を止めそうになった。
リリが動いていてくれてよかった。これは、私ではどうにもできない。Sランク冒険者でも1人では無理だろう。Sランクパーティーじゃないと死にに行くような依頼だ。
ラポシューデル大森林内に聳え立つ、ブランアデス山の中枢に生えていると噂されている幻のギリュウソウ。ドラゴンが好んで食べると言われている草だ。
それの採取依頼だったなんて、目を疑ってしまったよ。これは冒険者達は騒つくはずだよ。
「これが必要な薬って何ですか? なんの病気だって言うんですか?」
顔色を悪くしているロントくんに、依頼はすぐに取り下げられることを伝えるために、その場から連れ去ろうとした時、顔を強張らせているギルマスが重たい足取りで近付いてきた。
「フェレルか。お前、昨日何があったか知っているか?」
「何かあったのですか? 皆さんが騒がしいのは、この無茶な依頼があるからと思っていたんですが」
「はぁ。なぁ、もうお前だろ。お前達なんだろ。正直に話してくれ。何が目的なんだ?」
あの日から話しかけてこなくなったから諦めたと思っていたのに、こんなにも人が多いところで絡んでこられるとは。
ギルマスがしつこくしてきた後は、イキがっている冒険者達も食ってかかってきたりするんだよね。面倒臭いね。
「一体、何の話ですか?」
「昨日、違法していた薬師が捕まり、数件の家で祝福とも取れるおかしな現象が起こった。室内は整えられ、洋服は補修され、見たこともない料理が並べられていたそうだ。しかも、死期が近かった夫人が一夜にして元気になっている。コモウェルの住民達は花祭りの最中だったからか、花の神様が恵みを与えてくれたと言っているらしい。だがな、俺は神様じゃないと思ってんだよ。何者かが、この世界を掌握しようとしているんじゃないかと思ってんだ」
ダメだ。今、笑ってはいけない。リリにそんな野心があれば、もう既にこの国はモモンガ帝国となっていて、すぐにでも近隣国から飲み込んでいくだろう。
モモンガ帝国……ふ、ふふ、可愛くていいね。側近にしてもらえないかな。
「ギルマスから聞く話は、全て誰かを手助けしている話ですよね? 掌握とは違うのでは? コモウェルの街の人達が言っているように、神様がという説の方が説得力があるような気がします。人を治せるんですよね? そんなことができる生き物なんて聞いたことありませんよ」
「とぼけるな! お前達がしたんだろ! 白状しろ!」
困った。どう違うと言えば分かってもらえるんだろうか。した証明より、していない証明の方が難しいという話は本当だね。
「ギルマスよ。そんなに大声で叫ばなくっても、フェレルだって聞こえてるぜ」
私達を囲っていた野次馬の間から、3人の男性と1人の女性が前に進んできた。Aランクパーティー〔ペレグレン・ファルコン〕のメンバーだ。
リーダーは剣士のロッカス。先程発言した亜麻色のマンバンヘアに、黄緑色の瞳をした男だ。
残りはメンバーは、赤みがかった黒色の短髪と瞳の盾職のダノテ、蜜柑色の髪に小豆色の瞳をした魔法士のイヨシカと斥候のイヨギリになる。イヨシカとイヨギリは男女の双子なのだが、髪型をショートカットで合わせている。
先日の天狐防衛隊の責任者に任命されていたグループになるので、私とも顔見知りだ。野営地で手合わせ等もしていた。
「話が聞こえていたもんでな。埒があかないと判断して介入させてもらった。いいか?」
ギルマスは気まずそうに「ああ」と溢していたが、私は有り難さから深く頷いた。
「ギルマスは、一連の事件の犯人をフェレル達だと思っている。だが、フェレル達の身に覚えはない。合っているか?」
ギルマスと同時に肯首する。
「よし。まずは俺の意見を言うと、フェレルは1週間、俺達と壁の向こう側で野営していた。だから、フェレルではないと思う」
当たり前だよ。断じて私では無いからね。どうして勘だけで、ここまで疑われるか不思議なくらいだよ。
「ただ俺はフェレルの子供にもペットにも会ったことがないから、その子らが犯人かどうかは分からない。だから、もうはっきりと調べようじゃねぇか」
「どうやってだ?」
「おいおい、ギルマスが気付かねぇなんてダメだろ。冒険者登録するマズーラは、魔力ランクと属性が目で見て分かる。それを使えばいいだろ」
「そうか! その手があったな!」
なるほど。確かに分かりやすいね。あれってリリはどう表示されるのかな。
面白そうだから、やってもいいね。もしバレたとしても、聖獣で通せば誰も文句を言えないだろうからね。
聖獣を怒らせるバカはいないよ。まぁ、お城に招待されるとか、煩わしいことはありそうだけれどね。
私としては、そんなことより、リリの表示結果が気になるからね。やってもらおう。
「私も構わないよ。子供達は今連れてきた方がよさそうだね」
「待て、フェレル。そう言って逃げられたら困る。迎えはロントに行かせる。いいな?」
ギルマスに止められて、そこまで信用がないことに肩をすくめる。ロッカスも苦笑いをしているし、ダノテ達は白けた顔をしているね。
ギルマスへの信頼度が、ことごとく下がっているような気がするけれど、ギルマスは気付いていないのかい? ここまで大事にして、リリの結果表示次第では、もうギルマスができないかもしれないよ。それには気付いているかい?
「ロントくん、すまないが頼めるかな」
「もちろんです」
「リリが起きたら怒るかもしれないけれど、頼んだよ」
怒っても可愛いリリを想像したのか、ロントくんは可笑しそうに小さく笑ってから、ルカラウカとリリを迎えに行ってくれた。
ロントくんが行ってくれることになってよかったよ。さすがに見ず知らずの冒険者に送迎の許可は出せないからね。
さて、私はギルマスに釘を刺しておこうかな。
「ギルマス。今回限りで疑うのはもう止めてくださいね。マズーラを使うんです。その結果がギルマスの考えと違う物が表示されても納得してください。操作したとか偽装したとか、変な言いがかりはしないでくださいね」
「なっ! するか! それよりも操作するなよ!」
会話が成り立たないよねぇ。どう伝えればよかったんだろうね。
「できませんよ」
「絶対だからな!」
これはギルマスに何を言っても無駄かな。
巻き込んでしまって申し訳ないけれど、ロッカスにお願いしておこう。彼らは結構有名だからね。このまま頑張れば、早くて来年にはSランクパーティーに上がれるらしいからね。そんな彼らの言葉には重みがあるからね。
「すみませんが、証人をお願いします」
「ああ、任せろ」
ありがとう。ここを離れる前に、イエローさんにお弁当を作ってもらって、お礼に渡すよ。野営地で私のお弁当を見て食べたがっていたよね。あの時、分けなかった私にここまでしてくれるなんて、心から感謝しているよ。1週間分は渡すようにするから、堪能してもらえると思うよ。
来週もフェレル視点になります。
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