7.初めて生き物と会えた
3日目、4日目と湖の側に留まってみたが、やっぱり動物に会えない。いるらしい魔物や虫1匹すら見ていない。「このままここに居ても誰にも会えないのかも?」と不安になり、5日目のお昼に湖から出発することにした。
ここ数日の生活で分かったことだが、私は深夜2時頃に眠たくなり、お昼の12時頃に目を覚ます。
おかしいよね? 夜行性だから18時から7時くらいが活動時間のはずなのにね。謎だ。
ただなんとなくだけど、夜10時に寝て朝8時に起きるみたいなムーブが出来そうな気がする。つまり、人間のような生活を送れるかもしれないということ。するつもりはないけどね。
食事は、スーベリをお昼に1粒、夜に1粒で満腹になる。もちろん適度に、お水は飲む。
省エネっぽいけど、モモンガの食事って1日1回とおやつだから、これってどうなんだろ? 1回の食事量が体重の15%から20%で、チャメルは13gから17gの食事量だったんだよね。
まぁ、2回食べている時点で、私は普通のモモンガと同じじゃないんだろうな。食い意地が張っているんじゃなくて、特別仕様だよ、特別仕様。
みんなは、可愛いモモンガに食事を与える時は、きちんとバランスのいい食事を用意してあげてね。今の私みたいに、果物ばかりっていうのもダメだからね。約束だよ。
さて、出発するにあたり、どこに行こうか悩んだけど、前世イタリアだけ行ったことがあるので、街並みが似ている(ググ先生調べ)ラバロッコ国に行ってみようと決めた。前世との違いが分かりやすいかもだからね。
ラバロッコ国は、湖から南東に延びている川の下流にあるので、川沿いを走れば到着する。
行くよ! ラバロッコ国!
意気揚々と走り出そうとして……ゾワゾワっと毛が逆立った……なにこれ……嫌な予感がする……
野生の勘かもしれないと、回れ右をして、ラバロッコ国とは反対の西にある川に変更することにした。
ググマップで5つの川がそれぞれの国と合流することは、きちんと確かめ済みなので、どの川でも平行するように枝伝いで進めば、必ずどこかの国に辿り着く。
道中の食事は、移動途中で果物や木の実を見つけられなかった場合のみ、スーベリに頼ろうと思っている。
スーベリは昨日のうちに摘ませてもらい、ポッケに入れている。ポッケの中は時間経過しないのだから、保険として置いておく方がいいだろう。
実を採っている時だが、紫色の実を数粒見かけた。食べたい衝動に駆られたが、1粒も手を付けていない。動物は賢いので、もしかしたら完全に熟してから食べに来るのかもしれないからだ。楽しみにしているかもしれない動物を、悲しませたくはなかった。
その動物を待っていてもよかったが、本当に来るかどうか分からないので出発した次第である。正確には、待つより動く方が性に合っている、という性格のせいである。もうじっとしているのに飽きてしまったのだ。
順調に2週間程進むと、川辺で水を飲んでいるツノがあるウリ坊を見つけた。
初めての生き物との出会いに喜んだが、知っている猪とは姿からして違う。たぶん魔物で、ものすっごい凶暴な可能性がある。
警戒しながら、ググ先生に【ツノがある猪】を調べてもらった。【もしかしたらピボノーア?】【ピボノーアで検索しています】と検索バーの下に表示され、サイほどの大きさの猪の写真が表示された。立派なツノに突かれたら、即死間違いなしだろう。
きっとこのピボノーアの子供だよね。子供でも危険な可能性が……って、草食動物なんかい! 見た目と一致しなくて、ツッコんじゃったよ。
で、ラポシェーディブル大森林の浅い部分に住んでいたが乱獲されたため、シルバーフェン……フェンリル? あの、漫画やゲームでお馴染みの? 見た目と裏腹に優しく描かれることが多い、あのフェンリルさんですか? いるんですか? へー。
オーケー。オーケー。続きを読も。
シルバーフェンリルによって深層部に居住を移したと。穏やかな性格で、獣人達のよき隣人なのか。
ってことは、この近くに獣人の集落があるのかな? 穏やからしいから話しかけてみよう。ただし、木の上から。
「あのー、すみません。ピボノーアさんですか?」
頭を上げたピボノーアの子供は、左右を見渡している。ハッキリと見えた顔は、愛らしいお目目のかわい子ちゃんだった。頬にハートっぽい模様がある。
『だれ?』
お! 何話しているか分かる!
「あの、木の上から失礼しています。私、モモン——
『だれ!? ねぇ、だれ!?』
これは……私の言っていることは分からないってことか……だとすると、私が話しているのは人語なんだろうな。
でもさ、モモンガじゃん。めちゃくちゃ可愛いモモンガなのよ。相手の言葉が理解できるんだから、私も動物語(?)を話せると思うの。鳴きながら念じればいいのかな?
『あの、木の上に居ます』
『木の上?』
クルンと方向転換したピボノーアは、空を見るように顎を上げた。キョロキョロしている視線に留まるように、手を振ってみる。
『いた! えっと、えっと、モモンガさん!』
『はい。私、モモンガです』
『やったー! 当たった!』
私もやったーだよ。会話できてるんだもん。
『あの、聞きたいことがあるんですが、よろしいでしょうか?』
『いっよー』
『ありがとうございます。お住まいは近くですか?』
『分かんない』
『えっと、どっちから来られました?』
『それが分かんなくて困ってたのー』
楽しそうに話してくれているけど……いわゆる迷子の猪ちゃんなのか。泣いてないから大丈夫だとして、どうしたものか。
川は太いし深いと思われるので、向こう岸からではない。こっち側と判断したとしても、森は大きい。
『ずっと川はありましたか?』
『ううん。やっと見つかったの。お水おいしかったー』
そうか、そうか。可愛い笑顔にほっこりするよ。ありがとうね。