47.おっちゃん家族
昼食はどこも満席状態だったので、適当に何個か屋台で買って、川辺で食べることにした。
川辺も人が多かったが、お店の混雑ほどじゃない。天気もよく、風を感じる中でのご飯はほっこりできる。
「リリ、どれが食べたい?」
「あ、あの! すみません!」
緊張していると分かる固い声が聞こえて、ルカくんが振り返った。
私はルカくんの膝の上に移動していたからね。私からも声の正体、小さな子供2人は見えている。
焦茶色の髪と瞳で、薄らそばかすがある2人。よく似ているから兄妹だろう。
「君達、どうしたんだい? ご両親は近くにいるのかい?」
フェレルさんが代表して質問してくれる。
そう、そこは1番大切なこと。人でごった返しているお祭りで迷子なら、保護してあげなきゃいけない。
「あー、いた! よかった!」
突然、子供2人の後ろにガタイがいい男性が現れ、子供達の頭に手を置いた。安堵したように息を吐き出す男性は、蝋燭の予約を勧めてくれたおっちゃんだった。
「あれ? あの時の」
「ん? あんた達」
フェレルさんとおっちゃんの声が被って、2人はお互い笑いながら会釈をしている。
「その節はありがとうございました。おかげでお祭りを楽しめています」
「いいってことよ。蝋燭はもう作ったのか?」
「この後、作りに行く予定です」
「そうか、もうあの時点で昼になっていたんだな。予約できてよかったな」
「ええ。あの時の予約を逃していたらと思うと、恐怖を覚えるくらいです。本当にありがとうございました。それで、この子達はお子さんですか?」
「そうだ。道を尋ねられて答えている間に姿が見えなくなってな。肝が冷えたよ」
おっちゃんは乗せていたままの手で、子供達の頭をグリグリしている。
顔は似ていないけど、髪と瞳の色はそっくりだ。親子と言われたら親子に見えてくるから不思議である。
「見つかってよかったですね」
「ああ、連れ去られていなくてよかったよ。ほら、行くぞ」
おっちゃんが私達に軽く頭を下げながら、子供達の肩を掴んで回転を促そうとした。
「父ちゃん、待って」
「俺達、この不思議な動物が見たいんだ」
おや? 今、不思議な動物って言いました?
確かに、薔薇挿しでよく分からんことをしたフェレルさんは不思議な動物だ。
人間も動物だからね。異論は認めん。
だから、その指している先を、私じゃなくてフェレルさんに向けようか。私はただ可愛いだけのモモンガだからね。不思議な動物じゃないよ。
「不思議って、モモンガだろ。何が不思議なんだ?」
「モモンガ? この動物、モモンガっていうの?」
「リスじゃないって分かったけど、モモンガってリスの仲間?」
ごめんよ。フクロモモンガはリスの仲間じゃないんだよ。ほら、ちょっと変わっているけど袋があるでしょ。猫型ロボットの仲間……ごめんなさい。
って、この件、もうやったよね。レパーリーが乏しくて悔しい。
「そうだな。リスの仲間だ」
おっちゃん、嘘はよくない。話せないから反論できないけど、私は袋があるからカンガルーやコアラの仲間だよ。
フェレルさん達も訂正しないってことは、詳しく知っている訳じゃないからだろうな。私もチャメルを飼う時に初めて知ったんだし、そんなもんだよね。
「ね、ね、見せて」
「触ってもいい? 噛まない?」
ルカくんは、私を見てからフェレルさんに視線を投げた。フェレルさんが私を確認してから頷くと、ルカくんは花が咲いたような顔で笑った。
「リリっていうんだ。可愛いでしょ。優しいから噛まないよ。そおっと撫でてあげてね」
そかそか。ルカくんは私を自慢したかったのか。可愛いすぎる。あーもう大好きだよ、ルカくん。
私は賢いからね。大人しく撫でられてあげるし、可愛いアピールもしておくよ。
ルカくんに膝から両手で掬い上げられた私を、子供2人は顔を寄せ合って覗き込んできた。そして、恐る恐る人差し指で触ってきた。
鳴いてあげようじゃないか。
『ククク』
「鳴いた!」
「怒ったの?」
「違うよ。喜んでいるんだよ」
ふふふ、みんな可愛いな。大サービスだよ。
ルカくんの手からぴょんとジャンプし、男の子の腕を駆け上り、背中側を走って女の子の肩に飛び乗る。止まらずに女の子の腕を伝い、ルカくんの手に戻った。
「うわー! すごいね! すごい!」
「うんうん、楽しいね」
そうだろう、そうだろう。ちょっと勢いがある撫で方になったってことは、さっきよりも心が打ち解けたのかな。モモンガ好きになってもらえたら何よりだよ。後で毛繕いして整えることにするから、存分に撫でていいよ。
「ありがとな。ほら、そろそろ帰るぞ。昼食の邪魔をして、蝋燭作りに間に合わなくなったら大変だろ」
「うん、分かった。触らせてくれてありがとう」
「でも、父ちゃん。母ちゃんにも触らせてあげられないかな?」
男の子の方は明るくお礼を伝えてきたが、女の子が泣きそうな顔でおっちゃんを見上げた。
おっちゃんは辛そうな、それでいて母親を思った子供に対して嬉しそうな、複雑な表情を浮かべて女の子の頭を撫でた。
「母ちゃんは動物好きだからな。きっと喜ぶだろうな。でもな、病気だから誰かに移ったら悲しむだろ。母ちゃんが元気になったら、また触らせてもらおうな」
「母ちゃん、いつ元気になる? 薬師の人、最近来ないのは、どうして?」
泣き出しそうになっている女の子に、おっちゃんは切なげに微笑んだ。
「母ちゃんの薬はな。特別な草が必要らしくてな。その草は危険な場所にしか生えてなくて、冒険者に依頼をしないといけないんだ。それで、ちょっとお金がかかるんだよ。でもな、父ちゃん、祭りの前にたくさん働いてただろ。やっと依頼を出せるんだ。だから、薬師の人もまた来てくれるし、母ちゃんもよくなる」
大きく頷いた男の子が、女の子の手を取った。強く握っている。
「マリール、大丈夫。母ちゃんは絶対良くなる。今年は無理だったけど、来年は一緒に祭りに行こうって約束しただろ。母ちゃんはきっと約束守ってくれる」
「ああ、母ちゃんは嘘吐かないだろ。きっと大丈夫だ。さあ、花を買って帰ろう」
ううう……私、こういうのに弱いのよ。健気な家族に涙腺刺激されて涙が出ちゃう。おっちゃんも子供達も優しいから幸せになってほしいよ。
おっちゃん、さっきも道案内したって言ってたじゃん。善い行いした人は幸せになれなちゃダメなのよ。
なのに、母ちゃん、そんなに体調悪いの? 特別な薬って何? そんなに高額なの?
そんなのお姉ちゃんがタダで治しちゃる。こそっとな。だから、そのお金は母ちゃんの快気祝いに使っておくれ。
おっちゃんが「お騒がせしました」と苦笑いをし、子供達は「また触らせてね」と手を振りながら去っていった。
「あれ? ピンクさん……」
ルカくん、それ以上は声に出してはいけませんよ。フェレルさん達もキョトンとしているから、気持ちはみんな一緒なんだろうね。
話せないから心の中で説明をするとね、ピンクさんはおっちゃんの家がどこかを調べて来てくれるのと、母ちゃんの容体を確認しに行ってくれたんだと思うよ。
ホワイトさんに治せない病気は無いから夜にこそっとが理想だけど、一刻を争うのなら、どっかに隠れてホワイトさん呼ばないといけないからさ。
ピンクさん、『まだまだ大丈夫よ』っていう朗報を待っています。
「フェレルさん。薬に使う高額な草って心当たりありますか?」
「なんだろうねぇ。私もピンとこないんだよね」
なぬっ! フェレルさんに薬学の知識は無くても、Aランク冒険者で植物学者なら、危険な場所に生えている草を知ってそうなものなのに。興味そそられて一度くらいは採取とかしてそうなのに。
ピンとこないって、どういうこと? そこまで珍しい草があるの? それ、誰も採ってこられないんじゃないの?
「依頼が明日あたり貼り出されるかもしれないから、朝イチで見に行ってみるよ。危険な場所なら誰も受けないかもしれないからね。薬に必要なら早く採取してあげた方がいい」
「俺も朝イチで行きます。同行はできませんが内容を確認しておきたいですし、AランクOKの依頼なら置いておきますよ」
「それじゃ、私より先に着いた場合はお願いするよ。さすがにSランクの依頼じゃないと思いたいね」
「それですと、お手上げですね。今Sランク冒険者は、ウスリー・コモウェルのギルドにはいないですから」
お、おおおお。それはいかん。一大事すぎる。Aランクであってほしい。
っていうか、今日の夜には元気になるから、フェレルさんも行かなくていいよ。ノリで焦ってみたけど、母ちゃんの病気は問題ナッシングなのよ。
私、優しくしてくれた人には恩を返すからね。鶴の恩返しならぬ、モモンガの恩返し受け取ってね。
「ねぇ、リリ」
パニカくん、小声で何でしょうか?
「僕にも走るやつやってほしいな」
走るやつ?
って、さっきおっちゃんの子供達にやったやつね。羨ましかったのね。任せなさい。可愛い子供のお願いは聞いてあげるからね。
そりゃー。
私がパニカくんの体を走り出すと、パニカくんは楽しそうに笑い出した。
ルカくんが静かに「僕も」とそっと手を出してきたので、ルカくんの体も走っている。
ビアナちゃんは何も言ってこなかったけど、瞳が「いいな」と語っていたので、ルカくんの肩からパニカくんの肩、そしてビアナちゃんへと飛び移って、ビアナちゃんの体を駆けた。
「リリ、私の体の方が走りがいあるよ」
ふっ。フェレルさんの体は走らないよ。いつ掴まれて匂いを嗅ごうとされるか分からないからね。私はルカくんの膝に戻るよ。
「私の何がお気に召さないのかな」
「フェレルさん、俺も走ってもらえてませんから。大人は好みじゃないんですよ」
おお! 心の友だけあって、ロントさんはよく分かっているね。
でもね、少し違うよ。フェレルさんが信用できる大人なら走ってあげたよ。
本当にそいつは信用ならないんだよ。隙あれば私を掴もうとするんだから。油断していると、手の中に閉じ込められそうだからダメなのよ。
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