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モモンガ・リリの変なレンジャー魔法  作者: HILLA
サンリカ国 ウスリー・コモウェルの街
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43.コモウェルの街に行ってみよう

今日はコモウェルの街を散歩する日なので、私は朝から起きている。


お目目ぱっちりだよ。朝ご飯もしっかり食べたよ。


なーんてね。


自力ではない。目覚めていなかったら起こしてほしいという私の願いを、ルカくんが叶えてくれたにすぎない。


そう、他力である。


「おはよーございまーす」


この声はビアナちゃんだな。もしかして遊びに来たのかも?


そっかー。メールが無いから、「今日どう?」「おけ」みたいなやり取りはできないもんね。訪ねてきたのが出かける前でよかったよ。じゃないと、来た損になっちゃうもんね。


ルカくんが笑顔で門を開けに行ったけど、フェレルさんは少し悩み顔だ。


「どうされました?」


「お出かけをどうするか考えていたんだよ。お祭りの当日ほどじゃなくても、コモウェルの街は人が多いからね。迷子にはできないから」


「迷子の心配でしたら大丈夫ですよ。レンジャーの皆さんがいらっしゃいますから。逸れたとしても合流できます。でも、大人1人で子供3人はさすがに大変だと思いますから、日を改めてもいいんじゃないでしょうか」


「レンジャー達が手助けしてくれるなら問題ないよ。ルカラウカも昨日の夜から楽しみにしていたし、今更お出かけは無しとは言えないよ」


そうなんだよね。ルカくん、喜んでいたんだよね。私みたいにコモウェルの街並み目的とかじゃなくて、みんなで出かけられるってことに胸を弾ませていたんだよね。


可愛かった。いつだってルカくんは目の保養だよ。


「ん? なんだか騒がしいね」


私の耳は捉えているよ。ルカくんが「ごめんね。今日はお出かけするの」と伝え、ビアナちゃんが「じゃあ、明日また来るわ」と帰ろうとして、パニカくんが「ルカと遊びたい」と泣きそうになっているみたい。


「フェレルさん、このまま出かけてしまいましょう」


「そうしようか。リリも今日は姿を消すんだったね」


「はい、もう消えておこうと思います」


ブルーさんに向かって『お願いします』とペコリンし、魔法でプリティな私の姿を消してもらった。


なお、高性能魔法なので、ルカくんとフェレルさんに加え、今回はビアナちゃんとパニカくんにも半透明で見えるそうだ。説明をしながら、ブルーさん達5匹も消えていた。


「手なんて出して、何ですか?」


「ん? ルカラウカが居ないから、私がリリを運んでいいんじゃないのかい?」


「私、走れますよ」


「知っているよ。でも、汚れた手足でルカラウカの肩に乗るつもりかい?」


くっ! 卑怯者め! そんなことを言われたら、私が折れるしかないじゃないか。それに、早く外に出て仲裁してあげないと、パニカくんが本気で泣いてしまうかもしれない。だから、私が大人になるんだ。


期待の眼差しを送ってくるフェレルさんの手に乗った瞬間、手を高速移動されて、フェレルさんの鼻に背中を当てられそうになった。


危なかった。この変態め。舌打ちしてんじゃないよ。


勢いが早すぎてよろけたから逃げられたけど、油断していたからゆっくりだったら危なかった。ルカくんだけに許しているモモンガ吸いをされるとこだった。


もう二度とフェレルさんの手には乗らない。近づかない。


「リリ、ごめんごめん。許して」


許さないぞ。もう知らん。ルカくんの肩を汚したら謝る。それでいこう。


きちんと閉まっていなかった玄関ドアから外に出て、パニカくんを説得しているビアナちゃんと、困っているルカくん目がけて走る。


ズボンの裾を掴んだ時にルカくんは気付いてくれて、肩に登るまで見守っていてくれた。


「ルカラウカ、出発しようか」


「うん、でも……」


フェレルさんの声が聞こえて、ビアナちゃんとパニカくんはやっと私達に気付いた。半透明だからだろう。私とレンジャーのみんなを見て、2人して目を擦っている。


動作が一緒って、本当に仲がいい姉弟だな。


「パニカくん、ビアナちゃんの手を絶対に離さないって約束できるかい?」


少しだけ身を屈めたフェレルさんが、パニカくんを真っ直ぐ見つめている。


パニカくんは口を引き結び、深く頷いた。


「フェレルさん。私達、兄さんから迷惑だけはかけないようにって注意されていて」


「一緒に出かけるくらい問題ないよ。でも、迷子だけはやめてくれるかい。ロントくんになんて説明すればいいのか分からなくなってしまうからね」


「本当にすみません。ありがとうございます。絶対にパニカから手を離しません」


「頼んだよ」


こら、フェレルさん。今、ビアナちゃんの頭をポンポンする必要あったか? またビアナちゃんの目がハートになっちゃったじゃないか。好きのボルテージを、これ以上上げてあげないでおくれ。


「ルカラウカは、向こうに着いたら、私の服を掴んでいること。いいね?」


「うん、師匠。約束」


という一悶着があったが、みんなで仲良く出発した。


川に着くまでの道なりで、フェレルさんが小声で半透明の私達のことを説明してくれた。ビアナちゃんもパニカくんも、見えないフリをしてくれるそうだ。


子供にお願い事ばかりでごめんねぇ。でも、ルカくんとの幸せな日々を維持するため、どうかご協力をお願いします。


コモウェルの街との境にある川に到着し、今日は船で渡ることになった。お祭り当日は渡し船も混むらしく、乗るために待つよりも、橋を歩いた方が早いくらいだそうだ。当日は歩くことになるだろうから、今日は乗ってみようということになったのだ。


ここで、もう一悶着。


ビアナちゃん達は、今日の昼食を持ってきているが、お金を持ってきていないとのこと。だから、自分達は歩いて行くと言ってきたのだ。


そりゃそうだろう。子供なんだ。はじめからお出かけを知っていたら、1人1,000マルーずつくらいはロントさんも持たせていただろう。でも知らなかったんだから、持っていなくて当たり前だ。


というか、お弁当を持ってきていたことに、私はビックリだよ。


それで、フェレルさんが「気にする必要ないよ」と大人の余裕を見せたが、ビアナちゃんは「いいえ、そこまで甘えられません」と恐縮し、「んー、じゃあ、こうしよう。今日かかったお金は、後からロントくんにもらうよ。それでどうだい?」というフェレルさんの提案で落ち着いたのだ。


このやり取りからも分かるように、お金に関してはフェレルさんもはじめから気付いていたはずだ。ビアナちゃんの「お金が無い」という申告に驚いていなかったからね。


それに、払うのが嫌だったり、お金の心配があるのなら、私が「日を改めましょう」と言った時にお出かけを止めていたはずだ。


だから、子供達は何も気にする必要ないのだ。私のお金じゃないけど、はちゃめちゃな物を欲しいとか騒がなければ大丈夫。フェレルさんは迷子の心配しかしていなかったからね。


順番に乗船し、ルカくんとパニカくんは初めて乗る船の感想を言い合っている。ビアナちゃんも腰を下ろして安定した瞬間から、キョロキョロと興味津々に周りを見渡している。フェレルさんは普段と変わらない。穏やかに船を楽しんでいるように見える。


私はというと……ゆっくりと進む船の風が気持ち良くて、「二度あることは三度あるっていうからな。もう一悶着あるかもな」という心配を、すぐに忘れたのだった。






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