42.お祭りの意味
ルカくんの隣でスヤースヤーと眠って、起きたらお昼を回っていた。
なんてこったい。物音1つすら記憶にない。つまり浅く眠った時間は無いということ。眠り姫の適性がありすぎて怖い。
っていう、おちゃらけは置いておいて、ロントさん達は朝早くに帰ったそうだ。フェレルさんとルカくんに何度もお礼を言っていたらしい。ほんわかした雰囲気の中、パニカくんが「帰りたくない」と泣いちゃったらしく、ビアナちゃんと一緒なら遊びに来ていいという許可が出たそうだ。
グリーンさんが教えてくれた。面倒見いいよね。ありがとう。
その許可を出したフェレルさんは、午前中ギルドに行っていたらしい。もう既に食料品の買い出しも終えて、家で寛いでいる。私の食事風景をニマニマしながら見てくるので、反対側を向いたら背中を撫でてきやがった。
もうこれ馬さんを抜いて、好きな動物1位になったな。躍り出るの早かったな。
首位をキープしなきゃいけないからね。存分に撫でることを許してあげよう。決して気持ちいいか、らでは、、なぃ——ほわほわして二度寝してしまいそう——
ハッ! いかんいかん! 早く食べ終えて、ルカくんと遊ばねば!
ルカくんは、午前中はかけっ子とブランコをし、昼食後はレッドさん相手に、レッドさんを高く投げて、手に戻ってきてもらうという遊びをしているらしい。
それ、私はまだ怖くてできないから、気の済むまでレッドさんにしてもらってください。だから私が合流した後は、ジャングルジムからルカくんの手という滑空で楽しんでね。
ただ、先にルカくんがおやつを食べに戻ってくる、という線が濃厚だけどね。本当に寝過ぎた。
「リリ、夕方は散歩に行くかい?」
「ルカくんが行きたいのなら行きましょう」
「ルカラウカは行くって言うよ。リリが散歩に行こうって言っていたって、ルカラウカが話してきたからね」
うんうん、いつだったか眠る前に、「フェレルさんが帰ってきたら、また散歩に行きましょうね」ってお喋りしたもんね。ルカくんも楽しみにしていたのかもな。毎日、お庭と家の中だけじゃ飽きちゃうもんね。
「フェレルさん、お仕事の方はどうですか? すぐに依頼を受けたりしますか?」
「2・3日はゆっくりしようと思っているよ。それに、1週間の警備は不発だったけれど報酬は多いからね。ここではもう、日帰りできる依頼しか受けないようにするよ」
「では、明日はコモウェルの街に足を伸ばすことはできますか? 向こうの街並みも見てみたいんです」
「かまわないよ。あ、でも、確か来週お祭りがあったんじゃないかな。その時に行くかい?」
「どんなお祭りですか?」
「花の形をしたキャンドルが作れたはずだよ」
「楽しそうですね! 行きたいです!」
「明日はどうするんだい?」
「もちろん行きたいです」
おい、今のどこにお腹を抱えて笑うポイントがあった? 和やかに話していただけだろうが。本当にフェレルさんのツボが分からん。
「ご馳走様でした」と手を合わせた時、窓からふわっとレッドさんが入ってきて、玄関のドアを開けた。
「リリ、起きたんだね。おはよう」
可愛い笑顔で戻ってきたルカくんを近くで出迎えるため、机の端まで走る。
「ルカくん、おはようございます。レッドさんの滑空はいかがでしたか?」
「カッコよかったよ。どんな風に上げても、レッドさんは手に綺麗に着地してくれるの」
『当然だ。簡単だからな』
言葉が通じないはずなのに、レッドさんが腕を組んで胸を張ったから、ルカくんもフェレルさんも何を言ったのか分かったのだろう。ルカくんはニコニコ顔で「本当にカッコよかったよ」と褒め、フェレルさんは楽しそうに笑いながらレッドさんの頭を撫でている。
ルカくんが席に着くと、シュークリームが運ばれたきた。
ルカくんは左右からシュークリームを覗き込み、フェレルさんを見てからイエローさんに顔を向けた。ルカくん同様、フェレルさんも首を傾げていたからだと思う。
『イエローさん、シュークリームって無いんですか?』
『無いあるよ。似たようなクリムフレは、パイ生地の中にクリームあるね』
『では、シュークリームって言っても大丈夫ですか?』
『いいあるよ。リリも食べるあるか?』
『今はお腹がいっぱいなので、次の機会を楽しみにしています』
残念そうにするイエローさんに心の中で謝りながら、まだシュークリームを触ってもいないルカくんに声をかける。
「イエローさんオリジナルのシュークリームというお菓子だそうです。手で持って、パクッと食べて大丈夫ですよ。中から溢れるクリームには気を付けてくださいね」
フェレルさんが、イエローさんに「私にももらえるかい?」とお願いをしている。イエローさんオリジナルと聞いて興味が湧いたんだろう。
きっと、ぶっ飛ぶほど美味しいと思うよ。私好みのシュークリームが作られているなら、ガリザクの皮に、生クリームとカスタードのダブルクリームのはずだからね。
「リリ、教えてくれてありがとう。いただきます」
ルカくん、最高に可愛い。たんとお食べ。
中から溢れるクリームを気にしてか、ルカくんは小さく1口食べた。そして、大きく開いた瞳をキラキラさせてシュークリームを見つめている。
言葉がなくても美味しいって分かる顔にキュンキュンする。食べていない私の心まで満たされるよ。
フェレルさんも齧り付き「何個でも食べられそうだね」と感想を述べているが、私はルカくんを眺めることに集中しているのでスルーだ。
クリームを溢しそうになって、慌てているルカくんも可愛いねぇ。
私に「可愛い」と「愛らしい」と「キュート」と「プリティ」以外の語彙力があればいいのに。ルカくんの可愛さを伝えきれないのが口惜しい。
ルカくんの小さな口では、どうしても口横に付いてしまうクリームとシュー生地のカスは、ピンクさんが優しく拭いてあげていた。
私は飛べないからね。そういうお世話は一切できない。ピンクさんが羨ましい。
食後は、フェレルさんがさっき提案してくれた散歩に出かけた。川沿いの散歩は、やっぱり気持ちがいいよねぇ。
『ん? 向こう岸が騒がしいけど、何かあったのかな?』
「リリ、どうしたの?」
ルカくんに問われ、周りに人が居ないのを確認してから、手で向こう岸を指した。
何となく念の為ね。私、やらかししかしないからさ。
「師匠、人が多いね」
「来週のお祭り目当てに訪れた人達じゃないかな」
「お祭りって何? 何かするの?」
え? ええ? お祭りは、神様に感謝や供物を捧げたり、疫病や厄災を遠ざけたり、慰霊だったり、五穀豊穣の祈願やお祝いってのもあったりするものだよ。地域の交流の場として大結力を高めるためって意味もあったはずだよ。
私の前世においては「ハレ」と「ケ」っていうのがあってね。「ハレ」という言葉には、折り目や節目を指す「晴れ舞台」や「晴れ着」の非日常の意味があってね。「ケ」は、「ハレ」以外の日のこと、日常のことを指すの。
ちなみに「ケ」の語源は、普段着を「褻着)」、農家さんの自家食用を「褻稲」、他には食事時を「ケ時」や田畑の作付けを「毛付け」と呼んだからだとか。
で、食物が枯れてしまって日常を送れなくなることを枯れると表現し、「ケ」が枯れるで「ケガレ」といい、「ハレ」で「ケガレ」を落とすという意味がお祭りにあったはず。日常の疲れが溜まって「気が枯れる」から「ケガレ」っていう説もあったかな。
纏めると、よくないものを落とし、未来の繁栄を願う大切な行事ってことだね。
私が長々と自分自身でお祭りについて考えを述べていた間、フェレルさんも似たような説明をしていた。「ハレ」と「ケ」についての話はなかったけどね。
「来週は花祭りで、愛を伝え合うというお祭りだったはずだよ」
地域の交流の場のお祭りなのね。私、てっきり花のキャンドルを作って、川に浮かべて慰霊や祈願をするのかと思っていたよ。
てへ、早とちりしちゃったぜ。
まぁ、するかもしれないしね。灯籠流しって綺麗だから、キャンドルでも見てみたいな。
「じゃあ、僕はリリに伝えよう」
もぅーーーーお、ルカくんたら私の心を掴んで離さないんだから。私もルカくんに伝えるよ。待っててね。
「私やレンジャー達には伝えてくれないのかい?」
「ううん、伝える。みんな大好きだもん」
「嬉しいよ。私もみんなに伝えるよ」
ルカくんのハニかみ顔、なんて輝いて見えるの! 私までニヤニヤしちゃうよ。
私も、たっくさん「大好き」って言うからね。母親がいない隙間は埋められないだろうけど、ルカくんが寂しくないように纏わりつくからね。幸せで楽しい毎日を送ろうね。
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