39.追いかけたい? 追いかけられたい?
ルカくんの手の温もりに、うっかり眠ってしまわないように頑張り、そうっとベッドから抜け出した。
最近、本当に睡眠が足りていないような気がする。だから、さっさと聞きたいことを聞いてベッドに戻ろう。
「フェレルさん、ロントさん。私もお邪魔していいですか?」
私がひょこっと顔を出すと、フェレルさんは瞳を細めて迎え入れてくれた。
「リリ、眠れないのかい?」
「いいえ。寝たいですが、今後のために教えてほしいことがありまして」
「ルカラウカ達の前では話せないんだね」
「まぁ、できれば避けたい話題ですね」
「俺は構いませんよ」
「ロントさん、ありがとうございます」
「私は質問される側だからね。ロントくんがそう言うのなら、私が拒む理由はないよ。リリがいると楽しいからね」
フェレルさんは、女性が言われたら嬉しいことを、敢えて言ってきてるんだろうな。きっとこうやって女を落としてきたんだよ。
だがな、私はメスだけど、モモンガだから落ちないぞ。手練手管には騙されないぞ。
いや、一緒に居て楽しいは、男性も言われたら嬉しいか。穿つな見方をしてしまった。すまん。
「リリは時々、私を冷めた瞳で見るけど、どうしてだい? 変なことを言ったかい?」
「フェレルさんが悪い訳じゃないので、気にしないでください」
【女好き】というワードが、頭にチラついてしまう私が悪いだけなんで。
「それより、今は何の話をされてたんですか?」
ロントさんが、困ったようにフェレルさんを見た。フェレルさんにおうかがいを立てないといけない話題なのか、私に聞かせるのは憚られるのか。
もし後者なら気にする必要ないよ。私、可愛いモモンガですが30歳ですから。ここで誰よりも年上ですから、問題がある話題なんてないはずなんですよ。
「副ギルマスが毎日のように、私の睡眠を妨害してきたって話だよ」
毎日!? ガッツすごすぎない?
いや、受け入れた日があったから、今夜もって感じで通った可能性もある。
私は、あの女反対だぞ。ルカくんをコブ扱いしたからな。もし連れて来たら爪で引っ掻いてやる。
「リリ、何を怒っているんだい? もしかして、私の不快な気持ちを代弁してくれているのかい? リリがルカラウカじゃなくて、私を気遣ってくれているのかい?」
ハッ。無意識にギコギコ鳴いちゃってた。やだ、恥ずかしい。
って、フェレルさんにめっちゃ期待された瞳で見られているんだけど……えー、どうしよっかなぁ。
仕方ない。1週間頑張ってきたんだもんね。労ってあげよう。
「私はルカくんを1番に考えていますが、フェレルさんのことも大切な主人と思っていますよ。気遣わない訳ないじゃないですか」
「じゃあ、私にも匂いを嗅がせてくれるかい?」
あっぶな。あの人、許可取る前に私を掴もうとしたよ。それはルカくんの特権なんだから、匂いを嗅がせる訳ないでしょ。
「……リリは嘘吐きだね。逃げなくていいじゃないか」
「私は嗅いでいいなんて言ってませんよ」
突然、ロントさんが大声で笑い出した。もちろん私は驚いて、耳と尻尾ピーンだ。
「リリ、すみません。またルカラウカくんに怒られちゃうな」
「いえ、大丈夫ですよ。脈略なく笑われたことに驚いただけですから」
「2人のやり取りが面白くて笑ったんですよ。それに、フェレルさんは追いかけられるより追いかけたいタイプなんだと分かりましてね」
は、はぁ。私は全然分かんないわ。
「ロントくん、正解だよ。たぶんそうだね。私は今まで自分から追いかけることはなく、求められたら応えてきただけなんだよ。だからか、淡白だってよく怒られていたんだ。でも、リリだけは相手をしてほしくて仕方なくなるんだよね。ルカラウカにするみたいに擦り寄ってほしいと思ってしまうんだよ」
え? ロントさんが言っているのは恋愛に対してで、フェレルさんのそれは私に対してだから絶対に違うよ。「ペットを飼ったら結婚が遠のく」って言葉の裏付けみたいなこと言ったんだよ。
ペットに夢中になるのはいいけど、人付き合いは止めちゃダメだよ。ペットも大事だけど、友人も大切だからね。
「それで今はリリに夢中だから、副ギルマスが何回誘っても応えなかったんですね。胸が好きだって言われたのに、少しも靡かれなかった理由が分かりました」
「それは違うよ。私は、お尻派じゃなくて胸派ってだけだよ。大きくても小さくても大好きだからね。副ギルド長は、ただ単に好みじゃないってことだよ」
「胸ですか。俺は太ももが好きなので、あまり胸に注目したことがないんですよね」
「いいね、太もも。私も胸の次に好きだよ」
お、おう。図らずも2人のフェチを知ってしまったぜ。
私も手フェチだからね。2人の気持ちは分かるよ。
フェレルさんがね、顔に似合わずゴツい手をしてるんだよ。好きだよ、そういう手。合格だ。
ロントさんはスラっとしているんだよね。まだどこか子供っぽい。いいね、その手も花丸をあげよう。
もう審査できる手はないからね、これくらいにして、際どい話になりそうな2人を止めようかな。メスの前でしていい話じゃないからね。
「ストップです! これ以上は後からお願いします。ちょっと脱線しすぎです」
「そうだね。悪かったね」
「すみません。つい……」
「いえいえ、まだ許容範囲内でしたから大丈夫ですよ。それで、一応確かめておきたいんですけど、フェレルさんと副ギルド長さんは『何もない』でよろしいですか?」
「無断でキスはされたけれど、何もないよ。『二度としないでください』とも言っているからね」
「それでも毎日襲われそうだったってことですか?」
「そうだよ。だから、他の冒険者より寝不足なんだよね。リリ、今日は一緒に寝てくれるかい?」
「すみません。私はルカくんと寝ますので」
ロントさん、吹き出すのを我慢したな。「ぶふぉ」ってなっていた上に、肩が揺れているぞ。もう驚かないから、我慢せず笑ったらいいよ。
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