38.ビアナちゃんの恋
モモンガ会議を眺めながらお腹を満たしたフェレルさんが、「ロントくんが来るまで寝ているよ」と自室に向かった。そして、どうやら2階でビアナちゃんと遭遇したらしく、上階から挨拶しているだろう声が聞こえている。
そろそろルカくん達を起こさなきゃな。お昼寝しすぎると夜に眠れなくなるからね。
って、ビアナちゃん。フェレルさん「寝る」って言っていたから、ドタバタと降りてきちゃダメだよ。さっきまで慎重だったのに、どうしたっていうの?
「リリ! リリ!」
「どうされました?」
「フェレルさんが男前すぎて、好きになっちゃた! どうしよう!」
なぁーにぃー!?
確かにフェレルさんはカッコいいと思うけど、ビアナちゃんとの歳の差よ!
い、いや、好きになるのはいいのか? ほら、「近所のお兄さんが優しくて好き」や「保育園の先生と結婚する」っていう、淡い初恋みたいな感覚。大人になったら懐かしめる思い出。
それに、ビアナちゃんには悪いけど、さすがにフェレルさんは子供の恋ってことで上手くかわすだろうし…………
お兄さんムーブしかしないよね? いくら女好きでも、子供に手を出さないよね? そこは信じるよ。幻滅させないでね。
「ねぇ、どうしよう。あんな大人、初めて見た。私にも丁寧に挨拶してくれたの。『無事でよかったね』って頭を撫でられたの。ドキドキしたの」
初めて会う子の頭を撫でるって、どうなんだろうなぁ。子供も動物感覚なのかなぁ。
でもなぁ、世の中狂ってる奴はいるからな。下心あるなら天誅対象だからね。
まぁ、「女好き」であって「女の子好き」じゃないからね。フェレルさん、信じるからね。子供に手は出さないでね。
「彼女! 彼女いるのかな? リリ、知ってる?」
「すみません。知りません。ただまだそんな素振りを見たことはありませんので、今はいないのかもしれません」
「本当!? 私、頑張ってもいいかな? あー、ドキドキするー」
恋している女の子って可愛いよね。応援してあげたい。真っ直ぐなビアナちゃんのこと好きだしね。
でも、ごめん。さすがに年齢が……100歳と86歳とかなら応援した。同じ歳の差だとしても、好きにしなよってお祝いした。でも、今はまだ若過ぎるんだよ。熟してないんだよ。あおい果実は摘み取っちゃダメなんだよ。
「まずは、彼女がいるかどうか、彼女が欲しいかどうかも聞かれたらどうでしょうか?」
「そうだよね。情報収集しなくちゃだよね。頑張る」
めっちゃヤル気なんだけどさ。この世界、20歳差くらいまでなら普通とかじゃないよね? さすがにないよね?
ヤバい……不安しかないんだけど……
跼天蹐地の如く、私が震えながらも起きてきたルカくん達と遊び、ビアナちゃんの恋話に付き合っていると、疲れ切ったロントさんが帰ってきた。
「ロントさん、おかえりなさい」
「……ただいま戻りました」
お疲れだ。屍のようだ。魂抜けないように気を付けてね。
「すぐ夕食ですので、ロントさん達も食べていってくださいね」
「ありがとうございます。それで、その、フェレルさんは?」
「そろそろピンクさんが起こされると思いますよ。フェレルさんも、みんな揃ってのご飯が好きですから」
「そりゃぐっすり眠ってますよね。本当にもう大変どころの話じゃなかったですもんね」
ん? 帰り際にハゲが絡んだことを言っているのかな?
大丈夫だよ。あの人、つるつるてんで爆笑してたから、ダル絡みはへっちゃらだったんじゃないかな。たぶんそれなりに場数踏んできているっぽいから。小者のハゲのことなんか気にもしてないと思うよ。
「あ、師匠。おはよう。おかえりなさい」
タイミングよく、フェレルさんがダイニングに顔を出した。肩にはピンクさんがいるし、まだ眠たそうな表情をしているので、起きてすぐにやって来たのだろう。
「ただいま、ルカラウカ。色々大変だったみたいだね。だけれど、全部ルカラウカが頑張ったから、無事に終えられたって聞いているよ。よく頑張ったね。自慢の生徒だよ」
「へへ。リリが協力してくれたの」
「そうか。ルカラウカとリリの仲が良くて、私も嬉しいよ」
ビアナちゃん、小声でも「あーカッコいい。無理。しんどい。好き」って、きっとみんなに聞こえているよ。ロントさんの顔見てみなよ。青い顔が更に青くなっちゃったじゃん。フェレルさんは聞こえないふりしているね。そんな気がする。
ってことは、戦々恐々しなくていい感じ? まぁ、後で確かめておこう。
今は私も知らないふりをして、フェレルさんに軽くハグされて、口元を緩めている可愛いルカくんの顔に癒されよう。ビアナちゃんを不思議そうに見てるパニカくんも可愛いな。平然としているレンジャーのみんなも可愛いな。イコール、今日も可愛いが部屋を満たしていて幸せだな。
ビアナちゃんがフェレルさんに「彼女いますか?」・「どんな女性が好みですか?」・「好きな食べ物なんですか?」という怒涛の質問攻めをした夕食は、普通に賑やかで楽しかった。
なお、フェレルさんの回答は以下である。「今はいないね」・「リリみたいな性格の人かな」・「イエローさんが作ってくれたもの全部だね」。
おい、こら。幼気なモモンガを巻き込むでない。私みたいなって、なんぞや? 私の心の声、聞こえてないだろ。むちゃくちゃ荒ぶる時あるんだぞ。
イエローさんに関しては、喜んでいるからそれでいい。よく言った。褒めてあげよう。
と、まぁ、盛り上がると夕食の時間は長引くもので、ロントさん達は今日も泊まることになった。
ロントさんの相談にどれだけ時間がかかるか分からないから、子供達が寝静まってからお酒を飲みながら話すそうだ。イエローさんにおつまみをお願いしていた。
ロントさん達の名誉のために言っておくと、ロントさん達の下着や洋服は、ピンクさんの魔法で一瞬で綺麗にしてもらっている。
「あれ? 洗濯乾燥機使っていなかった?」と思って尋ねたら、そっちの方が家事をしている感があって好きなだけだそうだ。
実は掃除も、魔法を使えばあっという間に終わるらしい。でも、やっている感がないので、瞬時に終わる魔法は極力使わないとのこと。
家事が大好きすぎる故に高性能魔法を封印するなんて、ピンクさんはマジで只者じゃない。
フェレルさんとロントさんの飲み会には、私もルカくんが眠ったら参加しようと思っている。念の為、この世界の恋愛事情を聞いておきたい。これはググ先生に内緒で教えてもらえないことである。だって、【恋愛事情】で検索したら、小説がヒットしそうだもんね。私が知りたいのは現実のお話なんだ。
リアクション・ブックマーク登録・読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。




