37.チートじゃないの?
「イエローさん、ありがとうね。イエローさんのお弁当のおかげで、野宿でも頑張れたよ」
『よかったである』
イエローさんの頭を撫でてから食事を始めたフェレルさんに、イエローさんが喜んでいることを伝える。フェレルさんは、もう一度イエローさんを撫でていた。
「フェレルさん。疲れているところ申し訳ないんですが、話しておきたいことがあるんです」
「この後、眠らせてもらうから大丈夫だよ。何かあったのかい?」
「それがですね、ハゲがというか、あ、違いますね。つるつるてんのせいで……あ、失礼しました。ギルド長がですね」
お腹を抱えて笑うフェレルさんに、私はこの1週間のことを伝えた。しつこく家に来たこと、家の中に入ろうと五月蝿かったこと、ロントさん達のこと、誘拐犯達を捕まえたことを。
「やっぱりレンジャー達だったんだね」
「と言いますと?」
「帰ろうとした時に、つるつるてんに捕まったんだよ」
つるつるてんをお気に召してくださったようで。言いながら笑っちゃってるよ。
「昨日捕まえた奴らが消えたらしくてね。その話をこの家でしたいってね。盗聴器等の心配をしていたけれど、誰かを匿っていないのか調べたかったのかな……まぁ、盗聴や盗撮の線も捨てきれないね」
うんうん。私もこの世界、魔法があるし、乗り物が空を飛んでいるから、色々と発達していて簡単に何か仕掛けられるんじゃないかって、だから入りたいんじゃないかって思っていたんだよね。
フェレルさんも同じ考えなら、あいつら肩書きを盾に本当にするかもしれないな。絶対に入れてやんないぞ。
「って、消えた? 消えたんですか?」
「みたいだよ。今回は『殺された』じゃなくて『消えた』らしいよ」
「魔法ですか?」
フェレルさんに問いかけたのだが、答えてくれたのはブルーさんだった。
『できぬことはないが、あの人数となると莫大な魔力が必要じゃぞ』
『そうね。人間にできるとは思えないわね』
人間以外が犯人ってこと? 獣人? 亜人? あ、魔族もいるんだっけ?
「リリ、どうしたんだい?」
「ブルーさんとグリーンさんが、魔法はあるけど人間にできると思えないと仰られまして」
「なるほど。もしかしたら、その者が子供達の運び役だったのかもね」
「怖いですね。逃げたってことは、また連続誘拐が起こるってことですもんね」
「起こるかもね。誘拐は日常茶飯事の事件だからね」
「どういうことですか? 誘拐ですよ?」
「さすがにこの街ほどじゃないけれど、どの国でも行方不明者がいるんだよ」
「それって対策は難しいんでしょうか?」
「去年、一昨年だったかな。警ら隊が強化されたんだよ。そこから数は減ったらしいよ」
「そうなんですね。辛い思いをする人が少なくなったのはよかったです」
どういう理由があって誘拐をするのかは知らないけど、絶対に許せることじゃない。
本当に早く警ら隊の人達が捕まえてくれたらいいのにと思うけど、難しいのかなぁ。今回もあんなに拠点があったのに捕まえられていなかったんだもんね。
今回捕まえられたのはレンジャーのみんなのおかげだから、お願いをして誘拐犯達を一掃してもらうとか。
大切な人がいなくなる悲しみなんて無い方がいいんだから、13匹呼び出せば可能だよね。
『俺もそうしたいけど……無理だ』
『そうじゃな。悔しいが、無理なものは無理じゃな』
『え!? レンジャーの皆さんの力を上回る悪がいるって言うんですか!?』
私、勝手に「レンジャー魔法ってチートじゃん。マジでヒーローじゃん」って思ってたんだけど。
考えを改めなくちゃね。レンジャーのみんなにも危ないことはさせられないわ。
『そうじゃないあるよ』
『私達には死というものもないもの』
『私達はリリさんの魔法だからね。リリさんから離れられる距離が決まっているのよ』
なななんですとー!? そんな制約があったの? 初耳だよ!
ちなみに、どれくらいの距離まで、皆さんは自由に動けるんでしょうか?
『国1つっていうのは無理ね』
『この街と周りの街くらいなら問題あらぬよ』
『そんな感じあるね』
『隣街の悪い奴も倒せたからな』
え? レッドさん、それはいつの夜のことですか?
『あら、この街に集中させなかったのね。偉いわよ、レッド』
『そうだろ。俺はきちんと考えているんだ』
胸を張っている姿が可愛らしいので、もう動ける範囲で好きにしてください。今まで通り、私への報告も一切いりません。
レンジャー魔法の新事実が発覚したところで、誘拐犯の一掃は難しいと分かった。
となると、旅の途中で、手の届く範囲・目が届く範囲で悪人がのさばっていたら、懲らしめてやる形になるのね。
なんだか御老公様みたいだな。お祖母ちゃんがよく見てたから、私ももちろん知っているよ。カッコいいよね、印籠をババンってするところ。
そうだなぁ、「このマントが目に入らぬか」って、やってみるのも有りなのかもな。絶対可愛いよ。
レンジャー全員から『ない!』と拒否されたので、マントの『桃』を使う機会は永久に無くなりましたとさ。みんな曰く、自分達には素晴らしいポーズがあるからだそうです。
そうだね。あのポーズ、カッコ可愛いよ。
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