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モモンガ・リリの変なレンジャー魔法  作者: HILLA
サンリカ国 ウスリー・コモウェルの街
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31.ルカくんの自己紹介

イエローさんが淹れてくれた水を飲みながら、リバーシ観戦をしていると、グリーンさんが静かに『チッチ(帰ったわよ)』と教えてくれた。まだ居たのかと、呆れた息を吐いてしまう。


フェレルさんが帰ってきたら、私も話し合いをしなくては。これからは、1週間の不在は許さん。最高で3日だ。無理ならイエローさんのご飯はない。掴んでいるだろう胃袋から脅迫してやる。


1戦目はルカくんが、2戦目はロントさんが勝ち、お互いに一勝一敗で迎えた3戦目の途中で、2階から「ぎゃー! モモンガが浮いてるー!」「兄ちゃん! どこー!」という声が聞こえてきた。2人を見守ってくれていたピンクさんに驚いてしまったようだ。


「ビアナは幽霊の類が苦手でして」と苦笑いしたロントさんと入れ代わりで、ピンクさんが困り顔で戻ってきた。


『怖がらせてしまったわ』


『大丈夫ですよ、ピンクさん。説明をしたら好きになってもらえますから』


『そうだといいのだけれど』


大丈夫、大丈夫。自分達を助けてくれたヒーローを、嫌う子供はいないよ。


それに、レンジャーのみんなは最高に可愛いんだから。モモンガを受け付けない人なんていないでしょ。


そう私が予想した通り、ロントさんと一緒に現れたビアナちゃんとパニカくんは、私達を見て瞳を輝かせた。


「わー! 兄ちゃん! 本当にモモンガがいっぱいいる!」


「あたし達を助けてくれたって本当? こんなに小さいのに、どうやって戦ったの?」


「待て待て待て。落ちつけ。先に自己紹介だ」


ロントさんが、前のめりで私達を見てくるビアナちゃんとパニカくんの肩を、後ろに引っ張った。2人は恥ずかしそうにハニかみながら、真っ直ぐ背筋を伸ばしている。


「ビアナといいます。12歳です。将来は冒険者になりたいと思っています」


うんうん、しっかりしている子って印象だわ。目標があるって素敵。だけど、ロントさんは苦笑いってことは、冒険者になってほしくないんだろうな。


まぁ、まだ12歳だしね。これから変わることも大いにある。それに職業に関しては、きちんと話し合って決めたらいいよ。お兄さんが現役の冒険者だから、損得勘定なしでリアルを話せるんだからさ。


「はい! パニカです! 5歳です! 好きな食べ物はルトゥトです!」


元気いっぱいで可愛いです! 合格です!


ルカくんがそわそわしていることに気付き、どうしたんだろと窺っていると、「あ、その、あの」と珍しく言葉を詰まらせている。


「ルカくん、どうしましたか? 大丈夫ですか?」


「モモンガが喋ってる!」


「兄ちゃん、喋った! 喋ったよ!」


喋るよー。すごいだろー。でも、レンジャーの皆さんの方が私より凄いんだぞー。


って、元気な2人はロントさんに任せて、私はルカくんに心を配らないとね。


「ルカくん?」


「リリ。僕、自己紹介できるかな」


「できますよ。私と会った時、できてましたよ」


「でも僕、なりたいものも、好きな食べ物も分からない……」


ルカくん、そんなことで落ち込まなくていいんだよ。名前だけでも十分なんだよ。


「分かりました。では、私が先に自己紹介をしますね。こんな自己紹介もあるんだって、参考にしてください」


必死に頷くルカくんに微笑んでから、ビアナちゃんとパニカくんに向かって右手を上げた。


「私、モモンガのリリです。好きな人は飼い主のルカくんです。これからよろしくお願いします」


「喋ってる! 動いている!」


「すごいね!」


「そして、私の大切な仲間で、ビアナちゃんとパニカくんを助け出し、悪を倒してくれたレンジャーの皆様です」


「ポーズとってる!」


「かっこいい!」


「レンジャーの皆さんは話せませんけど、ビアナちゃんやパニカくんの話されていることは理解されていますので、どんどん話しかけられて大丈夫ですよ。通訳が必要なら、私に言ってくださいね」


レッドさん、カッコいいって言われて立ち直ったね。ピンクさんにも笑顔が戻ったしね。よかった、よかった。


「ルカくん。次、どうぞです」


「うん。もう大丈夫」


可愛い笑顔が戻ったね。ルカくんはその笑顔と名前を言うだけで、みんなルカくんの虜になるから大丈夫だよ。頑張って。


「僕、ルカラウカです。7歳です。好きな動物はモモンガで、リリとレンジャーのみんなです。よろしくお願いします」


ルカくん、100点満点中120点だよ! 最アンド高だよ! 優勝だよ!


「兄さんが言っていた子だよね? ってことは、あたし達、ルカラウカくんの家に辿り着けてたんだ」


ん? ビアナちゃん、今とろけるところだよ。ルカくんの笑顔に、ハートをぶち抜かれるところだよ。ほら、反応が違うって、ロントさんもため息吐いてるよ。


「やっぱりな。ここを目指してたのか」


そっちのため息かーい!


「うん、一緒にお留守番した方がいいと思ったの。パニカも遊びたいって言ったし」


「その気持ちは大切だけどな。子供2人で歩ける街じゃないって、何度も説明しただろ。それにビアナとパニカは、ブルーさんとグリーンさんが運んできてくれたんだ。ほら、まだお礼言ってないだろ。きちんと言うように」


ロントさんが「パニカも一緒に」と、パニカくんの背中を触った。


ロントさん、お兄さんだなぁ。お手本にならなきゃって、本当に頑張ってそうだよね。必死に踏ん張って、誰にも相談できない状況が続いていたのかも。それが家で愚痴ちゃったという結果になったのかもな。


って、いやいやいや、問題はあのハゲだ。あいつが必要以上に、私達に執着したせいだ。


フェレルさんが帰ってきたら相談ついでに、いっぱい吐き出したらいいよ。飲んだくれたらいいよ。


ビアナちゃんは、挨拶をした時と同じように背筋を伸ばしてから、頭を深く下げてきた。パニカくんは、ビアナちゃんを見て慌ててお辞儀をしている。


「助けてくれて、ありがとうございました」


「ありがとうございました」


2人は顔を上げ、ビアナちゃんが瞳をうるうるさせながら言葉を続けた。


「もう本当にすっごく怖かったので、助け出してもらえて嬉しいです。殺されなくてよかったし、兄さんにまた会えたし、本当によかった。ありがとうございます」


「ありがとうございます!」


攫われた時のことを思い出しちゃったんだね。まだまだ泣いていいんだよ。


「あたし達を攫った人達が急に倒れた時は、何が起こっているのか分からなくてパニックになって、あたし五月蝿かったと思う。それでも、ここまで運んでくれて、ありがとうございます」


「ありがとうございます!」


気持ちをしっかりと伝えようとしてくれているビアナちゃんも可愛いし、お礼を言わないといけないって分かっているパニカくんも愛らしいよ。2人の感謝は、ちゃんとレンジャーに届いているよ。


だって、見てよ。レンジャー達の微笑みを。可愛いが渋滞中だよ。


「俺からも、改めてお礼を言わせてください。ビアナとパニカを救っていただき、ありがとうございました」


「「ありがとうございました!」」


ロントさん達3人に深く腰を折られる。


「もう十分です。私達も助けられてよかったと胸がいっぱいです。ですので、今からは救出できたお祝いをしましょう。夕食のいい時間になりましたからね。みんなでご飯をいただきましょう」


『用意するである!』


レンジャーのみんなは背中側に居るから見えないけど、ウッキウキでイエローさんがキッチンに行ったと思われる。しかも、めちゃくちゃ素早く。


「ダイニングに移動しましょう」


ルカくんが腕を差し出してきてくれたので、ルカくんの腕を伝い、肩に乗った。もう何回も繰り返しているので慣れたものである。


「いいなぁ」


パニカくんの呟きが聞こえてしまった……うーん、相手が大人なら無視をするけど、パニカくんは5歳。笑っていてほしい。


でも、ここで私がパニカくんの肩に移動すると、ルカくんが寂しがってしまう。フェレルさんが居ない環境で、それはできない。


だから、ルカくんがお風呂の時間だけ、パニカくんの肩に乗ろうかな。


「乗ってくれるの? やった」


ん? レッドさんがパニカくんの肩に乗ってくれたのね。


ありがとう、レッドさん。レッドさんのおかげで、私はルカくんファーストを貫けます。






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