30.ジコジコ、ジージー
ピンクさんが『プククク(早くお部屋を用意するわね。ベッドで寝かせてあげなくちゃね)』と消え、ブルーさんが『クククク(我が運んでやろうぞ)』とピンクさんの後を追い、グリーンさんが無言でルカくんからレッドさんを引き剥がし、イエローさんは冷蔵庫の前で何やら考え事をしている。
「中見えてないのに、そこで考える理由は?」と、私が目を光らせた時に大声が響いてきた。
「坊主ー! いるかー! いるよなー! 坊主ー!」
あのハゲ、私の爪で頭にハゲという文字の傷を作ってやろうか! 近所迷惑だろが!
大きなため息が聞こえて見ると、ロントさんが表情を消して玄関に向かおうとしていた。ハゲの叫び声は、まだ続いている。
「ロントさん、待ってください」
「いえ、アレを止めてきます」
「ダメです、ダメ。ロントさんが門の中に居ることが分かったら、自分も入れろって五月蝿くなりますから。心苦しいですが、ルカくんに対応をお願いしましょう」
「はぁぁぁ。もう、マジで子供相手に常識なさすぎる」
「気持ちは、ものすっごく理解できます。ですが、耐えてください」
顔を歪ませながら肩を落としているロントさんには椅子に座ってもらい、私はルカくんに体を向けた。
「ルカくん、毎回ルカくんに任せっきりですみません」
「ううん、大丈夫だよ。僕、できるよ」
ううっ、心が痛いよ。変身の術がないか今度ブルーさんに——『あらぬ』——念話できるからって、今ばっさり切らないでください。心から血が出たよ。
「では、ルカくん。少し出ていくのが遅くなってしまったので、2階で本を読んでいたことにしましょう」
「分かった」
「ギルド長さんは、誘拐犯のことを聞きに来たんだと思いますので、知らないフリをしてください。それと、まだ煙が上がっていて言えそうだったら、『あれ? 火事? 火事があったの?』って言ってみてください」
「頑張るね」
「頑張りすぎないでくださいね。全部『家から出ていない』『知らない』でいいですからね」
「うん、行ってくるね」
「私も行きますよ。ルカくんの肩から睨みを効かせておきます」
「リリが一緒だと、もっと頑張れるね」
ううっ、こんなに小さな子に頑張らせないといけないなんて……泣いちゃいそうだよ。
「さっさと帰ってもらって、夕食まで遊びましょう」
笑顔で頷いたルカくんの肩に乗り、ハゲと対面しに外に出る。すぐに「バイバイ」できるようにドアは半開き状態だ。
「お! 坊主! いたな! 遅かったが、何をしてたんだ?」
こいつ、マジで呪ってやろうか? 腹下し1週間とかなら問題ない気がする。
「2階でご本を読んでたの。今日はどうしたの?」
「いや、そのな、街で——
「あ! ギルド長さん! 火事だよ、火事! あれ、そうでしょ? 大丈夫かな? 違うのかな?」
いいよ、いいよ。ルカくん。ハゲの言葉全部に被せていこう。私も常に『ジコジコ、ジージー』と被せておくからね。
「ああ、あれは火事じゃねぇからいいんだ」
「そうなの?」
「ああ、坊主。今日は家から出ていないのか?」
「うん、出てないよ。師匠と約束しているから」
「そうか。この後、誰か帰ってくるとかあるか?」
「師匠は明日帰ってくるよ」
「いや、そうじゃなくて、他に誰かいないのか?」
「いないよ」
だー! さっさと帰れ! どうせまた警ら隊から応援きてるだろ! 手伝いに行ってやれ!
「坊主、実はな、誘拐犯達を一斉に倒した奴がいるんだ。そいつが見当たらなくてだな。家を調べてもいいか?」
「どうして?」
「この家にいるかもだろ?」
「僕、師匠との約束守っているから、誰もいないよ」
「じゃあ、調べてもいいよな?」
「ダメだよ、ダメ。誰も入れたらダメなんだから」
マジでもう相手しなくていいわ。グリーンさんにハゲの周りに結界作ってもらって、声が漏れないようにしてもらおう。叫び疲れて帰ればいいわ。ハゲがよ!
もういいよの意味を込めて、ルカくんの頬に頬擦りした。擽ったそうに笑ったルカくんが、背中を撫でてくる。
「ギルド長さん、じゃあね」
「待て! 中に入れろ!」
ルカくんが足を止めようとしたので、もう一度頬擦りをして、家の中に入るよう促した。
後ろから聞こえていた声が、ピタッと止まる。きっとグリーンさんが私の意を汲んでくれたんだろう。
ありがとう、グリーンさん。さすがです。
中に入ると、ロントさんがテーブルにうつ伏せて項垂れていた。アレが上司なんだから、こうなりたくなるだろう。分かるよ、分かる。ギルド長に転勤があるのかどうか知らないけど、あるのなら、さっさとどっかと代わってくれって願うよね。
「帰ったのかな?」
「どうでしょうね。もう放っておきましょう。ルカくんはきちんと答えられていましたから、ギルド長さんのことを気にしなくていいですよ。今日もカッコよかったですよ」
「いつもよりドキドキしちゃったから、できてたならよかった」
だよね。ごめんね。本当、私が対応できればいいんだけどさ。それに、やっぱり1週間フェレルさんが居ないのはキツいわ。大人の存在って大切だよ。
「あー、フェレルさんって、明日帰ってくるんですよね」
ふらっと起き上がったロントさんだが、文字通りまだ頭を抱えている状態なので顔は見えない。雰囲気は、闇落ちしていてもおかしくないほど暗い。
「そうですね。延長なく、帰ってきてほしいと思っています」
深いため息だなぁ。無事にビアナちゃんとパニカくんが見つかったのに、この世の終わりに直面して諦めた人みたいだよ。
「ロントさん。ビアナちゃんとパニカくんが起きるまで、ルカくんとリバーシ対決しませんか? ルカくん、めちゃくちゃ強いんですよ」
その黒い雰囲気はルカくんによろしくないからね。気分転換しよ。違うこと考えてみよ。
「うん、ロントさん、しよ。僕、リリに勝つんだよ」
というか、私だけがルカくんにというか、私は誰とやっても負けるんだよね。弱すぎて、レンジャーのみんなに可哀想な瞳で見られながら、ヒソヒソ話されたくらいだよ。
「そうですね。全部フェレルさんが帰ってきたら相談します」
そうしておくれ。私もこの世界のことは、よく分からないからね。
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