26.怖いレンジャーは誰?
「まずは自己紹介をしますね。私はモモンガのリリです。そして、大好きな人間のルカラウカくん。私の大切な仲間の、右からイエローさん・ブルーさん・レッドさん・グリーンさん・ピンクさんです」
「は、はぁ、俺はロントです」
「色々疑問はあると思いますが、今は時間との勝負かもしれませんので、私達に関しての質疑応答は省きますね。それで、ロントさんの妹さんと弟さんですが、いつからいらっしゃらないのですか?」
やっと思考が戻ってきただろうロントさんが、ガバッと体を近付けてきた。
「ビアナとパニカ! 見付けてくれるんですよね!?」
「も、もちろんです。レンジャーの皆さんはヒーローですから、必ず子供を助けてくださいます」
ロントさんが勢いよくレンジャーを見ると、5匹は「見参」のポーズを取っていた。ルカくんも初めて見たようで、「わー、カッコいい」と拍手をしている。
「ですので、妹さんと弟さんの情報が欲しいんです」
怖いくらい真剣な顔になったロントさんは、姿勢を正して真っ直ぐに見つめてきた。
「分かりました。2人は朝は家にいました。俺はお昼ご飯を家で取れる時は、様子見を兼ねて家に帰るんです。それで、今日も帰ったんですが、家には2人の姿がなくて。でも、俺の分のご飯の用意はしてあったんです。だから、おかしいなと思って。2人には外は危険だから、家の前以外では遊ばないように言い聞かせていて。弟はまだ5歳なんですけど、妹は12歳だから弟の面倒を見てくれていて、勝手にどこかに行くような子達では……」
ふむふむ。ロントさんのご飯だけきちんと用意されていたってことは、妹さんと弟さんは自ら出かけたってことか。もし家の中で連れ去られたとかなら、自分達のご飯の用意もあったか、ロントさんのご飯もなかっただろうからね。
「どうして、ここにいるかもって思われたんですか?」
「俺が悪いんです。昨日あまりにイライラして、ギルマスの愚痴を溢してしまって……それで、2人は1人で留守番をしている子供に興味を持ってしまって……一緒に遊べたらいいのにって……」
そうか、そうか。これ、もう完全にあのハゲが悪いわ。
色々合わさってだけど、私はあいつが生理的に無理だから、そういうことにしておこう。私がモモンガ研修生のせいじゃない。決してない。でも、胸が痛い。
「ここに来られる道の途中で、怪しく思う場所は無かったんですよね?」
「たぶん……必死に走っていたので、はっきりとは……途中でスクモートで向かえばって思ったくらいで」
ロントさんの悲痛な声に、視線を落としてしまいそうになる。
でも、私まで落ち込んだら、本当に見つからないんじゃって空気になっちゃうからね。私は「大丈夫」って意味を込めて、笑顔を見せるよ。
「分かりました。手掛かりは無いということで、ここはもうこの街の悪い人をしらみ潰しに当たりたいと思います」
普通に迷子かもしれないけど、もしも誘拐だった場合を考えて、先に潰してしまえばいいんだよ。事故とかは怖いけど、そっちの方が子供達の安全を守れるような気がするからね。
「え? どうやってですか?」
「もちろんレンジャーの皆さんの力を借りてです」
うんうん、ロントさん。私が胸を自信満々に叩いても笑わないね。それだけで合格だよ。お腹を抱えて笑ったフェレルさんより、仲良くなれる見込みあるよ。
でも、今は親交を深めるより先に、ビアナちゃんとパニカくんを見つけ出さないといけないからね。申し訳ないけど放置して、私はレンジャーの皆さんと簡単な作戦会議をさせてもらうよ。
『唐突ですが、何色の方を何匹お呼びすればよろしいでしょうか?』
そう、私はレンジャーの皆さんを13匹まで呼ぶことができる。色が被っても問題ない。13匹全員呼んでみせようじゃないか。
『そうねぇ。私とレッドは消えるから、追加でブルーとグリーンを5匹ずつでいいんじゃないかしら?』
『いやだ! ブルーばっかりズルい!』
レッドさんが寝転んで、手足をバタバタさせちゃったよ。やだよねぇ。レッドさん、悪党倒したいんだもんねぇ。
『レッド!!!』
ピピピピンクさん? どどどうしたんでしょう? いつものほわわんとしたピンクさんは、どこへ消えたのでしょうか? 怖くて体が固まってしまったんですが……
あ、私だけじゃない。レンジャーのみんな固まっている。
『あなたは、どうしてそう我が儘なの! 夜のパトロールも、3回に2回は譲ってもらっているでしょ!』
『で、でも、それはブルーとじゃんけんして……』
え? そうなの? そんな可愛い決め方してたの?
『でもじゃありません! じゃんけんも、わざとブルーが負けてくれているのよ! 分かっているでしょ!』
ブルーさん、大人だね。
『だ、だけど……』
『だけどもありません! 今回は日中隠れて動くのだから、ブルーの魔法が有効なのよ! グリーンはもしものために必要なの! それくらい分かるでしょ! 頬を膨らませて拗ねてもダメよ!』
『いやだー』
蹲って泣いちゃった……どうしよっかなぁ。
ん? グリーンさん、横に来られるとはどうされました?
『リリ、ピンクの言うことは絶対よ。とばっちりを受けたくなかったら、ピンクの言う通りにするの』
え? もしかして、レンジャーの中で1番怖いのって……
グリーンさんと、グリーンさんの向こう側に見えているイエローさんとブルーさん、3匹にしっかりと頷かれる。
そうですか。レッドさん、ごめんなさい。お力になれないようです。
『リリの裏切り者ー』
『こら、レッド! いい加減にしなさい! 消えるわよ!』
『いやだー』
レッドさんのマントを掴んだピンクさんは、笑顔で手を振って消えた。あの笑顔が怖いと思ったのは初めてだ。
というか、消えた後って、皆さん同じ場所に居たりするんでしょうか? お説教続いてそうだな。
「リリ? レッドさんとピンクさんは、どこに行ったの?」
ハッ! 急がないといけないのに、恐怖に慄いちゃっててごめんなさい。ルカくん、声をかけてくれてありがとう。
「お二方は少し休憩されるだけです。ですが、代わりにブルーさんとグリーンさんに来てもらいますので大丈夫ですよ」
うん、ごめん。そこに居るよってなるよね。実際に見た方が早いと思うから、説明は省くね。
『リリ。悪いんだけど、イエローを帰してゴールドを呼んでくれるかしら』
『かまいませんけど、何が悪いんですか?』
『イエローがいないと給仕できないでしょ』
『少しの間くらい大丈夫ですよ』
イエローさんは『また後である』って素直に消えた。駄々をこねるのはレッドさんだけということだ。
『モモン・ガー、ゴールド、ブルーの皆様、グリーンの皆様、お願いします!』
手を上げて気合いを入れて呼ぶと、静かに11匹のモモン・ガーが姿を見せた。ルカくんの感嘆している声と、ロントさんの引き攣った息が聞こえている。
『ゴールド、空から色が黒い所を教えてくれるかしら』
『承った』
輪になり、突き出した右手を同時に上に挙げた13匹は、彗星のように窓から飛んでいく。ロントさんが慌てて窓に駆け寄り、外を見ているが、1匹としてもう見えないだろう。
レンジャーたちは個性豊かで可愛すぎますね(〃ω〃)
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