23.ググ先生の評価が低い
「リリ。ギルド長さんが、リリを見たいって」
戻ってきたルカくんが、小声で教えてくれる。
「分かりました。私は眠ったままでいますので、チラッとだけ見せてあげてください。私が可愛すぎて触りたいとかぬか……んんっ……言い出すと思いますが、断ってくださって大丈夫ですからね。私を撫でられるのは、ルカくんとフェレルさんだけですから」
「ふふふ。リリ、可愛いもんね。みんな、夢中になっちゃうもんね」
可愛いのはルカくんだよー。さっきも朝決めたことを堂々と話せていて、お姉さん感動で泣いてしまいそうだったよ。偉いね、偉い。しつこくて鬱陶しいあいつらなんて、バナナの皮で滑って転けたらいいんだよ。
小さなルカくんの手に納まるように丸まり、目を閉じた。
そおっと歩くルカくんの優しさに心打たれていると、「空気読んで早く帰れや、ハゲが」と思うハゲの……おっと、ギルド長の声が聞こえてきた。
「坊主、わざわざ悪かったな」
「しー。リリ、眠ってるの。しー」
「そ、そうか、声が大きくて悪い。俺、実は動物が好きでな。撫でさせてもらってもいいか?」
「ごめんなさい。リリ、すぐに起きちゃうの。今度起きている時で、師匠が居る時なら大丈夫かも」
「どうしてフェレルが居る時なんだ?」
「リリは警戒心が強いから、慣れている人じゃないと暴れちゃうの。師匠じゃないと止められないの」
おおっと、3分の1だけ本当のことをぶっこんだね。しつこい奴が悪いんだし、ルカくんの嘘を守るためだ。今後はそうしよう。
実際は、フェレルさんで止まる気はないけどね。ルカくんの一声できちんと止めるよ。嫌な奴に撫でられたら、すぐさま逃げるだけだしね。暴れたりしないよ。私、心は大人だもん。
「そうか、残念だ。今度、フェレルが居る時に試させてもらうよ」
本当にしつこいな。一瞬起きたフリして、すぐに寝よう。見よ! 私の迫真の演技を!
半目でゆっくりと起き上がり、ゆらゆらと頭を動かし、そして目閉じながら眠る。
完璧でしょ。
「しーだよ、しー。リリを寝かせてあげるの。じゃあね」
ルカくんが、またのそりのそりと慎重に動き出した。この姿を見て、声を出す大人はいないだろう。いたとしたら、そいつは自分の事しか考えていないパッパラパーだ。
「ぼ——
ん? 何か聞こえかけたな。
「ギルマス。さすがに止めましょう。言いたくないですが、ギルマスが不審者にしか見えません」
この声は赤髪の男性、ロントさんだな。
大変申し訳ないけど、モモンガ探偵リリが、君のことも調べさせてもらったのだよ。または、ググ先生に教えてもらっただけとも言う。
彼は、ググ先生の中でも良い人に入るらしく、子供好きの動物好きなんだと。弟が生まれた直後に冒険者だった両親が2人共この世を去ってしまい、たまたま登録していた冒険者ギルドで安全な仕事をコツコツと頑張り、やっとCランクになったそうだ。とても苦労人の男性らしい。
ググ先生の評価が高かったので、彼にだったら正体がバレても問題なさそうな気がする。そんなミスは犯さないようにするけどね。
ただギルド長さんに関しては、悪い人ではないようだが、ググ先生の評価は低かった。ミジンコ並みの心臓しか持たないヘタレと称されていた。
これを読んだ時の私は、「ミジンコはどの世界にも存在するんだな。それもそうだよね。日本でさえ彼らは3000年の歴史を持つんだから」と、いつ何時でも過小評価される時に用いられてしまう可哀想なミジンコに思いを馳せたのである。
同時に、「ギルド長なのに小心者?」と不思議に思い、読み進めると……
堅実な依頼達成を積み重ね、達成率がほぼ100%という功績からギルド長に就任。事前調査では彼の右に出る者はいないと噂され、危機管理能力も認められている。全部ヘタレだからという理由でしかない。ライティアに一目惚れしたが、勇気がなくて一度も誘ったことがない。即ち、ヘタレ オブ ヘタレ。
そんな風に書かれていた。
そのライティアさんは、さっきフェレルさんに迫ったみたいに話してたな。フェレルさんが断ったって聞こえて、「女好きなのに!?」って仰天しちゃったよ。口を大きく開けすぎて、可愛い歯が丸見えだったかも。恥ずかし。
とまぁ、私の歯の話は置いておいて、彼女の評価も低かった。
なぜなら副ギルド長になる前、彼女は既婚者の男を狙って、幸せな家庭を壊しまくっていたそうだ。体を使って男と関係を持ち、奥さんと友達になってからバラすという手口だったらしい。
そんなことをしていた理由は、顔も体も完璧な自分に相手がいないのに、自分よりも下の人達が結婚して幸せに暮らしていることが許せなかったんだと。
なにそれ、意味分からんすぎて怖い。写真で顔見たけど普通だったよ。同じ悪女なら、リンリンの方がよっぽど整ってたよ。
これまでの所業は、副ギルド長になってこの街に赴任をしてきたおかげで、この街では知られていないみたい。
そして今、ライティアさんは誰もが羨む寿退社を目指しているらしい。だから、フェレルさんを狙ったのかもと思っている。あっさり顔のイケメンで、Aランク冒険者だからね。
なお、ググ先生の評価は、「ゴミクズ以下。生きる資格なし」だった。辛辣なググ先生も怖い。
でも、私も賛成だよ。ルカくんをフェレルさんのコブ扱いしやがって、あのアマ。いてこましたろか。




