22.ロント視点「ギルマスを理解できない」
はぁ。ったく、なんでギルマスは、こんなにもあの2人と1匹を気にするんだ?
後、副ギルマスのライティアさんもか。
違うな。ライティアさんは、フェレルさんが好みど真ん中で落としたいだけなんだよな。「鼻の下を伸ばさない男は貴重なのよ」って力説してたけど、フェレルさんからはクズ臭するけどなぁ。なんか誰とでも寝そうな感じ。そのくせ本気で好きにならない的な。
だから、ずっとライティアさんだけを想っているギルマスとくっつけばいいのに。何がダメなんだろ? ハゲだからか? 違うかぁ。たぶん臆病だからかな。強いのに心配性すぎて、時々鬱陶しくなるもんな。
ん? 子供が戻ってきたな。モモンガは肩に乗ったままと。周りを気にせず家の中に入る。怪しい点は無し。
近くに手頃な木があったから登って見てるけど、ここからだと窓から家の中確認できないなぁ。だから、窓閉められたけど問題無し。
そもそも俺の役割は、子供が外に出歩かないか、モモンガが脱走しないかを監視するだけだからな。楽で有り難い。
本当に何を心配しているんだろうな。普通に賢い綺麗な男の子だったから、最近起こっている誘拐かと思ったけど、違うっぽいんだよなぁ。
それにあの子、俺がフェレルさんを呼びに来た時も姿を見せなかったし、見知ったギルマスが門を開けてほしいって言った時も断った。普通の子供なら誰か訪問したら見に来そうだし、顔を知っている相手なら歓迎しそうなものなのに、あの子供はフェレルさんと約束したからって首を横に振ったんだ。
こんなん誰が来ても開けないだろ。明日はお菓子を持って再チャレンジする意味が、本当に分かんないな。
子供が誰かを匿っていると思ってる? だから、夜通し見張るのか?
それに、「モモンガがな」って口をモゴモゴさせてたけど、ただの動物だろ。
可愛い小動物に威嚇されてさ。さっきは笑いそうだったな。
ギルマスが言うには「正確に俺を威嚇しただろ」ってことらしいけど、普通に動物に嫌われる体質なんじゃ? って思うけどな。
「今日も起きてた」って怖い顔してたけど、ギルマスの大声で起きたって言われてたのは忘れたのかねぇ。夜行性の動物が起きてるのは珍しいけど、森の中だとチラホラいたけどな。
ん? また出てきた。暗くなるまで庭で遊ぶのか。
フェレルさんが居ないのが可哀想に思えてくるな。あの人、断っていたらしいのにな。Aランクってことで参加させられて災難だよな。
そりゃ、街が襲われたら困るのは分かるけど、断っている人間をほぼ無理矢理だったらしいからな。自由参加が当たり前のギルドは、どこにいっちまったんだか。1週間子供を1人にする、親の気持ちを考えてやればいいのに。
まぁ、押し付けたのがライティアさんだって言うから、その1週間でフェレルさんに近付こうとするんだろうけど。これから野営場に行くって言ってたし、今日の夜とか夜這いかけに行ってそう。
胸で寄って来られるの嫌なくせに、胸を使おうとすんだから気持ち悪いよな。本当、小心者のギルマスとくっつくのが1番だろ。
うんうん。あの子供は暗くなる前に、きちんと家の中に戻るな。いい子だ。
後は、朝まで誰も出入りしないことを確認するだけ。うたた寝しないように気を付けなきゃな。
テケの光で知恵の輪やルービックキューブで遊びながら、何度か欠伸を繰り返していると、朝がやってきた。腕を上に伸ばし、上半身だけ解す。鞄からサンドイッチを取り出し、齧りついた。
静かな夜だったなぁ。誰も出入りしなかったし、人も通らなかった。問題は、これを信じてくれるかどうかだな。
午前中、子供は一度も外に出てこずで、14時くらいに顔を見せた。すぐ裏庭に行かれたが、顔を見る限り今日も元気そうだった。
「おい」
下から小声で呼ばれたので顔を向けると、テケの光に頭を光らせているギルマスがいた。紙袋を抱えているから、計画通りお菓子を買ってきたのだろう。
静かに木から降り、姿勢を正して報告をする。
「子供とモモンガは、一度も門の外に出ていません。怪しい人物の出入りも確認できませんでした」
「裏とかはないか?」
はぁ? ないから、正門しか見張りをつけなかったんだよな。ギルマスが決めたことだろ。
「この物件を調べた際、裏門はありませんでしたので、もし塀を越えていたとしても、再び入るためには正門を通るしかありません。俺が見張りを始めてから、誰も正門を通っていませんよ」
「そうか……帰らないようにしているとかか……」
吐き出しそうになった息を、なんとか飲み込んだ。
「ギルマスは、何が何でもあの子を犯罪者に仕立て上げたいんですか?」
「なっ! そんなわけないだろ! 俺はこの街の人達を案じているだけだ!」
「すみません。言葉が過ぎました。でも、あの子の何がそんなに心配なんですか? ただの賢い子供じゃないですか?」
「いや、だから、あの子もだが、あのモモンガがな。人間っぽすぎないか?」
「犬や猫でも人間ぽいって、よく言われていますよ。言葉を理解しているって。モモンガも変わらないでしょ」
「そうだが……でもな……」
「それに、きちんと戸籍登録されているんでしょ。国に入る時のアリーズ(水晶の板)で、魔物って出なかったんですよね? フェレルさんにもあの子供にも犯罪歴はなかったんですよね?」
「そうだが……」
「そんな個人情報まで警ら隊に申請して調べているのに、ここまでする理由が俺には分からないんですよ」
「対象が子供だからって、カリカリし過ぎよ」
上機嫌な声が聞こえてきて横を見ると、笑顔のライティアさんがいた。今日も胸を強調する服を着ている。
「ライティア、昨日はどうだった? 変わりなかったか?」
「ええ、野営地で喧嘩はなかったし、のんびりとみんな過ごしていたわ」
「警戒はしといてほしいな」
「そう言わないでよ。1週間もずっとって疲れてしまうわ」
だから、交代するために大人数で行ったんじゃなかったか? と思うが、口を挟まない。最近Cランクに上がれたばかりだ。ギルドの2トップから嫌われては、ランクに響いてしまうかもしれない。
それに、気に入られているから危ない依頼じゃなく、こういう雑務でお金を稼げる。妹と弟を養っている身としては、可能なかぎり報酬がよく、危険が少ない仕事をこなしたい。
「そうだな。それと、フェレルはどうだった?」
「彼、すごいのよ! 本当に惚れちゃったわ! 私が忍び込んでキスしても、紳士的に断ったのよ! あんな男、他にいないわ!」
これ、わざと言ってんだったら性格悪いよなぁ。ギルマスが惚れてんの、誰だって一目で見抜くくらいだからな。
フェレルさん、断って正解だよ。ただ単にデカい胸に興味ないとかかもしれないけど、そもそも九尾の狐が来るかもしれない野営地でできるわけないよな。
「そ、そうか。じゃあ、坊主の様子でも確かめるか」
今日で終わるように願っとこう。
「坊主ー! 来たぞー! いないのかー!」
ん? 今日は1回で出てきたな。モモンガはどこだ? さっきは肩に居たよな?
「ギルド長さん、どうしたの?」
「お菓子買ってきたぞ。一緒に食べないか?」
「うーん……ううん、ごめんなさい。やっぱり門は開けられないの」
「そうか。じゃあ、これはやる。重たいから運んでやるよ」
「ううん。師匠がいっぱい買ってきてくれてるの。僕、そんなに食べられないから、それはギルド長さんが食べて」
「でもなぁ、坊主にと思って買ってきたんだ。あげたいから運ばせてくれ」
これ、俺の妹と弟がされてたら、気持ち悪すぎてブチ切れてるわ。フェレルさんも戻ってきて話聞いたら、抗議しに来そうだな。
子供が可愛らしく首を傾げて、「うーん」と何か悩んでいる。
「ねぇ、ギルド長さんは、どうしてそんなに中に入りたいの?」
「そ、それはだな、お菓子は重たいからで……」
「僕は師匠との約束を守りたいの。それに、どうしてギルド長さんは悪い人じゃないって言えるの?」
本当に賢いよな。顔見知りなだけで知り合いでも友人でもないんだから、当たり前の感想だよな。どうやってフェレルさんは、ここまで教育できたんだろ? やり方教えてくれないかな。
「俺は街の人達を守る仕事をしている。悪い奴じゃない」
「でも、優しい顔をして近付いてくる悪い人もいるからダメなの。師匠が居る時じゃないとダメなの」
ぐうの音も出ないよな。もう諦めて引くべきなんだよ。それなのに立ち去ろうとしないなんて、まだ何か言うのか?
「分かった。今日は帰るな。そういえば坊主、モモンガはいないのか?」
「リリはタオルに包まって寝てるよ」
「見てもいいか?」
「うーん、分かった。そっと連れてくるね」
「おい、待て! 見にい……行っちまったな」
うわっ。見るために家の中に入れてもらおうと思ったのか? 隣からは「可愛いし賢いから、フェレルに付いてきても問題なさそうね」って聞こえてくるし。吐きそう。
はぁ、俺、もう無理かも。どっか違う街に引っ越そうかな。この人らの下なんて、心が死ぬ。
明日の金曜日は2話投稿します。
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