20.誘拐だと!?
ルカくんと3回戦って3敗した私は、ブルーさんと交代をし、イエローさんに注いでもらったアップルジュースを飲んでいる。
美味しかね! 糖分が染み渡るね!
プハッと息を吐き出した時、門が開く音がした。フェレルさんが帰ってきたようだ。
「声が聞こえないってことは、家の中にいるのかな? ただいまー」
私は出迎えるべく、イエローさんとダイニングの方に向かった。
フェレルさんは一応飼い主の1人なのと、私のせいでご迷惑をかけてしまっているから、という理由が私にはあったからなんだけど……
イエローさん? フェレルさんと仲がいいと思ってましたが、出迎えで飛びつくほどでしたっけ?
って、あ、鞄ですか。きっとその中は食材がいっぱいなんでしょうね。フェレルさんも大笑いしているよ。
「この前より、たくさん買ってきたよ。私は明日から留守にするからね。もし足りなさそうだったら、午後から買いに行くから教えてくれるかい」
『任せろある! フェレルの弁当も作るあるよ』
ウキウキのイエローさんの言葉をフェレルさんに伝えると、フェレルさんはイエローさんに頬擦りをして喜んでいた。
あの人、昨日から頬擦りする回数多いな。捕まらないようにしないとだわ。私の頬はルカくんだけのものだからね。
「ルカラウカは寝ているのかい?」
「いいえ。隣の部屋で、ブルーさんとリバーシの対決中です」
「私も後で遊んでもらおうかな」
「グレーさんのお手製ですので、フェレルさんも驚かれると思いますよ」
「それは楽しみだね」
絶対に驚くよ。反応が楽しみ。
と、自分が作ったかのように胸を張っていた私だったが、なんとこの世界のボードゲームは、勝手に動くのが当たり前なんだと。逆に私が驚いたよね。
でも、何かに変身したり鳴いたりする石はないそうで、そこに関しては笑いながらも驚いていた。
「そういえば、フェレルさん。ギルド長さんのお話は大丈夫でしたか?」
ルカくんの一手を見ながら「ルカラウカは、本当に天才かもしれないね」と溢していたフェレルさんだったが、思い出したように「ああ」と私と会話をしてくれた。
「問題ないよ。どう思うか尋ねられたりはしたけれど、『素晴らしい方がいらっしゃるんですね』と私は驚くしかないからね」
「でも、まだ疑われてはいるんですよね?」
「疑っているというより、私であってほしいって感じだったかな」
言っている意味が分からなくてコテンと首を傾げると、フェレルさんは朗らかに笑いながら、人差し指で撫でてきた。
頬擦りは無理だが、頭を触るのは許してあげる。撫でられるの好きだし、フェレルさんも一応飼い主だからね。
「一昨日の一斉捕縛もだけれど、そいつらを殺されたことも、昨日新たに3件捕まえられたことも、全てが奇怪すぎて理解できないんだよ。凡人には考えを及ばすことができない大きな力が働いていて、自分達は今見張られているんじゃないだろうか、ってね。未知の何か、答えを持っていない現象については、誰しもが恐怖に震えるんじゃないかな。人って思いの外、想像力が豊かだからね」
「だから、フェレルさんが当人なら理由を尋ねられるし、正体が判っている分、想像上の化け物に怯えなくて済むってことですか」
「そういうこと。本当に悪人だけなのか、悪人からなのかって所も、知りたい点ではあるんじゃないかな」
ふむ。ってことは、怪盗みたいにカード残した方がいいのかな?
モモン・ガーは、モモンガとすぐに結び付いちゃうからダメだな。【悪い奴倒した・桃】とかなら大丈夫かな?
でもなぁ、ヒーロー気取りの模倣犯が現れても困るしなぁ。「桃だ」って名乗りでる偽物がいるかもだし。
って、自分自身で「桃だ」って言うのウケるな。親指で自分を指しながら、白い歯キッラーンさせて、「私が桃だ!」ってウインクまでつけちゃうの。ウケる。
「何を笑っているんだい?」
「んんっ。すみません。色々考えていたら、可笑しな方向にいってしまって」
てへって笑って、うやむやにしとこう。私、可愛いから誤魔化されてくれるでしょ。ほら、お腹を抱えて笑っている。ちょっと腹立つけど、チョロいぜ。
「あ、そうだ。ルカラウカにも伝えるんだけれど、リリには特に気を配ってほしいことがあるんだよ」
「なんですか?」
「ギルマスが教えてくれたんだけれど、ここ3ヶ月で姿を消す子供が増えたそうなんだよ」
「誘拐ですか!?」
ルカくんを何か何でも守らねば! こんなに可愛い子、すぐにロックオンされちゃう!
「路地裏とかで生活をしている子が数名、平民の子供が2名、行方知らずらしい。奴隷商が絡んでいるんじゃないかって調べているらしいんだけれど、何も見つかっていないそうだよ」
「奴隷商? 奴隷がいるんですか?」
「いるよ。戦争奴隷と借金奴隷だね」
マジですか!? 嘘でしょ! 本当に言ってる? こんなに発展している世界なのに、奴隷がいるの? あれ? というか、1つ足りなくない?
「あの、犯罪者は奴隷にはならないんですか?」
「そっか、リリは知らないよね。奴隷は使用人や従業員みたいなものだよ。最低限の生活とお給料は約束されるんだ。でも、主人の命令には背けないように魔法をかけられる。自分を買い戻せたら奴隷からは解放されるんだよ。だから、犯罪者は奴隷にはなれないんだ。軽罰で済む犯罪者は悪環境での強制労働だけれど、重罰になると二度と帰ってこられない監獄島に送られるんだよ」
ってことは、私が想像するような奴隷ではないってことか。
あー、ビックリした。異世界漫画とかである、獣人の奴隷を買っちゃうとか、あまりにもガリガリで可哀想だから助けちゃうとかはなさそうだわ。そもそも、私モモンガだから買えないしね。貴族に転生してたら踏むルートだったな。
「説明ありがとうございます。奴隷については、もう大丈夫です。理解しました。気になるのは行方不明の子供達なんですが、手かがりは何も無いんですか?」
「無いらしいよ。忽然といなくなってしまうそうだよ」
「あ! だから姿を見せずに、悪人達を倒している人も怪しく見えているんですね」
頷いたフェレルさんは褒めるように、また頭を撫でてきた。
「どんな手法を使っているのかは分からないけれど、家の中にいれば問題ないと思うんだよ。だから、私が居ない間は、誰が来ても門を開けてはいけないよ」
「分かりました。任せてください。絶対に開けませんし、門の外に出ません」
「頼んだよ、リリ」
自分で自分の張った胸を叩くという意気込みを見せたのに、フェレルさんはまたお腹を抱えて笑い出した。本当によく笑う人だ。
って、あぶな。もう少しで掴まれるところだった。舌打ちしてんじゃないよ。ルカくんの肩に逃げようっと。
「リリ、協力してくれるの?」
「私でよければいくらでも」
元気よく答えたが、ルカくんから相談されることはなく、ブルーさんが僅差で勝つという好ゲームを見守ったのだった。
明日も1話投稿します。
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