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モモンガ・リリの変なレンジャー魔法  作者: HILLA
サンリカ国 ウスリー・コモウェルの街
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17.世直しの仕方

乗合馬車に乗って帰ってきたフェレルさんの横に、レッドさんとブルーさんの姿があった。家の中に居なかったから、絶対について行ったと確信していた。自由に動いて上機嫌で帰ってくると思っていたのだが、どうして不満気に頬を膨らませているのだろうと不思議になる。


『リリ! フェレルがひどいぞ!』


出迎えた私へのレッドさんの第一声である。大声で『ジコジコ』と鳴いて怒っていらっしゃる。ルカくんは驚いて、お目目をまん丸にしているよ。そして、フェレルさんは苦笑い。本当に何があったの?


『どうされたんですか?』


『実はじゃな。レッドが戦闘不能にして、警ら隊が捕まえていた奴らが、昨夜殺されてしまってな。現場検証を手伝わされるフェレルに我々はついて行き、犯人を見つけたんじゃよ』


私の質問に答えてくれたのは、ブルーさんだ。ブルーさんも機嫌が悪そうだが、レッドさんみたいにプンスカプンではない。語尾強めだけど、まだ落ち着いている。


『なのに、フェレルは捕まえてはいけないって言った! わざわざ聞いてあげたのにダメだって言った!』


え? 聞いたの!? めっちゃ偉いじゃん! どうやったかは分かんないけど、勝手に捕まえなかったってことだよね?


言葉を挟んできたレッドさんに、ブルーさんも大きく頷いている。


でもさ、尋ねたってことは、「YES」でも「NO」でもどっちでもいいってことでしょ。選択権を相手に委ねているんだから、「いいよ」って言ってもらうための質問ってどうなの? って個人的には思うんだよね。フェレルさんからしたら、聞かれたから答えただけでさ。


だけど、いきなり捕まえるのはダメだと判断して、質問というか報告? 相談? したレッドさんとブルーさんの気遣いは褒めるべきだとも思うわけよ。


「フェレルさん。レッドさんとブルーさんが、許可してくれなかったって、フェレルさんに怒っているんです」


「ああ、やっぱりそのことだよね。弁明させてもらえるかな?」


「話されている内容はレンジャーの皆さんも分かりますので、どうぞお伝えください」


フェレルさんは、どうしてダメだと言ったのかを、2匹に説明しはじめた。


あの場で捕まえたら不自然で、別の問題が浮上すること。そうしたら、フェレルさんのことも疑われて、レンジャー達の存在がバレるかもしれないこと。バレてしまったら、今の生活を送るのは難しいことを。


2匹は『そんなことくらい理解している』と、まだプンプンしている。話しているフェレルさんは『ジコジコ』鳴かれても動じていない。


「レッドさん、ブルーさん。私の話は、まだ終わりではないよ。私は、あの場での捕縛は許可できないと示したんだよ」


ニヤッと笑ったフェレルさんに、怒っていたはずのレッドさんとブルーさんがキョトンとした。


あの顔、マジで可愛い。写真撮りたい。永久保存したい。


「レッドさんとブルーさんが倒すのは構わないんだよ。ただその疑いが、私やリリに向かないようにしたいんだ」


予想外の言葉が聞こえて、つい口を挟んでしまった。


「私ですか? レンジャーの皆さんが見つかっても、私に結びつかないと思いますけど。それに、その場で倒していても、フェレルさんだって何もしていない状態ですよね? それでも怪しまれるんですか?」


「それがね、リリ。ギルマスは、私達がこの国に来てから騒がしくなったって言っていたんだよ。だから、きっと私達のことを怪しむよ」


「へ? あの日だって、ものすっごく入国列が伸びていましたよね? 捌ききれないほどの人が入国しているのに、私達だけが怪しいっておかしくないですか?」


「んー、リリがモモンガっぽくないからかな」


はい? どこからどう見ても、可愛いモモンガにしか見えませんが? 話してないし、人前でご飯食べてないし。この世界、モモンガは珍しいとかなの? 滅多に見ないから怪しいって決め付け、よくないよねぇ。


「なんか人間っぽいんだよね。それも、私より年上っぽい」


マママジですか!? 隠しきれない人間味が出ちゃってるんですか!?


それだとしたら、本当に申し訳ない。なにせモモンガ人生もうすぐで2ヶ月でして、モモンガになりきれてないんですわ。


って、自分より年上って、どういう所からそう思ったんでしょ? お姉ちゃんムーブなんてしたかな?


「私は、まだ生まれたてのモモンガなんですが……知らないことも多いですし、街だって初めて来ましたしね。そんな私のせいで、フェレルさんまで疑われるのは申し訳ありません。でも、レッドさん達はヒーローですから、悪人を放っておくのは辛すぎると思うんですよ。だから、私としては、手の届く範囲でなら世直しをしてもらいたいと思っています」


「私も、レッドさん達から自由を奪いたいわけじゃないよ。好きにしてもらっていい。楽しくない日々なんて嫌じゃないか。自由な日々を過ごすために、何か手を考えないとってことだよ」


「私が人前で話したりしないのと同じですね」


「そうだね。珍しくて強い力なんて、みんな欲するからね」


ググ先生情報がなかったら、フェレルさんを「頼れる優しいお兄さん」って大好きになっているのにな。こんなにも考えてくれてるって感謝しかないし。


いや、感謝は、女好きだろうが、姉弟子との不倫を2回とも疑われて(それもう黒じゃね)離婚してようが、するべきだ。そう、どんな相手でも感謝はしよう。女にだらしない人でもだ。


私が「こいつ、女にだらしない。でも、いい奴」とどうでもいいことを思っている間に、フェレルさんは真面目に考えていてくれたようで「あ!」と声を漏らした。


ルカくんは、夕食の準備を始めたイエローさんのお手伝いをしている。ごめんね。早く話を終わらせて、私も手伝うからね。


「世直しをする件数を1日0件から3件として、夜中に行動してもらう。件数は、ルカラウカにくじで決めてもらおう」


「どうして件数を決めるんですか?」


「やり過ぎてしまうと、警ら隊の仕事を奪うことになるからね。それはよくないと思うんだよ」


「なるほど。悪人が勝手に捕まるとなると、目を光らせることが無くなるかもなんですね」


私達は、この街に留まるわけじゃない。ここには1ヶ月ほど滞在するだけだ。その間は平和でも、移動した後、警ら隊が腑抜けてしまっていたら、一気に住みにくい街になってしまう。レッドさん達だって、そんなこと望んでいないはずだ。


フェレルさん、めっちゃ考えてくれてる! ありがとうございます!


「捕まる件数が分からなかったら、警ら隊だって気を抜いたりしないだろうからね。それに、いくら私達が怪しかろうが、事件が解決する夜に出歩いていなかったら勘違いだって思うしかないからね」


「いい考えだと思います。レッドさん達、いかがでしょうか?」


『分かった』


『我も従おうぞ』


イエローさん達も頷いてくれていて、満場一致で世直しスケジュールが決定した。フェレルさんとレッドさん達も仲直りして、よかったよかった。


フェレルさんが2匹に頬擦りしながら、「嫌われなくてよかったよ」って溢していたけど、いつからそんなに好きになっていたの? そのうち、馬よりも好きな動物になりそうだね。モモンガが愛されるのは嬉しい。万歳。


ん? 夜の闇に紛れて悪党を倒すって……仕事人じゃん! ま、まぁ、あれもヒーローだから一緒だよね。いいと思う。


ただ私が知っているレンジャーと、どんどんかけ離れていっているような……


でも、どんなレンジャーだろうと、ヒーローなのは変わらないよね。私は大好きだよ。






明日も9時30分に1話、更新します。

ルカくんと遊ぶ回になります。


読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

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