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モモンガ・リリの変なレンジャー魔法  作者: HILLA
サンリカ国 ウスリー・コモウェルの街
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16.フェレル視点「ダメだよ」

「死体は半分くらい片付け済みだ。残りは作業中だな。それ以外は現状維持をしている。おかしな点があったら教えてくれ」


「お役に立てないと思いますが、気になる点があればお伝えいたします」


苦笑いを浮かべてから、手前の独房から順番に確認していく。


本来なら昨日買った本を読みながら、ルカラウカ達の楽しそうな声を聞いている午後だったのに、血生臭い建物で惨烈な現場を見ている。


旅の疲れを癒すために数日くらい穏やかな日を過ごさせてほしかったと、目の前の光景に切に願ってしまった。


怪しい点も、気になる箇所も見つけられない。ただただ惨たらしい惨状が、どこまでも続いているだけだ。どういう意図があって、これほど残虐に殺せたんだろうと不気味で仕方がない。


レッドさんとブルーさんが、さっきから血の匂いを嗅いでいるけれど、何かあるのかな?


そんな疑問だけが、目を背けずに観察できる力をくれている。


「24時間、警備の者がいるはずですよね? その人達は何も気付かなかったんですか?」


素朴な疑問だ。バラバラになっている死体まであるのだから、犯行に使った時間は短くないはず。見回りだってあるはずなのに、そんな時間をどうやって捻出させられたのかな? それに、殺された人達だって抵抗しただろうし、叫んだはずだよね。気付かないことなんてあるのかな?


「それが、全員眠らされていてな。朝、交代の隊員が来て発覚したんだ」


「全員? というと、捕まっていた人達もですか?」


「そうだ。建物内の囚人達は、ぐっすり眠っていた」


3階にいた囚人全員を選んでいる時点で、計画的犯行だと思っていたが、本当にそうだったとは。


となると、全員殺したかったのか、中の誰かを殺したくてそれを悟られないように全員殺したか、になる。


なんて考えてはみたが、私は探偵でも諜報員でもない。しがない植物学者なんだから、分かるはずがないよね。


全部を見終わったが、レッドさんとブルーさんの行動以外に、特に気になる点は無かった。


匂いを嗅ぎ回っていた2匹はというと、2匹で話し合いをし、レッドさんが代表して私の腕を叩いてきた。


なんだい? レッドさん。申し訳ないけれど、リリが居ないから君達が何を伝えたいのかが……ああ、なるほど。ジェスチャーしてくれるんだね。頑張るよ。


それで、えっと、レッドさんが、来て早々睨んでいた隊員を指して、次に自分を指した。そしてブルーさんが、レッドさんを縄でぐるぐる巻きにしている。倒れたレッドさんが起き上がって腕をクロスさせ、ブルーさんが頭の上で腕を輪っかに……帽子が邪魔でできていないけれど、きっと丸を作りたいんだろうね。2匹してジャンプをしている。


ルカラウカが教えてくれたことだが、腕をクロスはダメってことで、頭の上で丸を作るのはいいよってことらしいね。


だとすると、2匹は今、もしかして私に確認をしているのかな?


おや、もしかしなくても、あの男が犯人ってことかい? 捕まえてもいいかという確認かい?


私は、怪しまれないように首を横に振って、両の人差し指を使って「ダメだよ」と示した。


2匹から「両手で口を隠してよろける」というジェスチャーで悲しみを訴えられたが、可愛いからといって笑ってはいけない。絶対に変な目で見られてしまうからね。


それに今ここで、誰も何もしていないのに、隊員が捕縛されたら怪奇現象だよね。それはそれで、別の問題が浮上する。さっき疑いを晴らしたのに、またかけられてしまいそうだよ。


かと言って、私が捕まえようとして逃げられても困るし、捕まえてどうして分かったのかと問われても答えられないね。犯人は分かったのに、手詰まりだ。


さて、どうしたものか……


リリ達のことは、きっと歓迎されるだろう。特別褒賞だってあり得る。


でも、話題になることは決していいことではない。口止めしても、どこかで漏れるだろう。人の口とはそんなものだ。


そうなると、どっかの国が囲い込もうとするかもだし、貴族達が欲しいと言ってくるかもしれない。リリを売ろうとする奴らに狙われるかもしれない。今の楽しい生活が壊れてしまう可能性が高い。


ルカラウカは病んでしまうかもしれないし、リリだってルカラウカから離れたくなくて何をするか分からない。


あのモモンガは、自分の力を強力だと思っていないから困ったものだ。怒り任せに暴れたら、国1つ簡単に消えるだろう。


私自身も、日々面白いことがある今を奪われるのは阻止したい。


「奇妙すぎる事件ですね。しかし、私が謎に感じたものの答えは出ていますし、さっき質問したこと以外に気になる点はありません。お力になれず、申し訳ありません」


2匹から叩かれているが、今は引くだけだよ。きちんとギルマスにはヒントを残すし、君達には後から動いてもらうよ。平穏な生活のために許しておくれ。


「そうか、分かった。来てもらって悪かったな」


「いえいえ、白狐のことで聞いておきたいことがあったんです。少しお時間よろしいでしょうか?」


「いいぞ。この後はフェレルの感想を警ら隊の隊長に伝えて、会議をするだけだからな」


ギルマスに笑顔を返し、階段を共に下りていく。


玄関までやって来て、やっと話しかけた。もちろん声を潜めてだ。


「ギルマス、私の特技をお伝えします。私、人よりも鼻がいいんです」


「ん? そうか。それがどうした?」


「3階で警備をしていた、そばかすがある口が大きい男。あの男から、強烈に血の匂いがしました。もしかするとがあるかもしれませんので、伝えておきます」


見開いた目で勢いよく見られたので、微笑みながら頷いておいた。


これであの男は追尾されるだろうし、証拠が見つかれば捕まえられる。後は、警ら隊と冒険者ギルドの仕事だ。


レッドさんとブルーさんがずっと不服顔をしているから、家に帰ったら理由を話して謝らないとね。リリは私に構ってくれないから、話し相手になってくれるレンジャー達とは仲良くしていたい。


本当だよ。だってこの数日で、モモンガが馬と並んで、大好きな動物1位になっているのだから。


「では、私は帰らせていだきます」


「ああ。また何かあったらよろしくな」


もう呼ばないでほしいから、何も答えず、軽く頭を下げて監房を後にした。


今から帰れば、夕食に間に合いそうだね。ルカラウカとの約束を、守れそうでよかったよ。






来週は、木曜と金曜に1話ずつ更新します。


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