15.フェレル視点「私を心配してじゃないのかい?」
はぁ、どうして私が呼ばれるんだろうね。本当に意味が分からないよ。夕食までに帰られるだろうか。この男に問うても分からないだろうな。
ん? でも、そういえば……
「ロント君ですよね、名前。どうして私の家が分かったんですか?」
「名前合ってます。家は、副ギルマスが教えてくれましたよ。昨日受け付けで、話しませんでしたか? 」
ああ、狂花の虎を持って行った時に、根掘り葉掘り聞いてきたお胸さんか。胸が大きすぎて、顔を覚えていないなぁ。
理由付けぽかったけど、ヤーシェンの依頼で変更があったら連絡できるようにって、宿泊先を聞かれたんだったね。ヤーシェン以外の件で来ないでほしかったよ。
他に会話をすることがないので大人しく乗せてもらっていたら、バイクは冒険者ギルドではなく、警ら隊が管理・警備している監房に到着した。
本当にため息しか出てこないよ。
「え?」
瞬きしながら降り、目を擦るが、薄く見えているモモンガ2匹は消えない。
「どうしました?」
「スクモートで目が渇いてしまったみたいです」
「あー、すみません。ゴーグル、貸せばよかったですね」
「いえいえ、そこまでではありませんよ」
レッドさんとブルーさんだよね? レッドさんはキリッとした顔で親指立てているし、ブルーさんは自分で自分の胸を叩いているし……任せろってことかい?
「フェレルさん、こっちです」
ロント君に案内されながら、事件よりもレンジャー2匹が気になって仕方ない。
リリが心配をして?
いいや。あのモモンガは、ルカラウカのことにだけ熱意がある。私の心配などしないだろうね。寝ても覚めてもルカラウカのことばかりだから。
私としてはとても有り難いが、モモンガに頼りっぱなしでいいのかとも思っている。本当だよ。特に2人で話した夜に、忠言された言葉には耳が痛かったからね。
ルカラウカを脇によけて、物事を考えていたわけじゃない。本当に私が居なくなった場合を考えてのことだった。でも、心のどこかで「私もこれで師匠とマアラを探しに行けるかも」と思ったことも嘘ではない。
たぶん、それを見透かされてしまったんだろうね。愚かなことを考えたものだよ。リリに諌められて当然だ。
「おー、来てくれたか。呼び出してすまんな」
ギルマスが手をあげて笑顔で迎えてくれるが、そう思っているのなら一介の冒険者など呼ばないでほしいと思う。思うが、本音を言えるわけでもない。
「いえいえ、私も冒険者の端くれですからね。要請があれば伺いますよ」
「Aランクが謙虚なことだな」
笑いながら腕を強く叩かれ、こういうノリは苦手だと、ため息を吐きそうになる。
私は、不可思議なことに興味が湧くし、新発見には心が踊る。それ以外に楽しいことなんてほとんどない。だから、こういう社交辞令を交えての会話は、面倒臭くて仕方がない。
「あの、私の肩が何か?」
チラチラと肩を見られていて、首を傾げてしまった。レッドさんとブルーさんは、私の前を飛んでいる。肩ではないし、何より見えないはずだ。
「いや、なに。今日はモモンガは居ないのかと思ってな」
「あの子は子供のペットですからね。私の肩に乗ったことすらありませんよ」
あれ? 私、今、傷ついた? 自分の言葉で血を吐くかと思うほど、胸が痛くなるなんて思わなかったよ。
なるほど。どうやら私は、リリに肩に乗ってほしいようだ。帰ったらお願いをしてみようかな。
「そういえば本屋でお会いした時も、モモンガを気にされていたんですよね? うちの子がどうかしました?」
「いや、いいんだ。本当にペットみたいだからな。動物ならいいんだ」
何が言いたいのか閃いて、小さく笑ってしまった。
リリは、動きが妙に大人の人間っぽい。ルカラウカに対して子供を見守る母親のような顔をしているし、尻尾でルカラウカを撫でたり、ルカラウカにご飯・お風呂・歯磨き等々を促している感がある。
そのくせ大きな目を子供のように輝かせて、街を見たりしている。もしかして、本屋でも真剣に本を眺めていたんじゃないだろうか?
本当に全くもって、動物のようには見えないよね。そこが面白くて、一緒にいたいと思ってしまうんだよね。
「獣人が化けているでもなければ、魔物でもありませんよ。リリは鳴くことしかできませんから」
「あー、悪かったな。ついな」
「いえいえ、あの子は賢すぎて、私でさえ目を疑う時がありますから。気持ちは分かります」
「そう言ってもらえると有り難い。実は動物は好きでな。今度撫でさせてほしい」
んー、それはどうだろうか? 眉間に皺を寄せそうだけど、渋々了承してくれる? かも?
リリの苦い表情を想像して笑いそうになったが、ギルマスの言葉に気持ちを引き締めた。
「こんなことを頼んで悪いんだが、現場を見て意見を聞かさせてくれ」
「分かりました」
頷いたギルマスに案内をされて、上階に続く階段を上っていく。
「しかし、どうして私なんですか?」
「あー、いや、あのモモンガが魔物だった時を想定してな。もし、魔物を従えることが出来ているのなら、魔物の力を借りられないかという打算だ。それと杞憂もあった。フェレル達が来てから、この街は騒がしい。何か関係があるんじゃないかってな。これに関しては、まだ疑っている」
なるほど。疑心していることを伝えることで、牽制できたらってところだろうね。何にどう関わっているのか明白ではないから、目の届く範囲にいてほしいのかな。
ギルマスの考えは当たらずとも遠からずだから、さすがはギルマスなんだろうね。レッドさん達の行いは敵ではなく味方に近いから、レンジャー達を知ったら歓喜しそうだね。
レンジャーという言葉に馴染みがなくて、リリに説明をしてもらったら、英雄とほぼ同義だということが分かった。つまりは「悪を倒し、世界を救う者」という意味だ。
レンジャーの場合、それが人類限定ではないということだろう。白狐のこともあって、私はそう解釈している。
だから、冒険者ギルドや警ら隊とは、手を取り合えるとは思うんだけれど……
レッドさんとブルーさんが3階に着いてから、1人の隊員を狂花した魔物の形相のごとく睨んでいるんだよね。
これは、どういうことかな? 私を心配して、ついてきてくれたんだよね? 違うのかい?




