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モモンガ・リリの変なレンジャー魔法  作者: HILLA
サンリカ国 ウスリー・コモウェルの街
35/64

13.ハゲの正体

「ルカラウカ、ここにいたんだね。そちらの人は?」


「あ、師匠。この人は、リリがモモンガかどうか聞いてきたの」


分厚い本を数冊手に持っているフェレルさんが、少し足早にルカくんの隣までやってきた。


人相が悪い男が、「おっ」というような顔をフェレルさんに向けた。知り合いには見えないけど……


「あんた、昨日狂花の虎を持ってきた奴だな。違うか?」


「そうですけれど……昨日お会いしましたか?」


「俺は、職員から報告を受けただけだ。どうやって首を落としたのか聞きたいくらい、切り口が綺麗すぎるってな。それを優男がしたって言うんだから興味が湧いてな。一度会ってみたいと思っていたんだ」


シルバーさん、喜びそうだなぁ。あの一太刀、あざやかだったもんなぁ。


「冒険者ギルドの方ですか?」


「おっと、これは失礼した。俺は、ウスリーの街のギルドマスターをしているダンテラだ」


この人、偉い人なの!? どっちかって言うと、現役冒険者って言われた方がしっくりくるよ。


って、まだまだ冒険者としても動いているかもだもんね。ギルド長って書類仕事ばっかぽいっていうのは、偏見だよね。


「そうでしたか。私はフェレルと申します。あの虎はたまたまなんですよ。どうしてあんな風に仕留められたか覚えていないくらい無我夢中で。すみません」


「いや、いい、いい。俺のような立場の人間は、下の者を育成するために技術を披露したりするが、一介の冒険者は技を秘匿した方がいい。それが優れているのなら尚更だ。寝首をかかれると怖いからな」


なにそれ!? あいつの技は全部分かるし、金持ってそうだから襲っちまおうぜ! になるってこと? 治安悪すぎない?


「では、秘密ということで」


フェレルさん、意味深に笑ったら興味もたれても知らないよ。絶対、面白がっているよね。ほら、ギルド長さんも声上げて笑ってんじゃん。


「そういえば、白狐の警備の方に参加してくれるんだろ。頼りにしているよ」


「生き残りたいですから、努力いたします。ギルマスも参加されるんですか?」


「いいや。討伐組に入ろうと思ったが、副ギルド長に怒られてな。何回か警備の方に顔を出すくらいだ」


「では、またお会いするかもですね。その時はよろしくお願いいたし——


「ギルマス! いた!」


足音がこっちに向かっているなとは思っていたけど、ギルド長さんに用事だったのか。めっちゃ焦っているけど、事件じゃないよね? ヤーシェンが来たとかじゃないよね?


「ロント、どうした?」


「警ら隊から応援要請です。道端に倒れている人がいるって通報が、後を絶たないそうでして。しかも、ほとんどが指名手配の奴らなんだそうです。事情聴取や余罪の取り調べに協力してほしいとのことです」


私は、チラッとレッドさんを見やった。だって、分かりやすく胸を張られたから。


さっきから、ちょくちょく姿が見えない時があるなと思ってたけど……ブルーさんとグリーンさんが呆れていて、ピンクさんとイエローさんが笑っている。


これ、確定だ。どうやらレッドさんが、世直し出張をしていたようだ。


『(悪党がいない方が、ルカも過ごしやすいだろ)』


ごもっともだけどね。不思議現象がさ。色んな噂が飛び交いそうだよ。


まぁ、でも、天誅される人らの自業自得だし、平和になるならいいよね。ありがとう、レッドさん。さすがヒーロー。応援しています。


ルカくんとフェレルさんもドヤ顔のレッドさんに気付いたようで、2人は小さく笑い出した。


やめな。私みたいに無我の境地みたいにしとかないと、ギルド長さんとロントさんって人に変に思われるよ。


「そうか。じゃあ、白狐に関わらない奴らから選んで、応援に行ってもらうか。フェレル、白狐の件が落ち着いたら酒でも飲みに行こう。またな」


そんなことを言い残して、ギルド長さんは赤髪の男性と本屋から出て行った。


なんか瞳が怪しく光っていたような気がするけど、ロックオンされたのはフェレルさんだけだろうから、気にしないでおこう。大人同士、狐と狸の化かしあいを楽しむでしょ。


「ルカラウカ、欲しい本はあったかい?」


「師匠、本当にいいの?」


「ああ、好きなのを買おう」


「あの本を読んでみたい」


ルカくんが選んだのは、男の子と卵から生まれるドラゴンが描かれている絵本だった。


ファンタジーの世界でも、ファンタジー要素たっぷりの絵本が売られている。ファンタジーってすごい。


本屋を後にした私達は、カフェで一息つき、川沿いを散歩することにした。大きな川なので、運搬用に使われているそうだ。


向こう岸のコモウェルの街には、舟で渡って行くこともできるらしく、川岸に桟橋と数人用の舟が浮かんでいた。大きな橋も架かっているから、もちろん徒歩でも渡れる。


警護の仕事が無事に終わったら一度渡ってみようと、フェレルさんはルカくんと約束していた。ルカくんの笑顔に、余は満足じゃ。


それに、ウスリーもコモウェルも花が飾ってある街なので、歩いているだけで本当に楽しいしね。レッドさんが世直ししてくれたから、フェレルさんが居ない間も散歩してもいいかもなぁ。


なんて、自分がどんな世界にやってきたか忘れている私は、呑気に街歩きを楽しんでいたのだった。



私とルカくんが、疲れから早めに眠った21時頃。建物に挟まれているせいで月の明かりが届かない路地裏にて、怪しい男達が焦っていた。


「おい、どうする? 一旦帰って報告するか?」


「バカか。手足として使ってた奴らの半数近くが捕まったなんて、俺らが怒られるだろ」


「でもよ、どうして捕まったんだ?」


「しらねぇよ。あいつらがどうなろうが構わねぇが、子供の件を吐いちまったら終わりだ。何が何でも、あいつらを殺すぞ」


「そうだな。警ら隊の中にも、仲間を潜ませていてよかったよ。奴らに頼もう」


「ああ、急ぐぞ」


今夜も定位置から世界を照らしている光は、最後までその男達の姿を隠す影を作っていた。






読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

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