12.街を散策
ウスリーの街3日目。今日は私も8時に起きたよ。偉いでしょ。でも、フェレルさんとルカくんは7時に起きているみたいなので、もっと頑張らねば。朝ご飯を一緒に食べられないからね。
ぶどう1粒とバナナを食べ(低血糖にならないようにね)、グリーンさんにグレーさんを呼ぶように言われ、グレーさんに遊ぶ道具をたくさん作ってもらい、午前中いっぱいルカくんと庭で遊んだ。
そう、ピンクさんが綺麗にしてくれた庭には、グレーさん特製のジャングルジム・滑り台・ブランコが鎮座することになったのだ。
ルカくんは大はしゃぎだったけど、フェレルさんはポカンと口を開けた後、お腹を抱えて大笑いしていた。
一応「師匠さん、怒りませんかね?」と確認をとると、「師匠は嬉々として遊ぶよ」と返されたので、問題ないようで本当によかった。
お昼ご飯を食べ、ルカくんと1時間程お昼寝をして、フェレルさんの案内で街に繰り出した。
一緒に行くメンバーは、モモン・ガーの5匹みんなである。
厳選しようと思ったが、みんなから『行きたい』と言われて、フェレルさんと私は折れたのだ。
6匹中5匹はマントをしていて、日中に6匹のモモンガが起きているという光景は目立つだろうとのことで、ブルーさんの魔法でレンジャーの5匹は姿を隠している。私・ルカくん・フェレルさんには透けて見えている、という高性能魔法である。
ちなみに、私はルカくんの肩に乗っていて、5匹は普通に浮いている。
なにあれ、すごい。私もその力が欲しい。
『人、結構多いなぁ』
感想を思うよりも言いたい派の私。鳴き声で堂々と述べています。
「リリ、何か気になるの?」
『違いますよ。人が多いなぁと思って』
会話ができないのはお互い分かっているので、全く成り立たない会話に小さく笑い合った。
「ルカラウカ、あれがこの街の名物だよ」
「えっと、レットガだよね?」
「正解。生地自体は甘くないけれど、砂糖とバターを乗せたものは甘くて美味しいよ」
へー、あれがこの街の名物なのか。いい匂い。きっと美味しいんだろうな。
看板の絵からして、茶色いクレープっぽいけど、甘くないんだったらガレットなのかな? でも、見た目はクレープなんだよねぇ。
『(クレープあるよ。生地が甘いクレープは無いあるね)』
イエローさん! わざわざありがとうございます!
って、今、私の脳内に話しかけましたか? まさか念話できるんですか?
『(できるぞ。当たり前だろ)』
当たり前なんですか、レッドさん、そうですか。私、もう驚きませんよ。ちょっと遠い目しちゃうだけですよ。
と、イエローさんとレッドさんと心の中で話している間に、「食べるかい?」「お腹空いてないから大丈夫」という会話が終わっていた。なので、レットガ屋さんの前を通り過ぎる。
ん? なんか中で喧嘩してない? 何があったんだろ? ルカくんを巻き込みたくないから、早く去らなきゃね。
「師匠、あの飲み物はなに?」
ルカくんが、大人達がハイテーブルを囲い、立ちながら飲んでいる黄金色の飲み物を指した。
「ん? あれはパーシェだね。お酒だから、ルカラウカにはまだ無理だね」
頭の中でイエローさんの『ビールとレモンソーダを割ったものある』という声が響いた。
もうこれ、博物館とかのイヤホンで説明聴ける音声ガイドだ。お金払っていないのに、本当にありがとうございます。
んん? 何かがぶつかったような音が聞こえたけど、結構遠いから、ここは大丈夫かな。
モモンガは耳がいいからね。近くでおかしな音が聞こえた時は、ジェスチャーで離れるように伝えないとね。
「少し本屋に寄っていいかい?」
「うん」
「ルカラウカも欲しい本があったら買うよ」
本屋に入り、フェレルさんはすぐさま、専門書とかだろう分厚い本が並ぶ本棚の方に行ってしまった。
ルカくんはキョロキョロしながら店内を歩き、絵本コーナーを見つけ、真剣に吟味をしている。
絵本コーナーは分かりやすいように表紙を見せて並んでいるので、ルカくんが文字を読めなくても雰囲気で理解できるだろう。
賢い子だから、簡単な文字くらいは読めてそうだよね。
「おい、坊主」
低い声が聞こえ、ルカくんが横に向くと同時に私も顔を上げた。「おめぇが坊主だろ」と思う坊主頭の人相の悪い男が、腕を組んだ状態でルカくんを見下ろしている。
「おじさん、なに?」
「そのモモンガは、坊主のペットか?」
「うん、可愛いでしょ。リリだよ」
ルカくんの方が可愛いよぉ。撫でられて嬉しいから、尻尾で撫で返しちゃう。
「それ、本当にモモンガか?」
どこからどう見てもモモンガでしょ。意味不明で、ルカくんも首を傾げちゃうよね。分かるわー。
「うん、モモンガだよ。えっと、あ! 起きてるから?」
まぁまぁまぁ、なんて賢い子なんでしょ。後でいっぱい褒めてあげよう。
「いや、それもそうなんだが、なんていうかな。モモンガならいいんだ、モモンガなら」
この人、本当に何を言っているんだろう? でも、悪い人ではなさそうでよかった。見た目が怖い人って、どうしても疑ってしまうからさ。すまんかった。




