11.その話知っているかも
「狐の魔物であるヤーシェンは、仲間を傷付けられたら、必ず報復にやってくると言われているんだよ。1番新しい記録だと、50年程前に尻尾が9つあったヤーシェンが、1つの村を壊滅させたって残っていてね。村があった場所は、植物1つ育たなくなってしまっているらしい。その教訓から、狩りたいのなら必ずその場で殺すことになっているんだよ。
だから、もう少しでトドメを刺せそうとか言われて、ギルドでは大騒ぎになってね。先に見つけだして殺すか、報復に来られた所を戦うかで意見が割れて、両方の対策をってなったらしい。
で、私が狂花した虎を売っている時でね。Aランクだしってことで、参加させられることになったんだよ。討伐隊は明日の朝出発で、こっちに参加してほしいとお願いされたけれど、それは断ったんだ。私が居ない間の準備は、きちんとしておきたいからね。だから、警備の方になったんだよ」
九尾の狐って、天狐か空狐ってことだよね? 神様レベルの妖怪だよ。まぁ、この世界では、妖怪じゃなくて魔物だから神様レベルじゃないのかも。
ん? もしかして聖獣様なのかも? って、聖獣様って村1つ消せるの?
ううん、ググ先生に、そんなこと書いてなかったから違うか。この世界でも、狐の尻尾の数は強さに比例しているってだけだよ。
「その冒険者達は、どうなったんですか?」
「道案内として討伐隊に参加するけれど、ランクを1つ落とすことになるって言ってたよ」
九尾の狐が報復にくるかもしれないのに、それだけで済んだの? 冒険者資格を剥奪でも、よかったんじゃないかな。
まぁ、私が眠らせたから失敗した可能性も否めないけど。そもそも動物を虐めたのが悪いんだから、あいつらが悪い。
「フェレルさん的には、ヤーシェンは来てほしいですか?」
ルカくんが食べ終わったようで、イエローさんが小さいアイスをルカくんに配膳している。
いいな、私も食べたいな。それ。
「来てほしくないよ。怪我をしたくないし、九尾の狐が来たら、この街は消えてしまうからね。冒険者や警ら隊が束になっても、勝てないだろうね」
九尾の狐さん、そこまで強いの?! じゃあ、ちょっと言い出しにくかったこの話題、喜んでもらえると思う。よかった。
「仕事として向かうフェレルさんに、こんなことを言うのはアレなんですが……白狐さんは見つけられないし、報復にも来ないと思います」
「どうしてだい?」
「その白狐さんが襲われている時に、冒険者を眠らせたのが、私のお仲間のゴールドさんでして。いえ、ゴールドさんは、私のお願いを叶えてくださっただけです。私が、無意味な殺生をしようとしている冒険者達を許せなくてですね。眠ってもらったんです」
ん? なんか笑いを耐えてない? 今、笑うところあった?
「それで、怪我をしていた白狐、エンさんをホワイトさんに治してもらい、お話ししました。エンさんが仰るには、急に狐を狩られはじめて狐達は逃げたらしいんですが、逃げ遅れた狐がいたんだそうです。その子達を逃しに来られたのと、状況の確認に来ただけとのことでした。ですので、今から探しに行かれても見つからないだろうし、報復にも来られないと思います」
「報復に来ないという情報は有り難いけど……その話を聞いて、ヤーシェン達は怒らないのかな? 治っているとはいえ、仲間を傷付けられたんだよ」
「それはそうですね。では、もし来られた場合、怖くない方達でしたら、私が話し合いをしてみます。エンさんは、とても優しい白狐さんでしたから」
もう遠慮なく笑うじゃん。意味不明すぎて、私の提案取り消すぞ、こら。エンさんは話が通じる白狐だったけど、他の白狐達がそうとも限らないんだから。本当は、絶対に行きたくないんだからな。
まぁ、私が自分から関わってしまった件でもあるから、もしもの時はグリーンさんにお願いをして、結界を張ったままで行くようにしよう。
なんだかグリーンさんに、ものすっごく見られている気がするけど、気のせいだ、気のせい。
「ところでフェレルさん。どうして狐が、大量に狩られはじめたんでしょうか? その冒険者達って、どんな依頼を受けていたんですか?」
私の所にもアイス来たー! あ、アイスじゃなくて柑橘のシャーベットだ。お口の中、さっぱりさせるためにだよね。イエローさん、さすがだわー。
ん? 食べ終わったルカくんが座ったままってことは、もしかしてみんなが食べ終わるのは待っているのかも。フェレルさんにもシャーベットが配られたし、もうすぐで終わるからね。ごめんね。
「狐ねぇ。そんな依頼は、なさそうだったんだけどなぁ。その冒険者達は、最近ゴブリンをよく見かけるってことで、調査していただけだったみたいだからね」
「え? エンさんと狐3匹を、めっちゃ追いかけ回してましたよ。エンさんは、そいつらが攻撃してきたから、やもなくって感じでしたもん」
「うーん、別口で依頼でも受けていたのかなぁ? しかし、ギルドを通してじゃないと、受けたらダメなんだけれどなぁ」
「絶対ですか?」
「うん、そうだよ。実績は大切だし、金銭の不正がないようにね。任せたい人がいるのなら、指名できるようになっているしね」
「そうだとしたら、きな臭い冒険者達ですね」
「本当にね。でも、討伐と警備でグループは違うし、この件が過ぎれば関わることなんてないからね。気にしなくていいだろう」
だよねぇ。変な事に巻き込まれたくないもんな。
「リリ、『ごちそうさま』する?」
もしや、みんなと一緒に言いたくて待っていたとか?
あー、可愛い! 本当にその訳分からん奴らなんて、どうでもいいわ。ルカくんの事だけ考えていよう。
「はい、します」
「じゃあ、言うね」
「『ごちそうさまでした』」
レンジャーのみんなも一緒に合わせてくれて、ルカくんめちゃくちゃ嬉しそう。うんうん、一緒に何かするって楽しいよね。午後からは一緒に遊ぼうね。
午後は天気もいいからということで、ピンクさんが刈ってくれた草がない庭で遊ぶことにした。
私はルカくんと一緒に走り回るくらいだったけど、レッドさんはルカくんに高く投げてもらい、滑空してルカくんの手に戻るという高等技術で遊んでいた。
もちろん側で、ブルーさんとグリーンさんが見守ってくれている。
ピンクさんはまだ刈れていない草に取り掛かり、イエローさんはおやつの時間までフェレルさんと眠るそうだ。
おやつも夕食も美味しく、私はルカくんと22時には眠りについてしまったのだった。
ちなみに、フェレルさんはイエローさんにつまみを作ってもらい、レンジャー相手に晩酌をしていたそうだ。
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