10.一緒に食事をする理由
魔法を使っているからなのか、イエローさんの手際がよすぎるのかは分からないけど、10分程で目玉焼きが乗っているハンバーグが完成した。味はデミグラスソースである。
マッシュポテト・人参・ブロッコリーが添えられていて、野菜が角切りされたコンソメスープとパンがセットになっている。
私達用の目玉焼きも、黄身が真ん中・周りが白身という、完璧な丸い目玉焼きだった。
うずらより小さい卵ってあるんですね。ビックリです。というか、私達用って意味が分かりません。
『あの、皆様は、人間と同じ物を食べられるんですか?』
『もちろんよ』
『リリも食べられるからな』
『じゃないと、イエローは作らんだろ』
『まぁ、リリさん、知らなかったのね。驚いた顔も可愛いわよ』
ピンクさん、ありがとうございます。今ので心に受けた石化魔法は解かれました。
そっかー。食べられるのかー、そっかー。
うん、オーケーオーケー。今まで全部受け入れてきたじゃない。今もそのまま受け入れればいいのよ。私は何でも食べられる。めちゃくちゃ有り難いことなんだから、疑問に思う必要ないの。やったーっでいいの。
モモンガ用机の空いている席に着くと、ルカくんに首を傾げられた。
「このご飯は、リリ達も食べられるの?」
「あ、その、実はですね。私、普通のモモンガと違って、ルカくん達と同じ物を食べても大丈夫なんだそうです。今まで気を遣わせてしまい、すみませんでした」
「そうなんだ。これからは僕と分けっこできるね」
「まぁ、リリを普通のモモンガの括りにはできないからね。逆にしっくりくるよ」
ルカくんの感想だけ聞こえたことにしよう。私は普通のモモンガだもん。凄いのはレンジャー達だもん。
『食べようである!』
『『いただきます』』
あー、美味しいいいいいい! 久しぶりのお肉ー! ジュワッと出てくる肉汁がたまんない!
「ねぇ、リリ。今みんなで、掛け声を合わせたの?」
「はい。『いただきます』と言いました。命をくれた動植物や、食事に携わってくださって皆様への、感謝を込めた言葉ですね。ご飯を食べる前に言う習慣が、私にはあるんです」
今までも言っていたけど、小声だったから聞こえていなかったのかも。
前世の日本の習慣だから、ルカくんからすれば不思議なんだろうなぁ。確か、神様にお供えした物を食べる時や、目上の人から物をもらう時の「いただく」が語源だったはず。それが「いただきます」に変わったんだよね。
「そして、食べ終わった時は『ごちそうさま』って言いますね」
これは、昔は食材を集めるのが大変だったから、食事を出してもてなすために走らなければならなくて、大変な思いをして食事を用意してくれた方への感謝の意味がある。
今は手軽に揃えられるかもだけど、作ってくれる手間が存在するからね。感謝の言葉は必要である。
あ、これは個人的意見だけど、お店でも言っていいと私は思っている。仕事じゃんと言う人もいるかもだけど、食材の取り寄せや、その店の味を作ってくれているという手間は存在するのだから。仕事かもしれないけど、その人達がいるおかげで、自分で作らずにご飯を食べられるんだから有り難いよねって話。
「そうなんだ。僕も今日から言うね。『いただきます』」
フェレルさんも言ってる。まぁ、意味を知ったら、言った方がいいって思うよね。お腹空いたら美味しい物が食べられるって、この上なく幸せだもんね。感謝しかないもんね。
「僕、こんなに美味しいハンバーグ、初めて食べた」
「私もだ……パンもスープも美味しすぎるね……」
めっちゃ感動してる。フェレルさん、泣きそうになってない? 大丈夫? 「酒のつまみを作ってほしい」って聞こえているよ。それは自分で、イエローさんに相談してね。私が気にかけるのは、ルカくんだけだから。
お目目キラキラさせながら食べていて、ルカくんは可愛いったらありゃしない。これからは、好きな物をイエローさんに作ってもらおうね。いっぱい食べて、健康にすくすく育とうね。
『ふふふ。みんなで食べることにして、正解ねぇ』
『みんなで食べた方が、美味しいからな』
『大勢で食べるというスパイスは、大切あるね』
『我らが居れば寂しくなかろう』
『そうね。おやつも、みんなで食べないとね』
え? え? え? まさか、レンジャーの皆さん、今後ルカくんが1人で食べないでいいように、という配慮ですか? マジですか? どんだけ子供に寄り添えるヒーローなんですか? もう本当に頼らせていただきます。
5匹から自信満々の笑顔を向けられ、わざと『眩しい』と光を両手で遮るような格好をしたら、ルカくんに「リリ。食事の時は、遊んだらダメなんだよ」と注意されてしまった。
はい、ごめんなさい。私が悪かったです。
「そうだ、ルカラウカ、リリ。忘れないうちに伝えておくよ。来週、キャンプ有りの警備に参加することになってね。1週間程、留守にすることになる。食材はその前に買い足そうと思っているけれど、他に必要な物はあるかい?」
「ううん、僕は無いよ」
「私も特には思い当たりませんね」
「もし何かあったら、今週中に頼むよ」
「分かりました。その、1週間もかかる警備って、護衛か何かですか?」
フェレルさんは相当パンが気に入ったのか、4個目に突入している。
「街を守る警備だよ。1つの冒険者グループが、白狐を見たらしくてね。もう少しでトドメを刺せそうだったから、回復する前に仕留めに行きたいと、ギルドで騒いでいたんだ」
おや? その話って、私が知っているというか、関わっちゃったアレですか?
「本当に馬鹿だよねぇ。白狐の怖さを、何も分かっていないなんて」
コテンと首を傾げると、フェレルさんは説明をしてくれた。




