9.カレー……
門の方から足音が聞こえて、顔を上げた。
「ルカラウカ、ただいま。リリと外で何をしているんだい?」
フェレルさんが肩掛けバッグを2個持っているってことは、あの中全部食材なのかな? イエローさんが喜んでくれる。
「師匠、おかえりなさい。僕はリリを追っかけて、外に出たの」
フェレルさん、そんな「何したんだ?」って疑うような瞳を向けないでください。私は、窓からピンクさんに会いに行っただけです。
「裏庭の草を、ピンクさんが刈ってくださっているんです。私は挨拶に行っていただけですよ」
「それは、私からお礼を言わないとだね。そろそろ幽霊屋敷って呼ばれるかもって、気掛かりだったんだよ」
本当に? 昨日ググ先生に教えてもらってから、フェレルさん、さらっと嘘吐きそうな気がして仕方ないよ。女好きなだけであって、女の敵じゃないことを祈ってるよ。
『食材! 調味料!』
真下から、イエローさんの歓喜に満ちた声が聞こえてきた。覗き込むように見ると、ルカくんの腕にイエローさんがしがみついている。
いつ窓から飛んできたというのか。ルカくんもビックリしているからね。
まぁ、嬉しそうに目線の高さまで上げてイエローさんを見ているから、私以外が乗ってくれたことが嬉しいんだろうな。だから、ルカくんを見てあげて。私達に背中を向けないで。
目を点にしていたフェレルさんが、肩から下げているバッグを軽く叩いた。イエローさんが大きく2度頷いている。
「ふっ、ははははは。私は馬が1番好きだったんだけれど、モモンガが1番になりそうだよ」
いや、そこは1番好きになったって言うところ。皆さん、人語を話せはしないけど、理解しているからね。
「リリ。僕はモモンガが、1番だいっ好きだよ」
ふわー、ルカくん。そんな言葉を、こんなにいいタイミングで囁くなんて! 7歳にして、モモンガの乙女心を鷲掴みにしたよ! すっごいスキル持ってるね!
ルカくんの腕からフェレルさんの鞄に飛び移ったイエローさんを、フェレルさんが微笑みながら撫でている。
「イエローさん、お昼ご飯楽しみにしているよ」
『頬っぺた落としてやるある』
「さぁ、家の中に入ろうか」
フェレルさんに促されて、私達は家の中に入った。
ダイニングテーブルでは、ブルーさんとグリーンさんが醤油皿みたいな小さなお皿で水を飲んでいて、その横でレッドさんは素振りをしていた。
私とイエローさんもテーブルに移り、と言っても、イエローさんは鞄から出てくる食材達を魔法で仕分けし始めた。食材や調味料が躍るように空中を移動しているから、ルカくんが夢中で見ている。
『ブルーさん。もしかしなくても、皆さん、魔法を使えるんですか?』
『そうじゃ。浮遊・身体強化は皆使えるのう。後は、役割りに合った魔法のみじゃ。我のようなエキスパートではないな』
ん? おじいちゃんキャラというより、手の甲に星描いちゃうような厨二病キャラですか? ですよね? 個性豊かでいいと思います。
『リリ、グレーを呼んでくれるかしら』
グリーンさん、構いませんが、何を造ってもらうんでしょう?
『モモン・ガー、グレー。お願いします』
グレーさんは音もなく現れ、『プクプク(賑やかだな)』と大笑いしている。そんなグレーさんにグリーンさんが耳打ちし、ニッと笑ったグレーさんはキッチンの窓から出て行ってしまった。そして、すぐに戻ってきたと思ったら、3枚の板を使って、ものの数秒でコの字型の低めの棚を作って『プクプク(楽しめよ)』と消えた。しかも、伝えていないのに、爪研ぎも作ってくれている。できる雄は違う。
楽しむ? あの棚の上で踊ればいいのかな? お立ち台ってことだよね?
『違うわよ。私達が食事をする机よ』
『しかし、グレーめ。食器類を忘れておる』
『本当だわ。リリ、もう一度呼んでくれるかしら』
あ、はい。私ができるのってそれしかないので、いくらでも協力いたします。
私には全容がよく分からないけど、もう一度呼ばれたグレーさんは苦笑いをしながら『ワンワン(すまんすまん)』と、あっという間に食器類を作って消えた。ミニチュアの人形達用の巧みに作れた食器。あの、再現が素晴らしい食器達と遜色ない食器が並んでいる。
『リリ、ルカに食べさせたい物ってあるか?』
食材を片付け終わっただろうイエローさんに声をかけられた。この部屋の中で、誰よりも状況の整理ができていないだろう私が溢す言葉なんて1つしかない。
『カレー……』
『うむむむ。悪いが、香辛料が足りなくて無理ある。他のを頼むある』
『えーっと、では、ルカくんが食べやすい物をお願いします』
『任されたある!』
ウキウキのイエローさんと話して、落ち着いてきた。
私、丸齧りしてたけど、スプーンやフォーク、お箸を使った方がよかったのね。お水もコップで飲んだ方がよかったのね。
そっかぁ、人間の時と同じようにマナーが必要だったかぁ。
へー、そっかー。
めちゃくちゃいい匂いしてきた。お腹空いたな。
あ、ピンクさんおかえりなさい。ご飯の時間だから戻って来られたんですね。お昼休憩大切です。
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